事業承継後に商標が使えないことが発覚! ピンチを乗り越え「成金饅頭」の歴史と文化を伝える「まとや」の挑戦

創業100年以上の歴史を誇っていた老舗菓子店「菓舗四宮(かほしのみや)」。かつては福岡・天神に出店するなど、福岡県内に20店舗以上を展開してきました。看板商品の「成金饅頭」は、福岡県直方市(のおがたし)の銘菓。全盛期は10軒ほどの菓子店が「成金饅頭」を製造・販売していたものの、現在は4軒に。20店舗以上あった菓舗四宮の店舗も1店舗を残すのみとなっていたそうです。

その「菓舗四宮」を承継することになったのは、福岡市を拠点に建築設計事業を手がける浅野藝術株式会社の浅野雅晴(まさはる)さん。異業種ともいえる“食”の分野を承継することに至った背景などについて、浅野さんと現場責任者である専務の井上友尋(ともひろ)さんにお話を伺ってきました。

炭鉱文化の衰退とともに「成金饅頭」の売上が減少

うずら豆の餡を薄皮で挟んだ「成金饅頭」は明治時代に誕生した

成金饅頭とは、明治時代から福岡県直方市に伝わるお菓子。一人の青年が戦禍でうずら豆の売買により利益を上げようとしたものの失敗。その後余ったうずら豆を「饅頭にしてみてはどうか」と、薄皮でたっぷりの餡を挟んだ饅頭を開発しました。当時、このエリアは炭鉱が栄えており、この饅頭は炭鉱労働者たちに大変好まれ、評判となります。

「菓舗四宮」は大正3(1914)年に成金饅頭の製造・販売をスタート。自社にて製造小売に力を入れて、最盛期の1950年代には数十店舗を展開していました。しかし、2000年頃より石炭産業の衰退と共に、成金饅頭のファンだった炭鉱労働者も減少します。菓舗四宮も時代の変化に対して対応していけず、事業規模は縮小、売上も年々衰退していました。

2018年に菓舗四宮の先代オーナーが「このままでは存続が難しい」と感じ、菓舗四宮、成金饅頭を時代に対応させて、未来に繋ぐ後継者を募集します。

選ばれたのは、衣食住全般を体現したい建築会社

浅野さん「浅野藝術をスタートさせたときに、衣食住全般を体現したいというビジョンがありました。当社の主な事業は建築・設計で、長年「住」に関わってきました。2016年にはセレクトショップ「FUTAORI」(福岡・平尾)をオープンし、「衣」の分野も手がけてきました。

あとは「食」の分野をどのタイミングで、どんなことをするかをずっと考えていたんです。私たちがやるからには意味のある事業をしたいと考えていたとき、成金饅頭の事業承継の話があると紹介され、興味を持ちました」。

浅野さんは北九州市出身。現在は福岡市を拠点に活動していますが、直方市はちょうどその中間にあります。

2020年12月、直方商店街の一角にグランドオープンした「まとや」直方本店

浅野さん「菓舗四宮の視察をしに来た時、成金饅頭だけでなく、商店街の衰退も感じたのが、印象的でした。『成金饅頭は直方の1つの文化であり、この文化がなくなってしまうのはもったいない』という先代の話を聞いて、この文化を後世に伝えていきたいと手を挙げることにしたのです」

浅野さんは、同時に手を挙げた企業が数社あると聞いていたそうですが、後に10数社が興味を持ち手を挙げていたことを知ります。

浅野さん「プレゼンシートを作って提案に伺ってから私たちに決まるまでは1ヶ月ほどでした。私たちは菓子業界ではなかったものの、『成金饅頭を次世代に残していきたい』という想いを評価してくださったようです」

こうして成金饅頭の事業を承継することが決まったのですが、ここで最大の問題が起こります。事業譲渡のタイミングで商標登録されている“四宮の成金饅頭”の名前が使えないことがわかったというのです。

商標登録が使えない!? 一時は承継を諦めようかとも考えた

菓舗四宮を引き継いだ浅野藝術株式会社・浅野雅晴(まさはる)さん

浅野さん「成金饅頭の事業が衰退していく過程で、さまざまな問題が起こり、先代オーナーが商標を自由に使えなくなっていたそうです。商標登録の権利を持たれている方は私たちの想いは理解してくださっていましたが、『今後、どのような展開をするのかが見えない』と、商標の使用を許可していただけなかったのです。もともと商標を使えることが前提の事業承継でしたし、創業100年以上という歴史を引き継げないのであれば意味がないと、この話を白紙にすることも考えました」

どうしたものかと悩んでいた浅野さんは、「変わっていかないと進化しないし、次に繋がらない。“四宮の成金饅頭”は使えないけれど、成金饅頭を製造・販売している4軒を率先して引っ張っていく存在になることを目指そう」と、方向転換を図ることにしました。

新たな屋号となったのは「まとや(纏屋)」。「纏う」という言葉は、“晴れ着や装束を巻きつけるように身につける”という意味で用いられます。成金饅頭が誕生し愛され続けてきた時代も、これからの時代も全て纏って追い風にしたいという願いから、浅野さんは屋号を「まとや」に決めました。

