事業承継ストーリー

「家業を継ぐ」より「家業を伸ばす」考え方。父のイズムを受け継ぐ息子たち

クライアントから依頼されたシャツやユニフォームにプリント加工を施す「ICHINOSAI(有限会社ぬまくら)」(秋田県湯沢市)。3代目の沼倉佑亮(ぬまくらゆうすけ)さんと弟の沼倉彬人(ぬまくらあきひと)さんは、父克彦(かつひこ)さんのもとで新サービスを展開しています。

沼倉兄弟が着任してから立ち上げた新サービス「IRODORI(いろどり)」は、芸能人やアーティスト、インフルエンサーのグッズを企画・デザイン・受発注管理・発送代行まで一貫してサポートするというもの。

息子たちは父から何を学び、いまある事業を大きく展開させていったのでしょうか。

「今ある基盤」をどう活かすか

兄の佑亮さん(写真左)と弟の彬人さん(写真右)

企業やメーカーなどにサンプルを持ち込み、プレゼンする「既存のやり方」では事業を拡大できないと感じていた沼倉兄弟。二人が働きはじめた頃は、プリント加工業界で一足遅れをとる状態でした。そのため「新サービス立ち上げ」や「新規顧客の獲得」で家業をアップデートすることが、彼らに与えられたミッションとなりました。

佑亮さん「父がこれまでやってきたのは、クライアントが企画したTシャツなどをプリント(製造)して納品する『OEM』と言われるもの。僕たちが来てからは、デザイン・設計・製造・販売(発送)まで自社で行える『ODM』に着目し、まずは新サービスを立ち上げる体制を整えました」

プリント加工工場の様子
乾燥作業以外はすべて手作業で行われる

2020年にはインフルエンサーのブリアナ・ギガンテさんがオリジナルTシャツの販売に新サービス「IRODORI」を利用。すると販売開始2時間で、1着6,000円以上のTシャツが2,000着以上購入されました。「withコロナで生活様式がガラリと変わったこの時代に、大きな手ごたえを感じた」と佑亮さんは語ります。

彬人さん「受注生産は父の大事に育ててきた部分です。その基盤を活かしつつ、エンドユーザーまで一貫してお届けできるシンプルなシステムがあったらと思い、このサービスが生まれました」

ブリアナ・ギガンテさんとICHINOSAIがプロデュースしたTシャツ
お笑い芸人・ひょっこりはんも「IRODORI」を利用

IRODORIは注文が入ってから制作をはじめる、完全受注型のサービス。クライアントが在庫ロスや初期ロッドを抱える問題をクリアしているため、独自のブランドを立ち上げていくという現在ならではのニーズに応えるサービスとなっています。地元のプロスポーツをはじめ、お笑い芸人のひょっこりはんなども利用する人気のサービスへと成長しています。

父の背中を意識して

兄の佑亮さんは高校卒業後に上京し大学へ進学しましたが、やはり父の背中を見て育った子。アパレル業界には興味があり、大学在学中には洋服のノウハウを学べる専門学校にも入学しました。現在は自社サービスとお客様をつなげる営業もこなしています。

佑亮さん「大学、専門学校を卒業してからは服の繊維を作る会社へ入社しました。ですが理想と現実のギャップを感じ、地元秋田に帰ってきたんです。家業に就いたのはそこからですね。なんとなく『最終的には家業を継ぐもの』とも感じてましたし」

弟の彬人さんは大学在学中から家業を手伝い、次第にアパレル業界への興味を抱き始めます。現在はクリエイティブディレクターとして、プロジェクトの管理などを行っています。

彬人さん「僕は自分で事業を起こしたいと思っていました。その中で『父の会社で働くこと』も選択肢の一つかな、とも考えていましたね。大学時代にWEB制作のアルバイトを経験していたので、お手伝いがてらICHINOSAIのホームページをリニューアルしたんです。大学を卒業してから秋田に帰ってきて、ちょくちょく家業を手伝っているうちに『ここでやってみたい』って思うようになりました」

「父から息子へ」ではなく「父と息子で」

父の克彦さんは、息子たちの働きぶりをどう感じているのでしょうか。

克彦さん「息子たちは今ある基盤を活かし、新たな事業を展開してくれています。農業の6次産業化と同じで『これから生き残るには何かしなければならない』と思っていた頃に家業に就いてくれて。結果を出し始めているので、単純にすごいなと感じてます」

OEMを基盤として会社を立ち上げた克彦さんと、そのスキルを活かして現代と調和したサービスを展開する息子たち。父として、経営者として期待することを伺いました。

克彦さん「これから対面するであろう壁を乗り越えて欲しいです。プロジェクトごとに組織をつくり、その先頭に立って業務を遂行する彼らには責任が伴います。これから判断し、決断しなければならないことが山ほどでてきます。そこに答えはないので、自分たちが最善だと思うほうに、思い切って進んで欲しいです」

立体感のあるプリント技術は全て職人技

その期待に応えるように、おのずと息子たちは父のイズムを受け継いでいました。

佑亮さん「『お客様にとって本当にためになる仕事をする』というのは、父の背中を見て学びました。なのでお客様の将来、ICHINOSAIのグッズを世に出した後のブランディングも一緒になって考えるようにしています。すると、『売らない選択』も出てきたり」

彬人さん「その瞬間だけじゃなく、長い目で見た時に『よりよい選択肢』を提案できるように心掛けています」

一度マッチングしたクライアントにはとことん恩恵を与えたい。そんな信念を持つICHINOSAIだからこそ、家業をアップデートできたのです。

想いを届ける仕事を着実にこなす

「家業を伸ばす」意識を持ち、新たなサービスを展開してくICHINOSAI。今後のビジョンを伺いました。

佑亮さん「これからは中間流通業者を通さずに、自社のECサイトを通じて製品を顧客に直接販売する『D2C』と、クライアントと一緒にこの先の未来を考える『ブランディングウェア』、この2つの軸を強化していけたらなと考えています」

彬人さん「僕らが手掛けるTシャツやグッズは、メディアのような役割をこなしていると思っています。クライアントの思いをきっちり反映させ、それをファンの人たちが着ることで想いがが伝播し、伝わっていくので。その流れを着実に作ることが、ICHINOSAIの役割であり、今後も意識しなければいけない部分だと感じます」

取材の最後には「『洋服を作りたい』という依頼を受けてから、その先の将来まで一緒に見据えることができるパートナーでありたいなと思っています」という言葉を佑亮さんからいただきました。父の教えは息子たちに受け継がれ、形となり、成果が出始めています。

写真・文 じゃんご

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