ひと目惚れした築100年以上の古民家を、カフェ&バーに。協力隊員の熱い想いが成功に導いた事業承継

愛媛県西予市宇和町の「卯之町」は、昔ながらの建物が軒を連ね、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。

中でもひと際目を引くえんじ色の古民家にあるのが、カフェ&バー「卯之町バールOTO(おと)」です。季節感溢れる彩り豊かなピザや、食欲をそそるキーマカレー、濁りの心地よいクラフトビールなど、豊富なメニューが並びます。

実はこの古民家、もともとは地元のおばあさんが経営する喫茶店「喫茶 春名」として、地域の人たちに親しまれていました。しかし惜しまれながら閉店し、空き家となって、10年以上もの月日が経った2015年。OTOのオーナーである藤川朋宏さんは、古民家に出逢い、ひと目惚れしたのです。

「ここで飲食店を開きたい」――心の奥底から湧き出る想いを胸に、藤川さんは歴史ある古民家の承継に挑みました。

出会って5分でひと目惚れ。古民家で飲食店を開くという夢ができる

大学卒業後、長年都心の飲食店で勤めてきた藤川さん。「そろそろ飲食業界を引退して、地元に貢献できる仕事がしたい」と、生まれ育った愛媛県に帰り、地域おこし協力隊として活動を始めます。3年間の任用期間のうち、最初の半年~1年間で、やりたい仕事を明確に決めようと考えていたのだとか。

卯之町バールOTOのオーナー、藤川朋宏さん

藤川さん「地域の活性化に取り組んで半年ほど経った頃、地元の食材が豊富であったこと、前職の経験を活かせることからやりたいと思ったのは、地元で飲食店を開くこと。やっぱりそうかという納得感と、まさかという驚きが混在しました。

そんなとき、知人から『ここは昔、おばあちゃんが喫茶店をやっていたんだよ。体調が理由で休店して、今は閉店状態だけど』と古民家を紹介されました。空き家になって10年以上経過していたので、その場で中を見ることはできなくて。それでも、ぱっと目を引く佇まいと、まとまりのあるキャパシティに惹かれ、ものの5分で、『ここで飲食店をやるぞ』と決意しましたね」

前オーナーの娘夫婦に直談判。本気の想いが伝わって、承諾してもらえた

藤川さんの熱い想いとは裏腹に、古民家の承継は一筋縄ではいきませんでした。

というのも、おばあさんが病気になってしまい、古民家は兵庫県にいる娘さんの旦那さんに引き渡されたというのです。

藤川さん「その話になって1週間以内には、兵庫県まで会いに行きましたよ。“古民家で飲食店をやらせてくれませんか”とお願いすると、どういうお店にしたいの?本当にやっていける?と様々な質問が飛んできて、私もそれに応えるべく、お店の構想やビジョン、それに対する懸念点や打ち手などを伝えました。

すると、“本気でやりたいという意思が伝わったから応援するよ”と言ってくれて、とても嬉しかったです。あとから話を聞くと、今までに3~4件問い合わせがあって、それらをすべて断っていたようです。想いが伝わって良かった、と思いましたね」

後見人や調査の壁が立ちはだかるも、周囲のサポートで無事承継

古民家を承継することが決まったものの、ここで新たな問題が起こります。娘さんの他にも、古民家の後見人がもう一人いることが分かり、容易に貸し借りができなくなってしまったのです。

藤川さん「複雑な問題だったので、古民家の承継は一旦ストップしてしまいました。1年間はいっさい動けず、古民家は国の重要伝統的建造物に指定されているため、建物の調査にもかなり時間がかかりました。

しかしながら、旦那さんが献身的に行政書士事務所や裁判所に出向いてくださり、スムーズに進むようにサポートしてくれたんです。本当に感謝しかありません」

藤川さんの熱い想いが伝わり、周りの手助けを得ながら承継はスムーズに進んでいきます。

地域の方から応援されて、開店資金を集めるクラウドファンディングも大成功

古民家の承継の目処が立った藤川さんは開店資金を集めるために、クラウドファンディングを実施します。すると、みんながオープンを待ちわびていたかのように、クラウドファンディングは順調に進んでいきました。