浅野さん「屋号としては使えないけれど、“四宮の成金饅頭”を承継していることを謳うことは了承いただいたので、歴史ある成金饅頭の伝統と文化を「まとや」として伝えていくことになりました」

歴史と文化を次世代に伝えるために、変えるべきところは徹底的に変える

こうして「まとや」としてのスタートを切った浅野さんたちが、まず取り組んだのは、原材料やレシピ、製法、パッケージなどを見直すことでした。

浅野さん「成金饅頭を初めて食べたとき、美味しいけれどよくある地方の饅頭という印象を受けました。私たちや若い世代の人たちが全く買っていない状況を目にしていましたし、次世代に受け継いでいくものにするには、今の人たちの口に合う味に変えていかなければと強く思いました」

ルーツを大切にしながらも、主原料を国産や地元産のものに変えました。また、生地を機械焼きから職人による手焼きに戻し、自分たちにとってベストな饅頭は何かを自問自答。引き継いでから相当数の試食を重ね、自分たちが納得し自信を持って勧められる成金饅頭を作り上げたのです。

また、浅野さん達の得意分野である建築・設計の分野をまとやの経営にも活かしています。かつての店舗は菓子店ということがわかりづらい店構えでしたが、パッと見て「品のいいお菓子屋さんがある」とわかりやすいデザインに変更しました。

和菓子離れが進む若者たちにも支持される商品を開発

成金饅頭の生地とは別配合のレシピでふんわり仕上げた皮に果実感たっぷりのジャムとデンマーク産の濃厚クリームチーズを贅沢にはさんだ「チーズどら焼き」

従来の成金饅頭のブラッシュアップを行なう一方で、浅野さんたちは新商品の開発にも取り組みました。

浅野さん「若い世代にもまとやのお菓子を食べていただきたいと考えたとき、“和洋菓子”のコンセプトのもと『チーズどら焼き』を開発しました。成金饅頭という主力製品をしっかり守りながら、このシリーズを横展開させていくことで、若い世代へのアプローチ、福岡・直方の菓子屋としてのブランド力の向上、成金饅頭の認知の加速を狙っています」。

現在、直方市の人口や約6万人。人口が極端に減っているワケではないものの、直方市の中だけで考えると、商売として成り立つことが難しくなっています。

浅野さん「人口6万人のまちで6万人に提案し続けて次世代に残していくことと、1地方銘菓ではなく全国の人たちに知ってもらえる銘菓になることを考えたとき、後者の方がいいと考えました。そのために現在は直方の店舗に加え、福岡市内を中心に百貨店の催事で販売させていただいています」

福岡市内の催事で「まとや」の存在を知り、直方の店舗を訪れるお客様も少なくないのだとか。

浅野さん「直方は美味しいお店や魅力的なスポットがたくさんありますが、外に伝わっていないことが多いと感じています。その魅力を伝えることもですが、今後は直方に遊びに来て楽しんでいただけるような“場づくり”にも取り組んでいきたいですね」

お客様からの「美味しい」の声が励みに!

「この界隈の企業の方がお客様へのお土産にと購入してくださることも増えました」と話す井上さん

現場を取りまとめている専務の井上友尋さんは、異業種からこの世界に入ってきたそうです。

井上さん「浅野さんと食事をしていたときに、一緒にやってみないと声を掛けていただきました。100年続いてきた歴史ある事業を次の世代に繋げる意味のある仕事ですし、衰退していく地方都市で挑戦することも面白いと思いました」

プレオープンから約1年。「まとや」の成金饅頭を多くの人々が買い求める中で、井上さんは「まとや」の引き継ぎにやりがいを感じています。

井上さん「『美味しかったから友人に送りたい』とお電話を頂戴したり、『昔の成金饅頭より美味しくなった』というお声をいただいたりしました。また、福岡市内の百貨店の催事にお越しくださったお客様から『懐かしい』と言っていただいたこともありました。若いお客様も増えてきましたし、大変なこともあるけれど、大きなやりがいを実感しています。

食べた瞬間に“美味しい”とその場で喜んでいただくことは、従来の建築の仕事では感じられないものでした。リピーターが増えて、『まとやさんの饅頭おいしいよね』という声を聞くこと、とにかく“美味しい”と言っていただけることが、いちばんの喜びとなっています」

順調なスタートを切った「まとや」ですが、少しずつ課題も見えてきました。催事で数が必要なときに安定供給できる体制づくりや、重量のある饅頭の配送方法など、いかに効率よくやっていくかを模索し続けているそうです。

「直方の菓子文化の再燃」をテーマに挑戦し続ける「まとや」の取り組みは、全国的にも注目を集め、メディアからの取材も増えています。伝統と文化を引き継ぎつつ、時代の移り変わりに臨機応変に対応しながら、「成金饅頭」を次世代へ受け継いでいく。その取り組みに今後も注目し続けていきたいものです。

文・寺脇あゆ子 撮影・竹内さくら

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