ゆかりのない秋田に移住し、未経験でカフェを経営。先代の背中を追いかけ食の魅力を発信

秋田県由利本荘市にある「カフェ・カトルセゾン」。お店の名前はフランス語の「四季」が由来です。店内はフランス調のインテリアで統一され、お洒落で可愛い空間になっています。

前オーナーの堀内さんはフランスなどで修行をした後、2007年にお店をオープンされました。しかし12年経ち、今後、お店に立ち続けるのは体力が不足していくだろうと考え、今のうちに誰かに継承してほしいと思っていました。そんな時に、由利本荘市の「移住×継業」の事業を通じて、このお店を2年前に引き継ぐことになったのは愛知県の食品メーカーで働いていた村松大地さんご夫妻です。

2人は秋田出身ではなく、秋田に住んだこともありません。シェフ経験も飲食店のバイト経験もない村松さんが、秋田の地元の方々に愛されるお店を受け継ぐことは簡単ではありませんでした。

新しい事を始めるには思い切りが必要だった

村松さんは山梨県出身で大学卒業後は愛知の食品メーカーに勤めていましたが、印刷会社の経営をしていた父の影響で「いつかは自分も自営業で独立したい」と思っていたそうです。

29歳で結婚をし「そろそろ人生を次のステップへ進みたい」「自営業をやりたい」と思っていた時、秋田県由利本荘市のホームページでカフェの後継者を募集している事を知り「これはチャンスかもしれない!」と、早速連絡を取りました。

しかし、秋田には旅行で数回訪れた程度。そしてシェフ経験もなく、飲食店でのバイト経験もない村松さん。当然、奥さんを含めた周りの人からは「カフェの経営なんてできるの?しかも秋田で」や「雪国で生活できるの?」といった不安の声が上がりました。

村松さん「飲食業の経験がゼロだったので、不安はありました。でも、こういうことは『えいやっ!』という気持ちがないと踏み出せないと思うんですよ。募集条件で料理や経営の指導も込みと書いてあったので、とりあえず話を聞いてみようかなと。自分の直感を信じました」

決断を後押ししてくれた前オーナーの一言

そんな思い切った村松さんの決断を後押ししたのは堀内さんの存在でした。

村松さんは最初に堀内さんの料理を食べた瞬間「なんでこんなに美味しいものを作れるんだろう」と衝撃が走ったそうです。そして、秋田を訪れる度に堀内さんの様々な料理を食べていくうちに「こんなに美味しいものが作れるようになったらどんな気持ちだろう、自分も作れるようになりたい」と思うようになりました。

といっても飲食業の経験はない村松さん。やりたい気持ちと不安な気持ちの波があり、なかなか決断できずにいました。そんな村松さんが4回目の秋田訪問の際、堀内さんは「料理ができなくても大丈夫。練習すればなんとかなるから。むしろ料理をやってきていて、自分の味を持っている人よりこのお店の味の教え甲斐がある。君の努力次第だ」と背中を押してくれたといいます。

村松さん「堀内さんは、私が仕事体験や打ち合わせで秋田を訪れる度に、料理だけでなく、家に招いて地元の紹介もしてくださって、とても親身になってくれました。それでも決めかねていると背中を押してくれて、最後には『経営者は即断即決の決断のスピード感が大事なんだ』と言ってくれました。

もう既にこんな自分に、経営者として指導をしてくれているんだと思い、この人について行きたい!と心が決まりました」

地元に愛されるお店を「引き継ぐ」ということ

4回目の秋田訪問で継ぐことを決意をしてから半年後、村松さんご夫妻は秋田へ引越し、本格的に修行がスタートしました。しかしはじめの頃は、レシピ通りに作っても堀内さんの味とは全く違うものになったそうです。

村松さん「堀内さんから『塩一粒でも味は変わる』と言われた時、漫画の世界の話だと思ってしまいました。でも堀内さんから料理を教わり、舌を鍛えて、だんだんとその感覚が理解できるようになってきたんです。嬉しかったですね。手や味の感覚を掴まないとレシピ通りに作っても美味しいものはできないんだと思いました。会社員だった自分は感覚で勝負するということに馴染みがなかったので、驚きでした。

堀内さんは食材の声を聞いて料理をし、盛り付け方でさらに料理を美味しくする方です。自分はまだまだですね」

常に物事を前向きに捉えてひたむきに取り組む村松さん。しかしお店を引継いですぐの頃、ショックな出来事がありました。

村松さん「人気メニューであるオムライスを常連のお客様方に出した時『薄い』『しょっぱい』と言われてしまったんです。その時はとてもショックで、『あぁ先代が大事にしていたお客様を失ってしまった。このままではお店を潰してしまう、自分が引き継いではいけない』と思いました」

しかし、村松さんが落ち込んだ時に支えてくれたのも、同じ常連のお客様だったそうです。

村松さん「1度お客様からクレームがあると、もうその方はお店に来てくれないと思っていました。でもこのお店は違いました。昔からの常連の方々が何度も来てくれて、同じメニューを頼んでくれたんです。だんだん『美味しかった』と声を掛けてもらえることが多くなって、やり甲斐と活力になりました。

地元の人に愛されているお店を引き継ぐ意味が改めて分かった気がしました。よそから来て飲食の経験もなかった自分を、地元の方々は温かく、時には厳しく見守ってくれています」

自分の料理で秋田の良さを発信したい

「秋田の食材って本当に美味しいものばかりなんです。」そう力を込めておっしゃる村松さん。

村松さん「例えば、人気メニューの『季節のタルト』を作る上でフルーツの美味しさはとても重要です。タルトは、秋田で旬のフルーツを1番美味しい時に閉じ込めます。仕入れの時期には直接農家さんに伺っていて、初めて採れたてのフルーツを食べた時は感動しました。

フルーツの味に負けないよう、生地にもこだわっています。こねるのも伸ばすのも全て手作業、原材料の粉は最高級のものを使用して妥協は一切していません。イチジクの季節になると、わざわざ電話をしてから来てくださるお客様もいらっしゃるんですよ」

タルトへのこだわりを熱く語ってくれた村松さんに、今後の目標を伺いました。

村松さん「フルーツだけではありません。秋田は魚介類や野菜、山菜などの質もとても髙い!秋田の方々はシャイなのか、良いものを作っていても自分からPRする人が少ないと思います。こんなに美味しいものをなぜもっと発信しないんだろう、もっと人気になれる、と感じています。

自分の作る料理を通じて、秋田に来てくれた方々に素材良さを知ってもらう、美味しい料理を作って幸せな気持ちになってもらう事が、最大の恩返しになるのかなと思っています。そのためにも、自分の腕と感覚はこれからも磨いていきます」

村松さん「今はまだ、堀内さんのアドバイスなしに新メニューは作れません。いつか自分で1から作った新メニューを堀内さんに食べてもらって、美味しいと言って欲しいですね」

最後まで謙虚な人柄が表れていた村松さん。先代が築き上げて来たお店の良さを引き継ぎつつ、地元に愛され続けるお店になれるよう、村松さんの修行は続きます。どんどん味に磨きがかかっていく「カフェ・カトルセゾン」ご賞味ください!

文・津川千穂

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