経営者仲間3人で引き継いだ「ネットカフェ」を「図書館カフェ」に。異業種だからできた戦略とは

2021年3月、宮崎県延岡市の国道10号線沿いにオープンした「図書館カフェ トムソーヤの森」。延岡唯一のインターネットカフェとして憩いの場になっているだけでなく、店舗内外でのイベントなど「ネカフェ」のイメージにはまらない仕掛けを次々と打ち出しています。

運営するのは、岡田明利さん、矢野修一さん、米川克哉さん。3人は延岡市内で別々の会社を経営していますが、先代のインターネットカフェが閉店することを知り、「地域の人が本に親しめる場所を延岡に残したい」と事業を継承しました。

3人ともインターネットカフェの知識はゼロでしたが、それぞれの強みを持ち寄って、新しい形を作り上げようとしています。「地元から応援される店にしていきたい」と話す3人に思いを聞きました。

「中国で一旗揚げる」はずだったんです

左・米川克哉さん、中央・岡田明利さん、右・矢野修一さん

岡田さんは花店、矢野さんはクリーニング店、米川さんは葬儀・仏具店とまったく別々のお店を経営している3人。繋がりが生まれたきっかけは「中国」でした。2012年に延岡市が中国東北部の大連金普新区と友好都市になったことが影響で、岡田さんは中国に出店。その後、矢野さんと米川さんも中国を視察したことがきっかけで3人はつながったと言います。

岡田さん「2019年、同じタイミングで中国に行ったことがきっかけでした。矢野さんは劇団もやっていてスポットが当たるところが好き。米川さんは仕事柄もあって裏方タイプ。みんなまったく違うんです。だけど、意気投合して、みんなで中国で一旗揚げようって話していました」

しかしコロナ禍により、中国での挑戦は中止を余儀なくされます。そんな2020年7月、矢野さんのもとに突然、インターネットカフェ経営の相談が舞い込んできます。延岡で長年親しまれてきたインターネットカフェ『フリースペース』の店長が、閉店を考えているとのことでした。

矢野さん「先代とは仕事上のつながりがあり、ある食事会で近況を話している時、『矢野くんのような人がやってくれるといいんだけど』と引き継ぎの話を持ちかけられました。当時はインターネットカフェにプラスのイメージがなかったし、自分のやっているクリーニング店とあまりにもかけ離れすぎいて手に負えないだろうと思っていたけど、翌日になっても頭の中でグルグル考えてしまっていたんです」

そこで相談したのが、経営の先輩である岡田さんです。話しているうちにポジティブな考えに変わっていき、最後はチャレンジを決意していました。

岡田さん「コロナで厳しい時代に入っていたので、矢野さんから相談を受けたときは半信半疑でした。だけど分析を進めていくうちに、この地域からネットカフェがなくなってしまうのはダメだと思いました。市民が本に親しめるネットカフェという場所が減ってしまうのは、延岡にとってプラスにならないと考えたからです。私自身、子供の頃から本が好きだったということもあって、市民が本に親しむ場所を一緒に作りたいという想いがありました」

その後矢野さんと岡田さんは事業承継を決意。「やるんだったら、米川さんも一緒に3人でやろう」中国がきっかけでつながった米川さんも加わって、3人で事業を承継しようという話に進んでいきます。

米川さん「話を聞いたときはすごく魅力的だなと思いまして、2人の力に少しでもなれればと思いました。本業が葬儀屋なのでまったくの素人なんですけど、自分の中で勉強になり、自分の成長につながるんじゃないかと思ったんです」

事業承継をするために、米川さんを加えた3人で新会社「アドプラス」を立ち上げ、岡田さんが代表取締役、矢野さんが取締役社長、米川さんが取締役専務に就きました。

フランチャイズじゃない、もっと地元に根ざしたものを

実際にフリースペースを視察し、宮崎県内外のインターネットカフェも調査。フランチャイズの資料も取り寄せたところ、湧き上がってきたのは意外な感情でした。

岡田さん「なんかこう、今あるものと同じものをそのままやろうという気持ちにならなかったですね。お客さんが入る・入らないじゃなくて、もっと魅力あるものにしたいというのを、まず最初に感じました。大手もノウハウがあって素晴らしいですが、もっと地元に根ざして作りたかったんです」

今よりも明るいお店にしたい、パソコンを減らして本を重視したい、女性が入りやすいお店にしたいと、話し合いを重ねるたびにコンセプトが少しずつ固まります。そこで浮かび上がったキーワードが「図書館カフェ」でした。

