住民を見守る、地区唯一のコミュニティステーション。なくてはならない場所を地域全体で承継

大分県北東部、国東(くにさき)半島の南部に位置する杵築(きつき)市。市街地から車で30分ほど離れた大田地区は、2005年に杵築市と合併した地域です。周りを山々に囲まれた盆地で、冬には0℃を下回ることもしばしば。

そんな大田地区で、住民の生活基盤として運営されていたガソリンスタンド「小関石油」を2022年2月に引き継いだのが「合同会社おおた夢楽(むら)」。法人の立ち上げから携わった代表社員の吉廣和男(よしひろかずお)さんに、承継の経緯や今後の展望について伺いました。

住民の生活に欠かせないサービスステーション

大田地区の住民にとって重要なライフラインになっている

大田地区の人口は、約1,100人。そのなかで、高齢者の割合は、約55%に上ります。住民の方にとって、厳しい大田の冬の気候を乗り越えるための石油ファンヒーターやボイラーに使用する灯油の供給や配達は、なくてはならないもの。また、「小関石油」は、この地区で農業や畜産業、建設業をおこなっている事業者に、設備や重機の燃料を供給する役割も担っていました。大田地区唯一のガソリンスタンドは、生活している高齢者の方だけでなく、地区の産業にとってもなくてはならない存在でした。

今後に向けた協議。移転ではなく今ある場所で

おおた夢楽の代表社員、吉廣和男さん

そんな小関石油を経営していた小関さん夫婦は、年齢と灯油を保管する地下タンクの老朽化の問題で、2021年12月で閉店を決めていました。そこで一番の課題だったのが、冬場に灯油を必要としている高齢者への配達です。住民からの不安の声も大きく、2020年10月に、石油の卸会社である大分石油、おおた青年会、杵築市役所大田振興課の担当者で、課題解決のための協議が開始されました。

当初は、杵築市役所大田庁舎周辺に灯油・軽油ステーションを整備する流れでした。しかしそれよりも、小関石油の設備を改修して、経営を存続させるほうが費用面で現実的だと判明。その後は、杵築商工会大田支所や大田ふるさとづくり協議会が主導で、ガソリンスタンド存続に向けた協議が始まったといいます。

代表決定の段階で協議は難航

多くの課題のなかで最も難航したのが、代表の選定。「この場所の意味を考えると、なくすわけにはならなかったです」と吉廣さんは当時を振り返ります。

協議開始から実際に承継するまでの期間はわずか1年と、時間があまりない状況でした。にもかかわらず、誰が会社を設立するのか、従業員の確保はできるのか、経営する資金はどう調達するのかなど、課題は山積みでした。協議を進めるなかで、「地域外の給油所に任せればよいのではないか」という声もあったといいます。

吉廣さん「協議のなかで最も大変だったのは、理事全員の意見を統一することでした」

小関石油閉店の3か月前の9月、ようやく大田ふるさとづくり協議会の会長である吉廣さんが代表社員となることに決定。

吉廣さん「この地区からサービスステーションがなくなることの意味は十分理解していましたので、協議会理事の協力は前提で、会社の代表を引き受けることにしました」

2021年11月に合同会社社名「おおた夢楽」を設立。吉廣さん、小関石油の小関さんを含む5名が経営に関わることになりました。

大田地区で140世帯への灯油配達を一人でされてきた小関さんも、引き続き経営に携わる

自治体のクラファン達成と代表決定で承継が一気に加速!

会社の設立はできましたが、経営の運転資金や老朽化した地下タンクの改修費の調達の課題がありました。そこで、国の補助金獲得に加え、自治体がおこなうガバメントクラウドファンディング(以下、GCF)を実施。地下タンクの改修費として、11月末から90日間、400万円を目標に資金を募りました。

吉廣さん「大田地区の状況や私たちがこれまで取り組んできたことを知ってもらって、GCFの目標金額を達成するための活動もおこないました」

杵築市役所大田振興課の職員で、おおた夢楽の社員も兼任する古庄顕三さん

代表社員が決定してからは、毎月発行している協議会の広報誌にて、地区の人たちに向けて承継の現状を報告。GCFについても、広く認知していきました。また、杵築市役所大田振興課でおおた夢楽の社員でもある古庄顕三(ふるしょうけんぞう)さんは、住民の方へSNSなどを通して告知をおこない、CGFの目標達成のために奔走したといいます。

その成果あって、支援人数240名、目標金額の2倍を超える約840万円を達成。この活動は、地域の人が会社をつくるところから実現した事例として、多くのメディアに取り上げられたといいます。

配達で従業員が不在時やお昼休憩の際にステーションに出ているという小関さんの奥さん

もう一つの課題だった従業員問題については、Uターン希望者などの募集をおこない、12月の段階で5名の従業員予定者を確保。雇用条件の説明会を開催するなど、着々と進めていました。加えて、小関さんの奥さんとは雇用契約を結び、今も関わってもらっているそうです。

廃業寸前のスタンドを、地域で会社を設立してまで続ける理由

吉廣さん「私たちがおおた夢楽を立ち上げたのは、灯油の配達事業や事業者への燃料の配達だけが目的ではありません。それらも重要なことですが、地域のコミュニティステーションとして、大田地区を見守る役目も担っています」

吉廣さんが会長を務める大田ふるさとづくり協議会では、大田地域の郵便局や建設業者などの事業者23社と「大田地域見守りネットワーク」協定を結んでいます。おおた夢楽は小関石油の後継事業者として、このネットワークに参加。配達事業やステーション事業は、一人暮らしや夫婦のみの高齢者への見守りを兼ねており、異変があればすぐに連絡できるような体制をとっています。

吉廣さん「配達時に高齢者の様子を伺うことも見守りの一環。それと同時に、ステーションに来ていただいた地域の方へのコミュニケーションも欠かさず、住民の方が安心して住んでもらえるようにサービスを徹底しています」

課題に向き合い、さらに進化を続けるおおた夢楽

事業許可の申請の関係から、小関さん夫婦には1か月のみ経営を延長してもらい、2022年2月にオープンしました。小関さんからは、機械の使い方などを教えてもらうなど、承継後も親交があります。

吉廣さん「開業して数か月経ちますが、新しい課題も浮き彫りになってきています。地下タンク以外の設備の老朽化や設備環境の整備など、やることはたくさんありますね」

地下タンクに加え、計量器や配送用のローリー車、商品管理ができるPOSシステムの導入など、設備のほとんどは改修の必要がありました。今後は、従業員が働きやすい環境を整えることが課題。地下タンクの改修と同時に、すべての設備を7~8月ごろに改修する予定になっています。

吉廣さん「今は、設備の課題が浮き彫りになっていますが、改修後は、ガソリンスタンドとしてだけでなく、事業を拡げていく予定です。地域にとって必要な場所なので、続けていくための一手を打たなければと考えています」

おおた夢楽は、大田地区の住民にとってなくてならないサービスステーション。この場所を起点に、よりよい地域循環を産んでいけたら良い、と吉廣さんは語ります。今後も、おおた夢楽は大田地区にとってなくてはならない場所であり続けます。

文・足立拓哉

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