川越から世界へ羽ばたくクラフトビール「COEDO」。地ビールからの脱却で勝負をかけた2代目の挑戦

蔵造りの商家が並ぶ街、埼玉・川越。その風情ある街は「小江戸」と呼ばれ、多くの観光客が訪れています。

その川越でクラフトビール「COEDO」を生み出したのが、協同商事2代目社長の朝霧重治さんです。「COEDO」はアメリカやドイツで開催されている世界的なビールの品評会でも受賞、日本のみならず世界中から人気を集めています。

先代の「食べ物は安全でおいしいものを」「日本の農業を少しでもよくしたい」という理念を継承しながらも、2代目として新たなチャレンジを続ける朝霧さんにお話をうかがいました。

アグリビジネスの可能性を感じて転身

協同商事 コエドブルワリー 代表取締役 朝霧重治さん

川越生まれ川越育ちの朝霧さん。大学卒業後は、大手重工メーカーに入社しましたが、社会人1年目の時に、彼女(現在の奥様)の父親である初代社長に「協同商事に来てほしい」と誘いを受けたそうです。

朝霧さん「ずっと会社員をするつもりはなく、いずれは自分でビジネスをしたいと思っていました。アグリビジネスのベンチャー企業である協同商事に可能性を感じ、1998年に入社しました」

協同商事は、有機栽培の農産物の物流や販売を手がける企業として、1982年に創業。様々な部署で経験を積んだ朝霧さんは、2003年に副社長となりました。

副社長になって知った経営状態、ビール事業の軌道修正

“地ビールブーム”が起こり、各地でご当地ビールが登場した1990年代。協同商事は、連作障害対策で栽培されていた地場の麦から着想し、規制緩和以前から事業化を検討していた、「COEDO」の前身となる「小江戸ブルワリー」を1996年に川越に創立しました。規格外で大量に廃棄されていた川越のさつま芋を使い、「さつまいもラガー」として川越の特産品となりました。

しかし、そのころ登場した地ビールは、味を二の次に未熟な醸造技術のまま作られたものが多く、「地ビールは値段が高い割においしくない」という認識が世間で広がり、ブームは衰退。設備投資をした地ビールの収益も落ち込み、副社長になって会社の経営状態を知った朝霧さんは、事業の取捨選択をする抜本的な改革が必要だと感じたといいます。

朝霧さん「やらないことを決めることが重要だと思い、自転車操業で続けていた複数の事業を撤退しました。しかし、ビール事業には可能性を感じていたので、従来のやり方ではなく軌道修正をして継続することにしたんです。

地ビールとして売り出すと、土産物として扱われてしまう。2000年ごろから『プレミアム』という本物志向が広がりはじめたこともあり、『毎日飲みたくなる “クラフトビール”』へとビールの方向性を変更することにしました」

地ビールではなく、クラフトビールへ

「ビール職人が作るプレミアムなビール、本物のクラフトビールを身近な存在にしてもらいたい」という思いから、様々な改革をした朝霧さん。まずは社内の士気を高めるため、「地ビール」というカテゴリーから離れることを宣言しました。

朝霧さん「当時、ビールは大手メーカーでないと売れないという意識が社会で蔓延していました。だけどオーガニックや高品質なものが求められる時代に向けて、『ウチのこだわりと丁寧な職人の技があるからこそ、作れるビールがある』と社員に説明し続けました。

副社長になって意識したのはリードしていくこと。ビジョンを提示し、その理由をきちんと社員に伝えるようにしました。地ビールではなくクラフトビールと銘打つことで、いままでとは違う、本物志向のビールを目指したいと思ったのです」

川越だからこそ生産できる、芋へのこだわり

地ビールをやめ、クラフトマンシップで作り上げるクラフトビールを展開すると決意した朝霧さん。しかし、さつま芋を使ったビールは残すことにしました。そんな朝霧さんに、社員からある疑問の声が上がりました。「芋ビールと呼ばれ、地元でも『どうせ観光客向けの土産物』と際物扱いされているビールをなぜ残すのか」と。そんな声に、朝霧さんは真摯に向き合っていったそうです。

朝霧さん「我々のオリジナリティーを生かすべきだと伝えました。日本にはさつま芋を原料した芋焼酎があります。芋を原料にしたお酒は日本独自のもの。しかも、さつま芋を世界で初めてビールの原料に使用したのは協同商事です。地元のさつま芋を使用していて、地域に根差した活動でした。芋を活かしたビールは、『農業を良くしたい』という会社の理念にも合致していたため、より大事にしたいと思いました」

また、学生の頃から海外で旅をしてきた朝霧さんは、各国のパブやビアホールでの情景を思い描いたといいます。

朝霧さん「ヨーロッパの方では、昼夜を問わずゆっくりと楽しくビールを飲む人であふれています。その陽気で心地良い雰囲気を、ぜひ日本でも味わってもらいたい。日常に溶け込むクラフトビールを作りたいと思うようになりました」

まず、地ビールの垢抜けないメージを払拭するため、商品名を「小江戸ブルワリー」から「COEDO」に変更。さらに海外への展開も視野に入れ、ロゴやパッケージを一新させ、スタイリッシュなデザインにしました。そうして新しく生まれかわった協同商事のクラフトビール「COEDO」は、定番商品5種をそろえて2006年に誕生しました(現在は全6種)。

時代にもとめられた本物のクラフトビールが躍進

埼玉県東松山市にあった施設を買い取り、建物の形状をそのまま生かし、2016年に工場を移転

かつて「芋ビール」とバカにされた地ビールは、「COEDO 紅赤」と名称を変え、品質も改良。そのほかに厳選した麦を使った「COEDO 瑠璃」や「COEDO 伽羅」など、色の名前を起用したジャパニーズクラフトビール「COEDO」は、瞬く間に注目を浴びるようになりました。

2007年の酒類・食品のコンテスト「モンドセレクション」では、「COEDO 紅赤」とピルスナータイプの「COEDO 瑠璃」が最高金賞に、「COEDO 伽羅」が金賞、長期熟成の「COEDO 漆黒」と無濾過ビールの「COEDO 白」が銀賞と、見事に全商品が受賞したのです。

朝霧さん「サントリーの『ザ・プレミアム・モルツ』やサッポロビールの『ヱビスビール』など、高品質なビールが市場でも出回るようになり、本物を味わいたいという意識が高まっていたころでした。

味はもちろん、製造工程からお客様の手に届くまで、最高のユーザー体験を想定したことで、いままでの想いやストーリーを語ることができる。『手作りで丁寧に作られた上質なもの』を誰もが求めているのだと実感しました」

農業とクラフトビールの融合

欧州最大のビール品評会「ヨーロピアンビアスター」で金賞を受賞した際のトロフィー

今や20カ国以上で展開しており、様々な賞を受賞している「COEDO」。今後はより農業と関わる事業を展開していきたいと朝霧さんはいいます。

朝霧さん「さつま芋だけでなく、地元産の麦をビールの原料にできたらと、自社で麦栽培の準備を進めています。創業当時から有機栽培の農産物を扱っている当社にとって、農業とビール作りを組み合わせることは、さらなるオリジナリティーに繫がると考えています」

「ワールドビアカップ2018」でも銀賞を受賞

地域の個性を生かし、オーガニックやクラフトマンシップといった本物を追求し続けている協同商事。地域から日本、日本から世界へと、今後の展開にも期待が高まります。

協同商事 HP

COEDO HP

文・久保田亜希

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