時計×カフェ×歴史!?得意と好きで勝負する「歴史カフェ会津」の斬新な事業承継戦略

鳥取県の中部に位置する倉吉市は、昔ながらの白壁土蔵の建物が数多く残る趣のある街。一方でアニメやフィギュアといったポップカルチャーとの相性も良く、「レトロ&クール」を合言葉にまちづくりが進められています。

2020年10月、そんな倉吉市の中心部にある倉吉銀座商店街に「歴史カフェ会津」が誕生しました。オーナーの松林安美(あみ)さんが父から受け継いだ、時計店に大胆な改装を施したお店です。それにしても「なぜ時計店とカフェ?」「なぜ鳥取なのに会津?」「そもそも歴史カフェって?」と謎がいっぱい。その真相について、松林安美さんにお話を聞きました。

商店街の活性化を目指し、カフェ併設の時計店をオープン

松林さんの実家は、祖父の時代から続く時計店でした。父が2代目を継いでからも、連日たくさんのお客さんが修理に訪れていたそう。幼い松林さんはそんな父の仕事ぶりを見ながら育ちました。

しかし、2年ほど前、突然の病に倒れた父から「店を継いでほしい」と相談されました。県庁の外郭団体でNPOの支援などを行う仕事をしていた松林さんは大いに悩みます。

松林さん「それまで父から継いで欲しいと言われたことはなく、私も継ぐ気が無いまま就職していたので驚きました。でも、『ここがなくなったらどこで直したらいいんだろう』という常連さんの声と職場の理解もあって、仕事を続けながら事業承継をすることに決めました」

改装前の店内でボードゲームを楽しむイベントを開催(こちらの写真はコロナ前に撮影)

お店を継ぐにあたり、時計店だけではもったいないと感じた松林さんは、料理好きを活かしてカフェを併設することを思いつきます。世間話を楽しみに何度も来店するお客さんの姿を見て、カフェなら時計の購入や修理といった用事がなくても気軽に立ち寄ってもらえるのではと感じたのです。さらに、地元の商店街に賑わいを取り戻したいという思いもモチベーションになったそう。

松林さん「継ぐ人がいなくて辞めていくお店が多いので、うちが良い事例になれたらと考えました」

事業承継にあたっては「地元の商工会やよろず支援拠点の担当者が親身になって話を聞いてくれたことが励みになった」と語る松林さん。約半年間の準備期間を経て、リニューアルオープンしました。

“歴史”に育まれた父と娘の絆。何もないから何でもやれる

カフェ併設の時計店というだけでも珍しいのに、松林さんのお店にはもうひとつ重要な要素があります。それは“歴史”。なぜ、お店のコンセプトに歴史を掲げたのでしょうか?

松林さん「父も私も歴史が大好き。家族旅行はいつもお城で、物心つく前から大河ドラマを観ていました(笑)いつも無口な父も歴史の話題になるとよく話してくれたんですよね」

会津観光中の松林さん。白虎隊伝承史学館にて

言ってみれば、歴史は松林さんと父との絆を育んだもの。大切な思い出を事業承継の証として残したかったのかもしれません。さらには、史跡めぐりで何度も訪れた思い入れのある土地、会津をフィーチャー。会津藩や新撰組にちなんだ自慢のグッズで店内を飾りました。カフェのメニューにも「西郷丼」や「三本の矢菜カレー」などユニークな品々が並び、歴史ファンでなくても楽しめる工夫がなされています。「父からは『よく思いつくなぁ』とびっくりされました」と笑う松林さん。

松林さん「これまで鳥取では、アクティブな歴史ファンは観光客として獲得できていませんでした。そこで全国の力を借りようかと。何もないからこそ何でもやれるのが強みです。今まであまり光が当たってこなかった地元の歴史も紹介していけたらと思っています」

西郷丼。鹿児島県産の鶏肉を使った唐揚げの丼

オープン後は、看板やSNSを見て訪れた多くの歴史ファンと知り合うことができたのも大きな喜びのひとつ。「若い人と語りたかった」という年配の方も来店するなど、世代を超えたコミュニティが生まれ始めています。

松林さん「“小さく始める”をモットーに、オープンの告知はSNSと店頭の貼り紙のみ。それでも朝7時から行列ができ、300人くらいのお客さんが来てくれて予想以上の反響でした。それも、もともとお店を知っている人がいてくれたおかげ。事業承継ならではですね」

家業とやりたいことを両立する事業承継。ハードルを下げてワクワクを大切に

斬新なアイデアと発想でお店をリニューアルした松林さんですが、もともとの家業だった時計店の業務も自らこなします。お店を継いだ時、すでに病状が進行していた父からノウハウを教えてもらうことはできませんでしたが、学生時代に手伝っていた経験と元スタッフからの手ほどきにより、依頼の多い電池交換はできるようになったそう。聞けば、父の時代には全国から問い合わせがくるほどの人気店で、ほかで直せなかった時計が持ち込まれることも多かったそう。「真心を込めて時計と向き合っていた父の姿勢も引き継ぎたい」と、現在は時計修理の修行真っ最中です。

一方で「事業承継とはいえ、まったく同じ形で事業を続ける必要はない」と、自らの選んだ道にも自信を持っています。

松林さん「愛されているしニーズもあるのに、継ぐ人がいなくて閉店していくお店を小さい頃からたくさん見てきました。もしかしたら子供が家業をやりたがらないなどの理由があったのかもしれませんが、必ずしもそのまま継続する必要はないと思っています。私も時計店そのままだったらワクワクしませんでしたから(笑)

自分の好きなことや得意なことを取り入れて事業承継のハードルを下げる、そんな方法を発信したいです」

歴史カフェがある商店街の様子

現在、お店は土日や祝日を中心に営業。本業の団体職員の仕事と両立すべく、毎日営業することにこだわらなかったのも無理なく続けるコツかもしれません。

今後は、松林さんが仕事に行っている間は希望者がお店を自由に使えるようなチャレンジショップ的な仕組みも考えているそう。「最初から完全なものを作るより、手ごたえやお客さんのニーズに合わせて変えていくほうがいいお店になる」と、柔軟な姿勢で経営にあたっています。

今後は「大好きな会津とコラボしたい!」と意欲を見せる松林さん。“歴史カフェ”というスタイルや歴史の知識を活かした経営のノウハウを公開して、全国に歴史カフェが誕生する未来を思い描いています。

歴史カフェを全国へ!

とにかくパワフルでアイデアマンな松林さん。事業承継にあたっては、ハードルが高いとされる内閣府の事業承継補助金を申請し、見事採択されています。制度を紹介してくれたのは、よろず支援拠点の担当者でした。自身の経験から今後は、事業承継を考える人はぜひ、まずは近くの支援機関に相談してみてほしいと話します。

松林さん「複数の目があった方が、思いもよらないアイデアが降ってきたりするもの。担当者と話し合いながら悩んだ日々は今では宝物です」

ビジネスプランコンテストの受賞式にリモートで参加

その甲斐あって、「歴史カフェ会津」の事例はビジネスコンテストで賞を受賞するなど、注目を集めています。

応募のきっかけになったのは、よろず支援拠点の担当者の言葉。「あなたのお店の魅力は鳥取県から外に出ていく事業ではなく、たくさんの人を鳥取県に呼び寄せる事業であること。自信持って!」と背中を押され、チャレンジすることができたのだそう。そのときの経験が松林さんを支えています。

松林さん「何事も土台が大事。お城もそうですよね(笑)。基盤を大切に、鳥取から天下統一を目指します!」

文・渡部あきこ

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