事業承継ストーリー

「いこい」の場から「かなで」る場所へ。音楽がテーマの会社が喫茶店を承継

東急電鉄東横線日吉駅から徒歩一分の商店街にある「喫茶かなで」。運営するのは「WonderWall Yokohama」や「WWY Lesson Studio」といった、日吉地域に根差した音楽活動を行っている「株式会社音創」です。

代表を務めるのは池田紳一郎さん 。2020年2月には地元で親しまれてきた喫茶店「珈琲屋いこい」を承継し、喫茶かなでとして再オープンさせ、活動の幅を広げています。

既に飲食店を経営している音創が、「珈琲屋いこい」を承継し、「喫茶かなで」となるまでについて、株式会社音創・喫茶かなでの池田さん、珈琲屋いこいの店主で先代の瀬川さんのお二人に、お話を伺いました。

地域に愛されていた喫茶店「珈琲屋いこい」

喫茶かなでは神奈川県日吉の普通部通り(ふつうぶどおり)にある喫茶店。もともとこの場所は珈琲屋いこいという、地元の方々から愛される、昔ながらの喫茶店でした。珈琲屋いこいのオープンは2010年。オーナーである瀬川さんが会社を早期退職し、第2の人生としてご夫婦でスタートさせたお店でした。

瀬川さん「珈琲屋いこいは50代半ばから年金の給付が始まる60代までくらいまでの予定で始めたお店でした。清潔感やキレイさを大切にし、お客様に落ち着いてくつろいでいただける空間を意識していましたね」

喫茶かなでとなった今も店内の様子は変わらない

高原のホテルにあるロビーを参考にしたという店内。くつろいでもらえるよう、BGMに鳥のさえずりを流していたことから、グルメサイトのレビューでは「鳥のさえずりが聞こえる落ち着いたお店」と紹介されていたそうです。

地元に愛されきた喫茶店 タイミングが合致した承継

やがてオープン10周年がみえてきた2019年の8月、瀬川さんはお店を承継してくれる人を探し始めます。後継者を探すにあたり、瀬川さんは地元の不動屋さんに相談。不動産屋さんが後継者を探していくなかで、池田さんは、知人の飲食店経営者から珈琲屋いこいの承継について知ったといいます。

池田さん「かねてから気軽に音楽を楽しめる空間をつくりたいとスタッフたちと相談を重ねていました。そのタイミングで、珈琲屋いこいさんの承継のお話が入ってきたんです。いこいさんは立地もよく、何よりすでに10年間、地域の人々に愛されていました。こんな空間を継げることはチャンスだと感じ、承継を進めていったんです。

2019年の9月に承継の話が来て、まとまったのは12月。当時は、並行して他の場所をみたり、事業の進め方などを考えたりしていて、完璧には心の準備ができていませんでした。一方で瀬川さんは、僕の音楽や地元への想いなどから心を決めてくださっていたようで『お店は12月23日に閉めます』と連絡をいただいて。ありがたかったと同時に、はやっ!と驚いてしまいました(笑)

ただ、そうやって進めていってもらえていないと、どんどん予定が後ろ倒しになって始められていなかったかもしれないので、今となってはありがたいことだったと思います」

「お店の雰囲気を引き継いでくれる人を探したい」 余裕を持った行動が引き寄せた出会い

2019年の8月という、オープン10周年から逆算するとはやい時期からスタートした後継者募集。瀬川さんにはある考えがあったといいます。

瀬川さん「承継してもらう方は、つくってきたお店の雰囲気を引き継いでもらえる人が良いと考えていました。イメージにあった人を探すには時間がかかると思い、余裕をもって予定の1年前から後継者を探し始めることにしたんです」

そうして後継者募集を始め、出会ったのが池田さんでした。池田さんは絵に描いたような理想の方だった、と瀬川さん。納得のいく承継ができたと話してくれました。

瀬川さん「やはり余裕をもって引継げたのが良かったと思いますね。体に限界が来てから継いでくれる人を探し始めると、きっとどこかで綻びが出てしまう。池田さんに引き継いでもらえて本当にラッキーでした。私としては作業を急いだつもりはなかったのですが(笑)」

こうして2019年の年末、珈琲屋いこいは池田さんへ承継。約2か月の準備期間ののち、2020 年の2月、喫茶かなでがスタートしました。

雰囲気を引き継ぎつつ、新しい空間へ 完成されたお店に手を加える難しさ

承継後に苦労した点は、珈琲屋いこいの空間にどうやって音創らしさを加えていくか?という点だったと池田さん。

池田さん「昔ながらの雰囲気を持つスペースをそのまま引き継いでいたので、壊してつくり直す選択肢は持っていませんでした。ただ、だからと言って音創らしさが無ければ、継いだ意味がありません。音創らしさと、珈琲屋いこいらしさのバランスを見極めるのは難しかったですね」

そうして設置されたのが、アナログレコード。いこいの持つレトロな雰囲気と音創のテーマ“音楽”をかけあわせたのだと池田さんは話してくれました。

池田さん「いこいがつくり上げていた喫茶店という空間をはじめ、昭和の文化を知らない世代がいま増えてきています。かつてあった文化の継承を僕たちの軸である音楽で行ってきたいと思い、アナログレコードを設置しました。結果として、珈琲屋いこい時代から利用してくださっているお客さんも楽しめる、懐かしの空間にできたと思っています」

喫茶かなでとなってから開始したInstagramでは、月に2回ほど店内で流すアナログレコードの告知を行っているそう。Instagramの効果があってか、いこい時代50代~70代で一人住まいの高齢の方がメインだったお客さんは、現在30代~50代の方が多くなり、土日には家族で来られる方も増えたのだとか。コロナ禍ではありますが、いこい時代の常連さんも足を運んでくれているといいます。

瀬川さん「ご近所で暮らしているいこい時代の常連さんは、以前おばあちゃんとお孫さんで来られていたのですが、今はお孫さんが一人で来られているそうなんです。私もときどきお客さんとしてお邪魔するのですが、清潔さや雰囲気を大切にしてもらっていて、本当に良い人に承継してもらえたと思っています」

もっと日吉を盛り上げていきたい 喫茶かなでのこれから

コロナ禍での開店となった喫茶かなで。現在はアナログレコードを楽しむ空間となっていますが、今後は店内でのアコースティックギターなどの弾き語りを開催していきたいそう。

池田さん「コロナ禍のいま、できることを一つずつ進めていきたいですね。いこいから引き継いだ雰囲気の良さを活かし、音楽をテーマにもっともっと日吉を盛り上げていきたいです」

事業の承継において、承継前の雰囲気を大事にしてもらえるかは非常に重要な要素です。喫茶かなでのケースは、理想的な承継のケースといえるでしょう。承継した雰囲気を大切にしつつ、音創の“まちに音楽を”というテーマへ、新しいアプローチを行っている喫茶かなで。これからのどういった展開をしていくのか、池田さんの取り組みに注目です。

文・高橋昂希

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