事業承継ストーリー

「和菓子の魅力を広めたい」茨城県の老舗和菓子店「御菓子司風月堂」が70年の時を経て法人化

茨城県日立市にある老舗の和菓子店「御菓子司 風月堂」の3代目である藤田浩一さんは2020年9月に家業を承継してから、「和菓子を通して日本文化を再認識してもらう」というビジョンを掲げながら活動しています。

地域内に愛される和菓子店として地位を確立していましたが、現在は和菓子の魅力を広めるために店舗運営以外にも活動の幅を広げています。

今回は和菓子を通して日本の文化的価値を認めてもらうための活動をしている藤田浩一さんにお話を伺ってみました。

「跡取りがいて良かったね!」和菓子店を継ぐことをぼんやり考えていた幼少期

浩一さんは現在、和菓子を通して幅広く活動されていますが、明確に「自分が継ぐ」というビジョンがあったわけではなかったようです。

子供の時、先代のお父様に連れられて色々なところへ回った浩一さん。取引先の人などから「跡取りがいて良かったね!」と言われてきたことから、幼心ながらに「お店を継ぐのが当たり前なんだろうな」とぼんやりと考えていたと言います。

しかし跡継ぎの話はお父様からは一切無かったそうで、実際に浩一さんも一時期は別の職業に就こうと考えたこともありました。

浩一さん「高校の頃はSEとかプログラマーを目指すために情報処理を学んでいました。けどやっていくうちに自分には向いていないんじゃないか、と感じて挫折しました。

次の進路について考えていた時…「お菓子の専門学校だったら東京に行ってもいいよ!」と母親に言われました。東京に行けるってだけで良かったので二つ返事で了承しました

製菓の専門学校を卒業してからは実家を継ぐことを見据えて、神奈川の和菓子店で5年間修行しました。しかし帰ってきてから承継までに、浩一さんは大きな壁にぶつかってしまいます。

「ただ和菓子を作っているだけだった」実家に帰って気づいた自分の課題

現在は3代目として店舗運営に限らずさまざまな活動をしている浩一さんですが、神奈川での修行を終えて実家に帰ってから事業を承継するまでの道のりは険しかったと言います。

浩一さん「父と一緒に仕事をしているうちに、まず自分が『自分中心の考えで何も学ぼうとせず、周りの人達のことを考えずにただ作っているだけだ』ということに気づかされました。

実際に先代の父から「このままだと独り立ち出来ないぞ。」と言われたことがありましたし…30歳になる頃には「何のために帰ってきたのか、考えながら過ごしていました」

自分の意志でお店や和菓子をどうしたいかが分からずに悩みを抱えながら働いていたそうです。

風月堂の3代目、藤田浩一さん

転機となったのは勉強のために通っていた外部のセミナー。そこでの学びを重ねていくうちに「自分の選択は間違っていなかった」と確信できるようになりました。実家を継ぐ事への確信を得た浩一さんは一層お菓子と向き合えるようになります。

それからの浩一さんは今まで以上にいろんなことを吸収して腕を磨き、新商品を開発して売上を上げて実績を出したことで、先代である父から認められて承継に至りました。

先代の反対にも屈さず、活動の幅を広げるために承継とともに法人化

浩一さんは店舗運営以外にも和菓子作りの体験教室を実施したり、お家でも気軽に作れるドラ焼きキットを作成したり、ICOM世界博物館会議にて日本の和菓子店として唯一参加を果たしたりと、和菓子を身近に感じてもらうべくさまざまな活動をしています。

承継をきっかけに、それまでは個人事業として運営していた店舗を法人化することに。法人化の理由は浩一さんの活動の幅を広げるためです。

浩一さん「承継前に知人からの紹介でイベントの実演で手伝ってもらえないか、と言われたのですが、法人ではないことを理由にやんわりと断られてしまって。和菓子の活動をするためにはこれからは法人化をする必要があるのではないかと」

社会的信用の無さを理由にイベントに関われなかったことから、創業70年の中で始めて法人化を決断します。

ところがこれまで個人事業でやってきた先代のお父様は「必要無い」と反対。自分自身が個人事業でやってこれた経験と、法人化する上で掛かる諸々の費用の点で意見が合わなかったそうです。

最終的には税理士さんに相談して「法人化しても問題なし」とお墨付きを添えた上で、法人化を先代のお父様に認めてもらいます。

「御菓子司 風月堂といえば○○」と思ってもらえるように

これまで地域に根差していたところから外に出て積極的に活動してきた浩一さん。承継してからは活動の幅だけでなく、商品の見せ方も大きく変えました。

先代のお父様は『お客様に選んでもらう楽しさを知ってほしい』という想いから特定の商品を推さなかったところを、浩一さんが承継してからは食べてほしい商品を全面的に押し出す方向性に。

浩一さん「お客様に選んでもらうと言っても、うちのラインナップは120点もある。普通の和菓子店が30点程度であることを考えると、選ぶの大変だし、看板商品が埋もれてしまうなと。

『あの店に行ったらこれがおいしい』と覚えてもらえるように、父が開発して30年以上売れ続けている『かまくら大福』のバリエーションを増やしてみるなどして、工夫しています」

御菓子司 風月堂の看板商品「かまくら大福」

実際にかまくら大福を始めとした人気商品を押し出してみたことで「この商品美味しかった!」と言っていただけたり、「こんな味を食べてみたい」とリクエストをいただいたりと、お客様とのコミュニケーションが増えたと言います。

ビジョンは和菓子で日本の文化的価値を再認識してもらうこと

承継を終えて3代目となった浩一さんのビジョンは和菓子を通して日本の文化的な価値を再認識してもらうこと。そのために今抱えている課題を伺ってみました。

浩一さん「和菓子の文化的な価値を認めてもらって『少し値が張っても買う価値がある』風潮を作ることですね。和菓子業界はまだまだ値上げ=悪だと思っている風潮があります。

けど利益が取れないと生産者にお金が回らないので潰れてしまい、お客さんが美味しいと言ってくれるお菓子でさえ作れなくなってしまう。

生産者を始め和菓子に関わる人にお金が回るようにするために、和菓子の文化的な価値を認めてもらう必要があると思っています」

和菓子の魅力を知ってもらえれば少しばかり値が張っても買いたい人が出てくる、というのが浩一さんの価値観。これは先代のお父様が持っている「高いとお菓子は買わない」という価値観とは真逆だそうです。

実際に浩一さんが開発した商品を今までよりも少し高い値段に設定にして販売してみたところ、十分な利益が上がったそうです。

「新しい商品は常に考えておけ」というのが先代のお父様から教わったこと。お客様に飽きられないように商品開発は非常に積極的に行っています。

浩一さんの開発した商品「栗蒸し羊羹」

商品開発をする際は、和菓子の本質を押さえつつ、できるだけトレンドに沿った和菓子を作ることを意識されてるそうです。

最近では「同じ市内で美味しいコーヒーを焙煎しているところがある」ことから地元のコーヒー屋さんとコラボしてコーヒーに合う羊羹を開発。『御菓子司 風月堂』の主力商品となっています。

和菓子の文化的価値を高めて多くの人に手に取ってもらうために、浩一さんは今日も和菓子を作ります。

文:土田 嵩久

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