岡田さん「最初に削ったのが深夜営業でした。ネットカフェの夜のイメージを払拭したかったですし、スタッフから深夜対応の苦労を聞いていましたから。Wi-Fiがあればスマホ1つで十分でパソコンはいらない。だからこそ、活字の本の方が魅力あるんじゃないかなと思ったんです」

米川さん「『図書館カフェ』のコンセプトはすごく魅力的だと思いました。やっぱり地域のみなさんに気軽に入ってきて、本を手にとってもらえるようにしていきたいですね」

アクセスのいい国道10号線沿いに空き店舗を見つけたことで、お店の場所も変更することにしました。順調に準備が進んでいましたが、そこに立ちはだかったのはやはり資金面の課題でした。

岡田さん「最初に見積もりをしたときは6000万円ぐらいの投資が必要だったんですが、銀行に融資を断られました。そこから自分の取引先や知り合いに連絡して『岡田さんがやるなら手伝うよ』って言ってくれて、投資額を2500万円ぐらいまで抑えられる目処が立ちました」

「最初からうまくいくと思ってるんじゃないでしょうね!」

そうした努力もあって銀行からの融資も決定。延岡市が主催したクラウドファンディングコンテストにも出場し、優秀賞に選ばれるなど周囲からの期待も高まっていきます。そして、2021年3月1日にオープンの日を迎えました。

矢野さん「いろんな人が応援してくれるのはありがたいなと改めて思いましたね。一人でできることは本当に微々たるもので、人と人との関わりの中で商売が成り立っているのだと勉強になりました」

お店はコンセプト通り、図書館のようです。書籍は漫画だけでなく、小説や絵本など約3万冊。木をふんだんに使った内装と開放感のある吹き抜けの天井で居心地のいい雰囲気を作りました。ブースのメインは個室ではなく、図書館の勉強スペースのような半個室です。

岡田さん「入った瞬間から明るいお店なんです。内装もおしゃれでごちゃごちゃしていない。変な匂いがしないというか(笑)。安全安心で子供でも来られるお店になったと思いますね」

オープン直後から緊急事態宣言の影響もあり、想定通りには進んでいない部分もあると言います。悩みが続く日々を救ってくれたのは、身近にいたあの人でした。

岡田さん「オープンしてすぐの数字を見たときに思った数字までいってなくて、それからは眠れない日々が続きましたね。何もかもが不安に思えてくるんです。で、あるとき、奥さんから言われたのが『まさか最初からうまくいくと思っているんじゃないでしょうね』なんです。

そのときに初めて目が覚めました。そうだよねって。そんなに簡単に行くはずがないんだと、冷静に物事を見られるようになって、1人ずつお客さんを増やすためにどうするかを考えられるようになりました」

岡田さんたち3人はさっそく動き出します。オープンから1ヶ月が過ぎた4月、お店の駐車場を使ってフリーマーケットを企画しました。

矢野さん「クラウドファンディングのときの審査委員長の人がオープンの日に来てくれて、フリーマーケットをするといいよってアドバイスしてくれたんです。お店の前が活気づくと人が人を呼んでくるよって。

そのことが頭にあったから会議のときに提案したら、すぐにやろうって話になりました。そうしたら今度は移動販売の人たちが来てくれることになったんです。クリーニング業だとつながらない人たちばかりなので、人がつながっていくって素晴らしいなって思いました」

イベント企画は店内へも展開していきます。岡田さん自らが講師となるフラワーアレンジメント教室や、外部講師によるハンドマッサージ、占いなどネットカフェのイメージにはまらない企画を次々と打ち出していきます。

岡田さん「イベントをやったことによって、いろんな学びがありました。ここを通していろんな人たちの関係性が生まれる場所になって、オープンした時には想像していなかった魅力が生まれています」

「本好きになってもらいたい」新たな文化の拠点へ

半個室の一部に仕切りを導入するなど利用者の声を取り入れながら改良を加え続けている岡田さんたち3人。オープン当初から働くスタッフたちもスキルが伸び、それぞれにアイデアを出してくれているそうです。

岡田さん「やっぱり延岡の人たちに本を好きになって欲しいという思いがあるんです。みんなが活字を読むことで、自分の中に持っているものを大きく膨らまして欲しいなって。ここは本好きになってもらえるお店でありたいと思っています」

また3人で試行錯誤しているからこその手応えも感じていると言います。

岡田さん「休日を中心に女性客が訪れるようになり、中にはグループで楽しむ学生の姿もあります。当初の狙い通り、女性客からは『明るくてよかった』『本がいっぱいあって楽しかった』『また来たい』と好印象の感想が寄せられています」

地元に根ざした新しい形で生まれ変わったネットカフェ。延岡の新しい文化の発信拠点になってもらいたいですね。

トムソーヤの森HP

文・後藤慎市郎

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