事業承継ストーリー

ガッツリ系弁当ショップを受け継いだのは女性。入念な準備と新機軸で若い世代を取り込む

東京の吉祥寺にある「ママズダイナー」は、成蹊(せいけい)学園と成蹊大学前にある小さなお弁当屋さんです。創業後40年以上に渡って学生や先生、地域住民に愛され続けてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、お店の経営状況が悪化。先代の夫婦が高齢ということもあり、2021年4月に惜しくも閉店していました。

「コロナ前には行列ができるほど人気の唐揚げ弁当を販売し、長年愛され続けたママズダイナーを失うのは惜しい」

そう思いお店を引き継いだのが、2代目の日下部(くさかべ)優希さん。2021年7月に復活を果たしました。

はじめから、お弁当屋さんをやろうとは思っていなかった

実は日下部さん、承継する前にママズダイナーを訪れたことは一度もありません。そんな日下部さんがなぜ、2代目としてママズダイナーを引き継ぐことになったのでしょうか。

日下部さん「元々、自分の飲食店をやりたいという思いがありました。そして物件を探していく中で、たまたまママズダイナーが営業していたこの場所を見つけました。

お弁当屋さんではなくて、サンドイッチやフルーツサンドなどの洋風の店をやりたいと思っていたんです。ただ、この場所でやっていたお店がママズダイナーが地域住民や学校関係者に長く愛されたお店だったこと、惜しまれた末の閉店だったことを知りました。『この場所で求められていることは、ママズダイナーを続けることだ』と思い、引き継ぐことを決めました」

「学生さんの生活に優しいお店」という先代の思いはそのままに

日下部さん「お店の周りには成蹊学園や成蹊大学といった学校があるので、ママズダイナーを利用する学生さんは多いです。だからこそ先代は、できるだけ低価格でお弁当を販売して、なるべく学生さんの負担にならない形でお店を継続してほしいと仰っていました」

ママズダイナーの常連には部活をやっている学生も多く、メインのお客さんは運動部だそう。先代の思いを踏襲し、低価格かつガッツリ系というお店のコンセプトは今でも変わっていません。メニューには、普通のお弁当に加えて「大盛」「体育会盛」「スーパー体育会盛」「ウルトラ体育会盛り」という文字が見えます。

飲料メーカーやグルメ広告、飲食のコンサル経験を活かす

ママズダイナー2代目の日下部(くさかべ)優希さん

日下部さんはママズダイナーを引き継ぐ前、飲料メーカーやグルメ広告の仕事、その後独立して飲食店のコンサルをしていたそう。学生時代には大手居酒屋チェーンの「鳥貴族」で4年間働き、若い頃から飲食の経験を積んでいました。

日下部さん「承継した際、レシピは全て先代から引き継ぎました。また、実際にママズダイナーで働いていた人に教えてもらいながら試行錯誤を繰り返しました。最初は調理などのオペレーション、いつどのくらい作ればいいのかといった時間の使い方に苦労しましたが、飲食のコンサルをやっていた経験でなんとか対応できました。

コンサルはお店の売上が上がるような提案をする仕事。先代に承継したい旨を伝えた際にも、その経験は役に立ったと思います」

洋風メニューにバナナジュース。新しい展開をみせるママズダイナー

先代の運営方針やメニューをそのまま継続しているというわけではなく、日下部さんだからこそのオリジナリティが発揮されている部分もあります。

日下部さん「元々のメニューは揚げ物がメインですが、女の子にもママズダイナーを利用してほしいという狙いから、ロコモコ、ガパオといった多国籍系のメニューを増やしました」

日下部さん「バナナジュースやレモネードなどのドリンクも販売しています。レモネードやフルーツティーは、学生さんだと100円引にしています。

若い世代は流行りのドリンクにも敏感なので、今後はドリンクスタンドも一緒にやっていきたいです。学生さんだけでなく、周りにはお子さんがいる地域住民の方も多くて、特にバナナジュースが好評ですね」

学生や地域に求められたママズダイナーの役割をしっかりと受け継ぎつつ、若者向けのメニューを展開。次々と新しい風を取り入れていく日下部さんからは、かつての豊富な飲食経験が活きているようです。

先代とのすり合わせ。再始動に向けた準備、広告としてのクラファン

日下部さん「第三者の場合、『なぜ事業を続けたいと思うのか?承継後に新しくやりたいことはあるか?今まで自分がやってきたことがどう活かせるのか?』といったすり合わせが必要だと思います。

私の場合、ある程度お店の運営方法が定まってからオープンする日を決めました。再開のタイミングだけを先に決めてしまうと、それに合わせようとして実際に必要な準備がぐちゃぐちゃになる可能性があるので。クラウドファンディングはそうした意味でも有効だったと思います」

ママズダイナーの再始動に向けて、日下部さんはクラウドファンディングで100万円の資金調達を達成。成功させるための下準備も怠りませんでした。

日下部さん「資金調達のために、まずはtwitterを開設しました。バナナジュース1杯無料とツイートして拡散してもらったり、地域を回ってポスティングもしましたね。普段から利用してくださっている大学の先生方も資金調達に協力してくれました。

クラファンはただの資金調達ではなく、広告でもあるので、ママズダイナーとその復活を広めるためにも活用していました」

学生の雇用を生み、協働に向けた足がかりをつくる

ママズダイナーの復活を喜んでくれた地域と常連客に感謝する日下部さん。加えて、コロナ禍では学生にとっての良い機会にもなったそう。

日下部さん「まずはママズダイナーが復活して喜んでくれたこと、さらに美味しくなって帰ってきたと言われて嬉しかったですね。

学生にとってはなかなかアルバイトしづらい今の状況だからこそ、近くの学生さんに働いてもらえることはお互い助かっています。新しい雇用を生み出したことも承継して良かったことだと思っています」

最後に、これから新しく展開していきたいことについてお聞きしました。

地域への弁当配達にイベント出店。地域で良い循環を生む

日下部さん「店頭の販売だけでなく、これからは学校へお弁当の配達もやろうと思っています。今はまだ人手が足りないので難しいですが、周辺のオフィスや工場内への配達も視野に入れています。あとは、地域のイベントへの出店ですね。かつて私がやっていた広告の仕事や営業で培った経験が活かせると思っています。

学生さんたちが夏季・冬季休みの際は客足が減るので、彼ら彼女らがいるところ、たとえば教習所に出店することも考えています。学生さんとの繋がりを意識して仕事を続けていれば、イベント出店の際に働いてもらえる可能性もありますし、雇用も生まれます。ママズダイナーを起点に、地域の中で良い循環をつくっていきたいですね」

閉店が惜しまれた後に復活を果たしたママズダイナー。先代の学生に対する優しいまなざしと思いを引き継ぎつつ、新しい展開の数々が始まろうとしています。変わらない味と変わっていく地域の味方のこれからに期待です。

文:窪谷 航

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