事業承継ストーリー

「町工場」をかっこいい集団に。人の魅力で創業56年の会社に勝負をかける3代目

株式会社タシロは、神奈川県平塚市にある、創業56年目の金属加工を行う会社です。産業用機械装置の部品製造を主に、精密板金加工と精密機械加工を行っています。近年は、アクリルパネルの取付スタンドやソロキャンプ用のアウトドアギアなど、自社製品も開発しています。

田城功揮(たしろこうき)さんは、新卒で人材会社に就職した後、家業であるタシロへ入社。現在は取締役として、主に人事労務の業務を中心に携わっています。

田城さん「人の魅力で勝負している会社でありたいんです。技術力が高くても、基本的なビジネスマナーができていなかったり、人としての魅力がなかったりすれば、仕事は続かないですから」

取材当日に用意してくださったウェルカムボード

と語ったように、人間力を大切にしている田城さん。家業に入ることになった経緯、そして家業に入ってからの変革や取り組みについてお話を伺いました。

名字を見るや『あの看板の会社の人?』

株式会社タシロ・田城功揮さん

株式会社タシロは、田城さんの祖父が創業した地域密着型の製造企業です。田城さんは、幼少期の家業への印象について、学生時代のエピソードを振り返ります。

田城さん「会社の最寄り駅・平塚駅の地下通路にタシロの看板があるんですね。平塚市内の高校に入学したときは、自分の名字を見るや『あの看板の会社の人?』みたいに言われたりして。市内で知名度が高いんだなと思ったことを、おぼろげながらに記憶しています」

小学生低学年から、将来の夢は経営者か学者になりたかったそうですが、家業を継ぐ選択肢はなかったそうです。

田城さん「祖父や父は会社を継いで欲しい意志はあったと思いますが、『自分がやりたいことでなければ経営者は務まらない。自分のやりたいことに没頭して欲しい』と言われてきたので、家業に入る選択肢はなかったですね」

タシロが製造する機械装置の部品

学生時代には、「英語への苦手意識を克服したい」と考え、国際ボランティアのNGO団体でフランスやアイスランドなどでボランティア活動に参加。元々人が好きだったが、多様な人と出会っていく中で、人への興味は益々増し、人の個性を活かすサポートがしたいと人材大手パソナキャリアへ就職します。パソナキャリアでは、都民の雇用や就業を支援する施設に客先常駐し、就職支援をサポートする仕事に就きます。

田城さん「人材紹介業の営業部署って、一般的にIT、医療、金融、製造など業界ごとに分かれているのですが、私が働いていた部署は東京都すべての企業が対象だったので、人気のある仕事とそうじゃない仕事の差が実感できる職場でした。製造業は特に人気がなくて(苦笑)製造業は斜陽産業ということをまざまざと思い知らされました」

自分が主導となって人生の舵を切りたい

前職に勤務してから3年経った頃、出世の話をもらったそうです。しかし、カンパニー統合で出世の話は立ち消えに……。

田城さん「創業社長や株主の意見で、出世の話が白紙になったりグループ会社の社長が交代したりするのを間近で見てたんですね。会社に人生を左右されるくらいなら、自分が主導となって人生の舵を切りたいなって思ったんです」

どの事業で独立をしようか悩みに悩んで、大学時代にNGOで鍛えた海外ボランティアの経験と、人材業界で培った労基法や人事・労務の知識を活かし、技能実習生の受け入れ事業をすることに決めました。しかし思わぬ壁にぶつかります。

田城さん「ただ、その事業を立ち上げるには事業協同組合を4社で立ち上げて、さらに自分も会社経営者でなくては難しいことが分かりました。それで父に相談したら『家業に入ったらどうか』と言われて。家業で自分の力を発揮できる場があるならチャレンジしたいと思い、家業へ入ることにしました。育ててくれた家族や地域にまずは貢献したいという想いが強かったのもUターンを後押ししました」

