事業承継ストーリー

音楽活動の場を絶やさない!ライブハウスの2代目オーナーが目指す音楽と地元豊中への恩返し

曽根の住宅街にある「Live Cafe ARETHA(以下アレサ)」。ここ曽根地域(大阪府豊中市中部に位置する地域)で音楽活動をする人やサークルで賑わうライブハウスです。

前オーナーの中野さんは14年近くにわたり経営を続けてきましたが、新型コロナウイルスの影響により経営状況は悪化。2021年5月に閉店を決意し、SNSで跡継ぎ募集の告知を出したところ、数名の方から連絡をもらい、現オーナーの右京さんにお店を継ぐことが決まりました。

本記事では、アレサを立ち上げた中野さんの想いと、それを引き継いだ右京さんのこれからに駆ける想いについてお話を伺いました。

コロナ禍の影響でイベントは軒並みキャンセル。閉店寸前に

前オーナーの中野さんは、趣味でバンド活動をしていましたが、曽根にはアマチュアのバンドが出演できるライブハウスがありませんでした。「曽根地域にも音楽活動の場を」という想いから、2007年にアレサをオープンします。

すると、地域で活動するゴスペルやコーラスグループ、朗読教室、童話創作教室といったサークルが発表や練習の場として利用するようになり、地域コミュニティのハブのような存在に。

また、新規のお客さんも気軽に来られるように、フリーセッションやオープンマイクといったイベントも定期的に開催していたそうです。

中野さん「フリーセッションは人気イベントの1つでした。いろんなジャンルの方が思い思いに楽器を演奏したり歌を歌ったりして、楽しい空間になっていましたね」

しかし、新型コロナウイルスが感染拡大した2020年3月ごろから、予定されていたイベントは軒並みキャンセルになってしまいました。来年には状況が良くなるだろうと見込んでいましたが、2021年1月に2度目の緊急事態宣言が発令。

精神的にも肉体的にも疲れてしまったそうです。ギリギリまでお店を続けるか悩み、今年の5月に閉店告知をしました。

定期的に開催していたお客さま参加イベントでの風景

中野さん「この近辺だとドラムやピアノ、ギターアンプが揃っている施設が公民館ぐらいしかないんですね。サークル活動を生きがいにしているお客さんも多くて、『これからどこで活動すれば良いの?』と閉店を悲しむ声をいただけて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

ただ、お店を閉じるにしても原状復帰をしなければならず、多額の費用がかかります。まさに、閉店するにしても地獄、続けるのも地獄という状態でした。

中野さん「お客さんやこのお店を設計してくれた人に『場所を引き継ぐ人を探してみてはどうか?せっかく演奏できる場所があるし、なくしてしまうのはもったいない』とアドバイスをいただきました。それでFacebookに跡継ぎ募集の投稿をしたら、数名の方からお問い合わせをいただいたんです」

音楽業界、地元に恩返しをしたい

立候補をした人の中には、現オーナーの右京さんもいました。右京さんはアレサに対して、特別な想いを抱いていました。

右京さん「隣町の服部天神で『HattoriBeat/服部天神”歌おこし”フェス』を主催しています。アレサにはそのフェスのスポンサーになっていただいたり、音楽活動5周年のワンマンライブでも使わせてもらったりと、特に思い入れのある場所でした。閉店すると聞いたときはいても立ってもいられず、すぐに連絡をしました」

しかし、ライブハウスを維持するには多額の費用がかかるうえ、新型コロナウイルスも収束していないなかでの事業承継です。中野さんは詳しい事情を伝えたら逃げてしまうだろうと、あまり期待していなかったそうです。しかし、右京さんの本気の想いが、中野さんの心を打ちました。

中野さん「お店の経営の裏側を伝えても、すべて『それは想定内です』と言ってくれて頼もしかったんです。これはもしや運命の方かもと思って、その日はうれしくてスキップして帰りました(笑)」

右京さんがライブしているときの様子

右京さん「8年くらい音楽活動をするなかで、ミュージシャン同士のつながりもできて、どうライブハウスを運営すれば良いかというアイデアは蓄積されていました。

かつ、ここ数年は地元である豊中を拠点に音楽活動していて、音楽ジャンル以外で精力的に地域活動をしている方々ともつながりができたので、なにかおもしろいことができるかも?と思っていました。

