江戸時代から続く老舗海苔店。未来の当主は伝統をどう引き継ぎ、どう革新していくのか

日本の歴史や文化、商業の中心の地として知られる東京・日本橋。江戸の伝統が息づくこの街に、今年で172年目を迎える老舗「山本海苔店」があります。

山本海苔店は創業当時から、店を継ぐと同時に「山本德治郎」を襲名する伝統があり、現在は六代目である取締役社長が、その名を引き継いでいます。

「人生の様々な選択を、『山本海苔店の当主になるには、どれが一番いいのか』ということを意識しながら決断してきた」と語るのは、現社長の六代目を父に持ち「山本德治郎」を継承するために日々奮闘している、専務取締役の山本貴大さん。

山本海苔店の未来を受け継いでいく貴大さんに、伝統を守り続けること、革新を続けていくことへの想いをうかがいました。

将来は当主になることを想定していた

山本海苔店 専務取締役 山本貴大さん(写真提供=山本海苔店)

父親と祖父から「店を継いでほしい」と言われたことは一度もなかったという貴大さん。母方の親族からの“刷り込み”もあって、物心がついた頃から漠然と山本海苔店の当主になることを意識していたそうです。

貴大さん「店を引き継ぐことが当たり前だと刷り込まれていたので、3歳ぐらいから将来は当主になることを想定しながら生きています(笑)。学生時代は学級委員をしたり、サッカー部のキャプテンをしたり、将来の社長業に役立ちそうなことは進んで取り組みました」

大学卒業後はすぐに山本海苔店に入社せず、銀行に就職。その選択も、将来を見据えてのことだといいます。

貴大さん「商売なら商社、経営ならコンサルティング、お金の流れなら金融と、仕事を通してどんなことを学びたいかを考えていました。就活中、様々な会社にOB訪問をしていたところ、『商売や経営は得意な人を雇ったらいい。でも経営者にとって大事な能力は危険を察知する能力であり、それを学べるのは金融ではないか』というアドバイスを受けて銀行を選びました」

海苔業界の将来を左右する仕入れという仕事

仕入れた海苔をさらに仕分けていく(写真提供=山本海苔店)

4年間の銀行勤務を経て、山本海苔店に入社した貴大さん。始めに配属されたのは、仕入部でした。

貴大さん「現在は、主に九州有明海の初摘みの海苔を仕入れているのですが、仕入れができるのは冬のシーズンだけ。そして、海苔には等級がつけられ、等級別に仕入れた海苔を『仕訳技術室』という山本海苔店の伝統を受け継ぐ専門部隊によって、厳格に仕分けられています」

元銀行マンの貴大さんが、仕入部で働き始めて間もない頃、海苔を安値で仕入れられたことが良いことだと思ったそうです。その当時の専務に吉報として話したところ、意外な言葉が返ってきました。「海苔のリーディングカンパニーである山本海苔店が、こんな値段で仕入れていては、海苔業界に未来はない。おいしい海苔は、しっかり高く買うべきだ」と。

貴大さん「この言葉には衝撃を受けました。銀行マン時代安く買い、高く売ることができる会社が良い企業だと思っていました。しかし、山本海苔店では、そのような考え方ではなく、良い海苔を意図的に高い価格で買っているのです。そうすることで漁師さんのモチベーションが上がる。さらに信頼関係も築けるので、長いスパンで海苔業界を支えることになるのだと気づくことができました」

香りと味がいい有明海の初摘み海苔は、収穫できる期間も短くて希少なもの。現地の漁師との信頼関係があるからこそ、山本海苔店の品質を守り続けることができているのです。

貴大さん「よりおいしい海苔をお客様に届けるために、生産者や環境への配慮も必要です。ある意味山本海苔店は江戸時代から、海苔業界のSDGsをやっていると言ってもいいと思います」

海外展開をする中で感じた、日本に必要なこと

定番商品の「梅の花」。お中元やお歳暮のギフトとして人気が高い

仕入部で経験を積んだ後、上海の山本海苔店の子会社である丸梅商貿に勤務した貴大さんは、おむすび屋「Omusubi Maruume」を立ち上げました。その後は、シンガポールの髙島屋や台北の三越店など、さまざまな海外店舗の立ち上げに参画しました。

貴大さん「新事業を多くやらせてもらえたことに感謝しています。海外展開をしていく中で、海苔のおいしさを伝えるだけでなく、海苔をどう食生活に取り入れていくのかを体験していただく “コト消費”を意識しました。

軽くて高級感のある海苔は、かつてお中元やお歳暮などの贈り物として人気の高い商品でした。しかし時代も変わり、配送技術が向上したことでお客様の選択肢も増え、海苔ギフトの売り上げは伸び悩んでいます。一方、日本には様々な歳時記やイベントがあって、中元歳暮を除くギフト市場全体は好調です。海苔は軽くて高級品ですので、その強みを活かせるお土産・手土産に力を入れています」

社員と共に生み出した理念を掲げて

山本海苔店のシンボルである「まるうめマーク」の暖簾は、代々引き継がれている

様々な困難を乗り越えて百貨店への進出を果たした五代目。六代目の德治郎さんは、和食離れで海苔の消費が減ったことを受け、2枚の海苔で具材を挟みスナック感覚で食べられる「おつまみ海苔」や、カンロとのコラボ商品でコンビニでも気軽に購入できる「海苔のはさみ焼き」を開発しました。

こうして時代に合わせて革新を続けてきた山本海苔店。2015年に専務取締役営業本部長となった貴大さんもまた、時代に合わせて革新を続けていこうとしています。

貴大さん「手軽な商品を打ち出すこと、拡販することを良く思わない社員もいました。商品の質を落としかねないという思いがあるからだと思いますが、僕は海苔の品質を絶対に落としたくはありません。でもパッケージその他を工夫することで、もっと気軽に山本海苔店の商品を多くの方に楽しんでいただけると思っているのです」

社員みんなが目標に向かうための“指針”が必要だと感じた貴大さんは、会社の理念を作るワークショップを社員と共に行いました。

貴大さん「うちには『お客様を大事にする、そして社員を大事にする』などの行動指針はありましたが、明文化して社員みんなが共通で認識しているような理念を掲げていなかったんです。

ワークショップでは社員みんなで意見を出し合い、『よりおいしい海苔を、より多くのお客様に楽しんでいただく』という理念を確認しました。この理念を決めたことで、会社の目指すべき画がハッキリし、全社一丸となって一つの目標に向かっていけるようになりました」

ニューノーマルの時代へ向かう山本海苔店

9階建ての社屋の1階にある本店

日本橋は長期にかけて再開発を進めており、山本海苔店の本店がある社屋も、遅くとも2023年度中に取り壊すことが決まっています。

貴大さん「再開発が完了するまでは、仮店舗で営業を続ける予定で、山本海苔店にとっても新しい挑戦をする絶好のタイミングだと思っています。海苔をただ買う場所ではなく、海苔を楽しむ場にしていきたい。飲食ブースを設置するなど、海苔のおいしさや魅力を知ってもらうきっかけ作りをしていけたらと思っています」

江戸から続く山本海苔店は、伝統を守りながらも、「ニューノーマル」という新しい時代に合わせて、革新し続けています。再開発は5、6年後には完了を予定しており、その時、山本海苔店はどんな新しい姿で迎え入れてくれるのか、期待が高まります。

山本海苔店ホームページ

文・久保田亜希

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