飲食業未経験から小料理屋の女将を承継。たどり着いた「自分なりのルール」

神奈川県横浜市の馬車道に店をかまえる、小料理屋ほおづき。ほおづきは神奈川の地酒(日本酒)を揃えることを売りにしているお店です。

先代女将からお店を引き継いだのは、2代目女将の小野寺志保さん。小野寺さんが「ほおづき」をを継いだ時、飲食業については全くの未経験でした。どうして小野寺さんはお店を引き継ぎ、ほおづきを日本酒通にも知られるようなお店にしていったのでしょうか。

小野寺さんにお話を伺ってきました。

飲食業未経験、仲間に背中を押されて店を継ぐことに

もともと小野寺志保さんは「ほおづき」の常連で、先代の女将さんとは顔見知りでした。

小野寺さん「先代がお店を引き継いでくれる人を探している時に、顔なじみだったので、友人と一緒に後継者探しを手伝っていました。なので、私自身がもともとお店を引き継ぐつもりはありませんでした。

だけど飲食業をやっている知人の何人かに声がけをしても、後継者探しは思うように進まなかったんです。『神奈川の日本酒しばりでは難しい』など、良い返事をしてくださる方は見つかりませんでした。結果的に仲間から何度も後押しされたことがきっかけでチャレンジすることを決め、飲食業未経験の私がこのお店を継ぐことになりました。未経験だったから素直に飛び込めたのかもしれないですね」

先代の想いとアイデアが詰まったお店

小野寺さんがほおづきを引き継ぐにあたって一番気がかりなことがありました。それは小野寺さんに飲食業の経験が全くないことでした。

小野寺さん「私がこのお店をやると決めたとき、先代の女将さんが二ヶ月ぐらいお客さんをつないでくれたりなど、引き継ぎをいろいろしてくださったんです。お店がそのままの形で残ることについて、すごく期待していただきました。ほおづきはその先代の女将がすごく想いを入れて作ったお店なんです」

「小料理屋ほおづき」は先代の女将さんが約4年間、ご自身の想いを込めて作ったお店。実際に仕事をするにあたっては、すごく使い勝手も良いお店になっているそうです。

小野寺さん「このお店はアイデア満載で、たとえば厨房がお店のスペースにしては他のお店よりも広くて、来てくれた方全員が厨房の使い勝手を褒めてくれます。また、カウンターにあるお燗器も画期的なアイデアです。お燗器をカウンターに埋め込むというアイデアに、来てくださった方は驚かれます。先代のアイデアが詰まった店内は、よそのお店と差別化するポイントのひとつです」

先代から学んだ、お客様との向き合い方

実際にお店を事業承継した後には、飲食店を継いだが故の苦労があったと言います。

小野寺さん「実際に継いでからは、先代と無意識にお客様に比べられることはありました。飲食業はお店をやっている人(ここでは女将)にお客様が付くものなので、お店を継いだときが100だとしたら、2割ぐらいが当時からのお客様として残っています。あとの8割はお店をやっているなかで来てくださっているお客様だと思います。

新たに来てくださるお客様は口コミだったり、お店の周りは会社が多いので、会社の人と来てくれて、そこで気に入ってくれた結果、また来てくれたり、その方がまたお客様を連れてきてくれたり、そういう感じで拡がってますね。たまにメディアに紹介されたりすることもあるので、それを見て来てくださる方もいます」

小野寺さんはお客様と向き合う中で決めているルールがあるそうです。そしてそのルールはある意味で、今の状況にマッチしているものなのかもしれません。

小野寺さん「先代の女将から学んだのは、お客様とは対等な立場で媚びることなく振る舞うこと。仕事中にカウンターの中で、お酒をいただくことはありません。そうやってお客様と対等な関係で、7年間きちんと付き合っていくと、自然とお店に合ったお客様がいらしてくださります。

だからダメなことはダメだとはっきり言います。今の時期だったらコロナのこともあるので、例えば客席がうるさくなると静かにしてとか、マスクしてとちゃんと言えるような関係性を意識しています」

全国で例のない、神奈川全ての地酒が飲める小料理屋

もちろん苦労だけではなく、承継後に見つけた仕事のやりがいは、小料理屋ほおづきの目玉になっていきました。

小野寺さん「先代の女将のときは、神奈川の蔵の日本酒を8蔵分入れていたんですが、引き継いでからは神奈川県の全蔵をコンプリートしようと思いました。そのために蔵元さんに直接足を運び、神奈川にある日本酒の13蔵がすべて揃っています。

日本全国探しても、神奈川にあるすべての蔵の日本酒を、これだけの数揃えているところは、ほおづきしかありません。それをいかにお客様に伝えて、お店を好きになってもらうか。そうするとまたこのお店にも来てもらえるし、神奈川の日本酒や蔵も知ってもらえます。みんなに知ってもらえること、そこが一番楽しいかな。お客様たちと一緒に蔵へ行くこともあります」

実際に直接神奈川の蔵へ足を運ぶことに意味があると小野寺さんは語ります。

小野寺さん「電話やメールだけじゃなくて、顔を合わせて話をすることが大切です。どんなところでも人と人とのつながりが大切だとずっと思って来たので、神奈川の蔵元さんにもなるべく何度も足を運ぶようにしています。そうすると信頼関係も生まれてくるので、その関係性を構築することもやりがいになってますね」

飲食業も他の仕事も基本的なものは何も変わらない

実際に事業承継をしてから数年が経って、学んだことがあると小野寺さんは言います。それはある種どんな仕事にも共通する普遍的なものでした。

小野寺さん「はじめは飲食関係は出来ないと決めつけていたので、お店を継いでからの1〜2年はいろんな苦労がありました。でもお店をやってみて、人と人との繋がり・信頼関係は、お客様とも業者さんとも変わらないんだなって。だから何事もどんな仕事でも基本的なものは変わらないことを認識しました。

仕事の基本は人だと思います。先代の女将が「じゃあ。あなたなら」と言ってくれて、そのままの形でお店を継ぎ、神奈川の8つの蔵もちゃんと紹介してくれました。最初は先代のカラーを変えずにお店を始めて、試行錯誤しながら三年目ぐらいから段々と自分のカラーを出し始めましたね」

自分なりのルールを作ることで、愛されるお店に育っていった

小野寺さんはお客様に育ててもらってきたお店かも知れないと語る一方で、ほおづきのお店らしさとしての「神奈川の日本酒しばり」については、事業承継してからも徹底されています。

小野寺さん「神奈川の日本酒しばりにしているのが大きな売りになっています。出身が宮城なんで、よく『週替りで宮城のお酒を置いたら』と言われるんですけど、それをすると崩れちゃう気がしていて、他県のお酒を出す時は、振る舞い酒で出すんですよね。お金をいただくのは神奈川の日本酒だけと、自分のルールを作ってます」

先代が残してくれたアイデアと、小野寺さんが試行錯誤しながらアップデートした神奈川しばりの日本酒のコンプリート。そしてお客様が育ててくれたお店。いろんなものがブレンドされた結果、愛されるお店として今日も横浜の地でほおづきは営業しています。

 

文:望月大作

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