また、コロナの影響でライブハウスの閉店が相次いでいます。僕が大学時代からお世話になったライブハウスも去年閉店してしまいました。もっと何か自分にできることがあったんじゃないかとすごい悔しくて。そんななかでの今回の話だったので、これはやるしかない、と」

熱意だけじゃなく、曽根地域を起点に音楽活動をしていることや右京さんの人柄も、決め手の1つだったそうです。

中野さん「地元で音楽活動をされている方なので、助けてくれる人や支援者は多いと感じました。右京さんにお店を引き継ぐことを話したら泣いて喜んでくださる常連さんもいました。

右京さんを知っている常連さんも多いし、知らない人も一度会ったら『この人なら!』とすごい喜んでくれました」

“音楽の火”が消えないように。みんなが生き生きと音楽できる場所を守り続ける

先代の中野さんは、ご高齢の方、女性でも気軽に入れるような空間作りを意識していたそうです。

中野さん「地下にあって、狭くて、暗くて、タバコくさい……みたいなライブハウスだと女性は入りにくいですよね。立ち上げ当初は『カッコイイ店にしたら良いのに』とお客さんに言われたこともありました。

でも、居心地をよくするために、あえて自分の家のような雰囲気にしたかったんです。前の文化を踏襲して、かつ右京さんのカラーを加えて運営してくださるのは、これ以上望むことはないです。本当にうれしいです」

右京さん「『かっこよくしすぎない』雰囲気は僕も大事にしている部分です。新しい人が飛び入りで演奏できるオープンマイクのイベントに年配の男性がいらしたんですね。最初は少し自信なさそうな感じでしたが、最終的には譜面も見ずに上手に弾き語りの演奏していました。

この場では何だかとても生き生きしているように見えたんです。もし、おしゃれでカッコイイ雰囲気だったら、身構えてしまってなかなか自分を出せないと思うんですよ。アレサでは、肩肘張らずに自分をさらけ出せる空間にしたいですね」

そんな先代の中野さんが作り上げた文化を残しつつ、どのような試みをしているのでしょうか。右京さんに聞いてみました。

大きな窓からは陽の光が入り、開放的な空間

右京さん「アマチュアのミュージシャンのライブを見に来るのって、かなりハードルが高いと思うんですよね。まずは、ここに来やすい日を設けたいと思って、フリーマーケットや上映会、ギターレッスンなど、ライブだけでなく音楽を軸にさまざまなイベントを企画・開催しています。

こういったイベントを起点に、徐々に地域のミュージシャンとも接点を持ってもらえたら、ライブに来る抵抗は徐々になくなるのかなと思っています。

また、SNSの発信にも力を入れています。アレサの強みでもある居心地の良さをもっとアピールするために、店内の様子や空間の魅力を発信しています。意外とこれが反響があって。

一般的なライブハウスは窓がなくて暗いんですけど、アレサは窓から光が入って、天井が高いから雰囲気が開放的なんです。ここはもっと打ち出していきたいですね」

地元の人が憩う場所をつくりたい

最後に、右京さんがアレサにかける想いを伺いました。

右京さん「私は仕事がバリバリできるタイプの人間ではなくて、あんまり自信が持てませんでした。だけど、音楽に救われて希望をもって生きられています。

歌が歌えること、楽器ができることが自信になっている人は少なくないのかなと思います。そういう方々が生き生きと活動できる場にしていけたらと思います。

また音楽をしている人だけでなく、もっと曽根地域の人にもこのお店を知ってもらいたいです。気軽に来られる日を定期的に設けて、まずはお店に来てもらいたいです。ゆくゆくは地域の人の憩いの場にできたら良いですね」

音楽業界は、新型コロナウイルスで大きな打撃を受けました。有名なライブハウスの相次ぐ閉店、有名フェスの開催中止など、ここ1年良いニュースは聞こえてきません。

しかし、それでも右京さんのように「音楽の火を消してはいけない」と使命感を持ち、立ち上がる人たちもいます。今後、アレサが曽根地域でどのような存在になっていくのか、目が離せません。

文:俵谷 龍佑

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