事業承継ストーリー

暮らしと共に受け継ぐ「香味園」。フランス人の夫と決めた移住と働き方

山陰の小京都と呼ばれる観光業で賑わい、外国人の訪問客も多い島根県津和野町。小さな町にある「香味園 上領茶舗(かみりょうちゃほ)」は、1930年に創業されたお茶の老舗です。「カワラケツメイ」というマメ科の植物を焙煎して作る「ざら茶」をはじめ、日本茶やブレンド茶などを幅広く取り扱っています。

3代目を承継したのは、先代の孫であるリコッタ(上領)瑠美さんとフランス人の夫のアドリエンさん。国際結婚をし、都会暮らしをしていた2人がなぜ、島根にIターンをし未経験のお茶屋の承継を選んだのでしょうか。瑠美さんにお話を伺ってきました。

「移住も承継も…」舞い込んだような出来事だった。

大阪で生まれ育ち、大阪の大企業でマーケティングや商品企画、マネジメントを主にして働いていた瑠美さん。もともと津和野への移住も祖父の経営する事業を承継する意識もなく社会人生活を過ごしていました。

瑠美さん「香味園は、1930年に曾祖父が創業し、祖父へ引継ぎ、津和野でずっと経営していました。いずれは父が後継者となる話もあったのですが、その父が膵臓癌による余命宣告を受け、闘病生活に入ったことで、お茶屋を継ぐ可能性がなくなったんです。闘病生活に入った父は、お茶屋を継ぐどころか津和野町に戻ることすらできなくなったんです。

一人っ子だった父の闘病により継ぎ手が居なくなってしまったお茶屋を、このまま終えるかという話になったときに、“私と夫でチャレンジしてみよう”という話になり、移住と承継を決めました。もちろん、都会から田舎へ住み移ることも、仕事を大きく変えることも、人生を大きく変えることになるし、何より今の楽しい生活も捨てがたく、悩みましたね。

でも、今までの仕事の経験が活かせると感じたし、偶然にもまた津和野の外国人観光客の半分がフランス人だったことから、夫と一緒に、津和野の観光やお茶の輸出、インバウンド向けの企画や広報活動など、何か良い動きを夫婦で作れるのではないかという話になりました。今思うと、全て縁で繋がれていたと感じます」

事業承継と移住の決め手になったのは「全てが縁だった」

こうして津和野に引っ越し、香味園を継ぐこととなった瑠美さん夫妻。実際に経営を始めてみて、さっそく課題にぶつかります。それは「まちの過疎化」。観光業でかつて栄えた津和野町の高齢率が48%という事実に、厳しい事業の生き残りを目の当たりにしました。さらに追い打ちをかけるようにコロナ禍の波が襲います。

経営を立て直し店を発展させるため、瑠美さんたちが着目したのは津和野で長年親しまれてきた「ざら茶」と、さまざまなハーブや漢方をブレンドしたティータイムのPRでした。

瑠美さん「承継後はTVや新聞の取材に積極的に応じ、商談会への参加、ハーブのブレンド茶をきっかけにざら茶の知名度向上に努めました。

2018年にはざら茶をパリに持っていき大変好評で、セボンルジャポンというパリの食博で受賞もしました。ざら茶は基本的には日本でしか育たない、しかもマイナーなお茶なので、日本の薬草として紹介しました。ノンカフェインで無農薬、その上で優しい味わいとほんのり甘く、こうばしい香り。それだけでなく、津和野で飲まれてきた歴史も多くの方に興味を持って頂けるきっかけになりました」

生き方のベースとなる部分を”暮らし”にしたかった

2017年に津和野町に来てから約1年は前職の仕事をリモートで続けながら、その合間に店の経営もしていた瑠美さん。その間、ご主人のアドリエンさんが店の経営を行っていました。

瑠美さん「 生計のためにリモートでの仕事を続けていましたが、片手間の時間と気持ちでは、店を立て直すのは厳しいと感じました。だけど、夫婦でお茶屋一本だと生計が厳しくなってしまう。生計のための”2足のわらじ”か、店を立て直すために茶舗一本かの選択に迫られたときに、リモートの仕事を手放すことを選びました。

悩みましたが店一本でやろうと決めた理由は、生き方のベースとなる部分を”暮らし”にしたかったからです。生きるために働くのではなく、暮らしの中に仕事がある。自分の人生を生きるという観点で考えたときに、経済的な事情よりも、家族と一緒に過ごす時間が、想いを持ったものであるか、健康に過ごせるかが一番大切なポイントになりました。時間と健康はあとからではどうにもならないですよね。

家族との時間を大切にしたいと想うことで、夫婦で営む家業に注力できることが、承継して一番良かったことだと感じます。と感じることができ、その思いとともに仕事に注力したいと思いを叶えられることが、承継して一番良かったことだと感じます」

移住して感じた、津和野の良さ

また、津和野で経営を行うことで、改めて津和野の良さにも気がついたと言います。

瑠美さん「都会の大きな企業で働いていると、同じような業界の人やどこか自分と似たような暮らしの人と出会うことが多かったです。小さな町で小さなお店を営み、小さな暮らしをしていると、業界も年齢も飛び越え、今までに無い出会いから生まれるインプットが増えました。

全く別の業界の働き方や暮らしを知ることで、知見も広がり、知見が広がることでことで自分の考え方や価値観も広がった気がします。

今までは学ぶ機会・仕事・暮らしは別々でしたが、今現在は暮らしの中に学びがあり、自然と入ってきて楽しい」と話してくれました。

暮らしの中にお茶の時間を増やしたい

今後は香味園の主軸でもある”ざら茶”等の商品販売はもちろんですが、マイチャ体験というオーダーメイド茶を作るワークショップの開催頻度を上げることで、お茶の効能や魅力を伝えていきたいと言います。

瑠美さん「特に、最近の若い人たちは“お茶しようよ”となったときに、カフェに行っておしゃべりすることを指しますよね。“お茶しようよ”の気分や体調に合わせた、お茶を楽しむ暮らしを提案したいですね。お茶が水分としてではなく”時間をより豊かにするツールとなればいいね”と主人と話しています。

今ではワークショップを開催により、若い世代の方へのお茶への意識の変化が多くみられます。また、国際結婚の二人だからこそできることを提案したいとも考えています。

瑠美さん「夫の言う“ワインのように飲み物で食事がより美味しく、楽しめる時間になる”といった、食とのペアリングを取り入れる暮らしの提案もしていきたいです。お茶とハーブのブレンドなどで、体調や気持ちを変えられることもお伝えしたいですね。音楽を聴いて気分をリセット出来るように、気持ちに合わせて手軽に楽しめるアイテムになると良いと思っています。

暮らしの中にお茶の時間を持つ人が増えることも香味園を経営する上での目標のひとつですよ。お客様のニーズで商品を作ることや、香味園の唯一無二の強みが生きる商品を作ること、業績改善のためのポイントを絞ることなどは、業種が違えど過去の経験が今の事業にも生かされています」

瑠美さんの語る多くの言葉には、受け継がれた思いとこれからの町や店・家族を大切にする生き方が詰まっているように感じました。

文:瀬島 早織

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