寄付金額は約360万円で、達成率は120%。卯之町の活性化、古民家の再生を願う多くの人から、応援メッセージも寄せられました。

藤川さん「卯之町に住む人からは、『応援しています。がんばれ!』という心強い言葉がありました。他の人からも、『情緒ある建物が承継されることに感銘を受けました』と励みになるメッセージをもらいました。

近所の人も、建物の工事中からずっと温かく見守ってくれて。この辺りでは目立つ建物なので、もともと気にかけていた人が多く、『もったいないと思っとったんよ。新しいお店ができるんやね』と関心を持ってくれたことも嬉しかったですね」

夫婦2人3脚で怒涛のオープンを乗り切り、お客さんに美味しい料理を提供できたことが忘れられない

無事に古民家の承継が終わり、オープンへとこぎ着けた藤川さん。今までに味わったことのないような、達成感とプレッシャーに押し潰されそうになったのだとか。

藤川さん「ようやくオープンできた、という安心感は束の間。建物の承継からオープンまで期間が空いたため、メニューや内装などを深く考え込み、もし期待に応えられなかったらどうしよう、と不安や恐怖に飲み込まれそうになったんです。オープンして1か月くらいは、一生懸命走り抜けながらも、心はぐちゃぐちゃな感情で、疲れ切って横になると目が回るような状態でした。

そんな時に支えになったのは、OTOのオープン準備からキッチン担当まで、二人三脚でサポートしてくれている妻です。私がしんどい時期でも、どうにかなるでしょ!といつも前向き。考え方や価値観が真逆なのでたくさん喧嘩もしますが、お互いに補い合っているのかもしれません」

オープンから3年目を迎える今は、お客さんと話をしながら、美味しい料理を提供することに改めてやりがいを感じていると言います。

藤川さん「目の前のお客さんが、私たちの料理を通じて喜んだり、楽しんだりしている様子を見ると達成感があります。特に印象に残っているのは、おばあちゃんとおじいちゃんが来店し、クアトロフォルマッジ(4種のチーズを使ったピザ)を注文してくれたとき。

“こんな美味しいピザがあるんやね。生まれて初めて食べたよ”とふいに言われて、なかなか良いことをしているのかもな、とすごく嬉しくなりました。あの真ん中の席での出来事ですね。これからもずっと忘れないです。」

空き家だった古民家に命が吹き込まれていく。コミュニティと絶えず変化していく飲食店

OTOさんのテーマの一つは、「コミュニティースペース」。気軽に遊びに来れて、人と人とが繋がっていくような場所にしたいという想いがありました。綿密に計画を立てていたわけではないにも関わらず、そのビジョンはいつの間にか達成されていたそうです。

藤川さん「こぢんまりしたキャパシティなので、コロナ禍以前はお客さん同士の距離がすごく近かったんです。だから、気づいたら隣のテーブル同士で仲良くなっていることもよくありました。私が間に入って紹介することもありますが、基本的には自然とみんな友達のような雰囲気になっていきますね。この古民家の雰囲気とキャパシティだからこそ生まれるコミュニティだと感じています」

今後のビジョンをお聞きすると、「変化のある飲食店で在りたい」と言います。

藤川さん「変化のあるところって、面白いじゃないですか。歴史ある古民家を改装して今のカタチになっていますが、まだまだ活用しきれていないと思っているんです。実はもうすぐ、2階のフロアでお酒の販売を始めます。これからも古民家の変わらない雰囲気はそのままに、OTOとして変わり続けることを大切にしたいです」

空き家になっていた一つの古民家。藤川さんの想いと、多くの方々のサポートによって命が吹き込まれました。懐かしさと新しさが融合する卯之町バールOTOの歴史は、これからも続きます。

文・志摩若奈

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