「不人気かつ、離職率が高い」町工場の現状を打破したい。

入社後はタシロの取締役として人事労務に携わりました。しかし、製造業と異業種への転職に、戸惑う部分も多かったそうです。

田城さん「今まで一緒に働いてきた人たちとは違うカラーだったり、違う考えもあったりで最初は戸惑いました」

また、町工場は就職でも不人気でかつ離職率が高く、採用率を上げることと、人材の定着率を上げることが目下の課題だと田城さんは話します。

田城さん「採用率を上げるために、まず経営方針を固めました。ビジョン、ミッション、バリューを定め、この組織はどこを目指すのか。何のためにあるのか。どんな考えを軸にするのか。既存の社員に浸透させるためには多国籍な組織なので、日本語、ベトナム語、中国語のそれぞれ資料を作成し説明しました。

その後手当面を充実させました。今まで住宅手当が5,000円だったのを15,000円にしました。また、通勤手当は5,000円でしたが、これだと近所の人しか来られないので、30,000円まで引き上げました」

なぜタシロで働くのか、自分が何をしたいのか。タシロで働く従業員には、仕事をとおして働く意義や生き方を考えてもらいたいと田城さんは語ります。

田城さん「前職の時に、やりがいを強く持って働くにはどうすれば良いか自分自身相当悩みました。今タシロでは、毎年1月に全従業員が自身の目標を設定しています。4半期ごとに振り返る機会をつくり、組織が目指す方向性や目標と、個人が大切にする価値観やキャリアがどうリンクしているかを振り返る機会にしてもらっています」

前職の経験を活かして、新人教育と責任感の醸成にも力を入れる。

前職でビジネスマナー研修の講師をした経験を活かし、新人教育にも力を入れています。

新人研修で使う課題図書

田城さん「新卒社員には、私が選出した課題図書を読んでもらっています。やっぱり自己研鑽して目的を持って生きてほしいなという想いがあって。また、仕事では挨拶やビジネスマナーが重要だと思っているので、弊社オリジナルのビジネスマナーのテキストを作ったり、図面を正確に読み込めるよう勉強会を定期開催したりしています」

今までは肩書きや役職は一部の従業員にしか付与していませんでしたが、自分のために働いていると強く意識してもらうために、細かく役割を決めたそうです。

田城さん「責任感を持ってもらえるように、細かくリーダーやグループ長を決めました。また、弊社は6割が外国人労働者ですので、細かい意図を伝える場面で苦労することも少なくありません。そこで、外国人労働者の一人をリーダーにし、その人にしっかり大切なことを共有し理解してもらってから、通訳してもらうようにしています」

SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みにも力を入れている

また、タシロではSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みも積極的に行っています。ある展示会の出展申込用紙に「貴社のSDGsの取り組みについて教えてください」という項目があったものの書けず……。環境に配慮した取り組みは行っていたものの、SDGsの観点が抜けていたと気付きを得られたそうです。

田城さん「電気をLEDに変えて電力消費量を削減したり、高推力のレーザー加工機を導入して、使用電力を少なくしたりするなど環境に配慮した取り組みはしていたので、社外にアピールできるように、精査してまとめました」

オンライン販売を開始し、従業員のアイデアを商品化

最近は、コロナ禍によるニーズ変化に対応するため、従業員の声をもとに企業向けではなく、個人の消費者向けの製品開発も行なっています。

田城さん「猫好きの従業員のアイデアから、猫用の暑さ対策シート「ねこの寝床」が生まれました。また、キャンプ好きの友人からアイデアをもらい、ソロキャンプ用のアウトドアギアを開発しました。こちらは、6月30日から8月1日にかけてクラウドファンディングを実施する予定です」

ソロキャンプ用アウトドアギア『3WAYピザ窯』

田城さん「今まで企業向けですと、図面通りにできているかという部分でしかお客さんの声を聞けませんでした。ただ、オンラインショップでは『こういうデザインが良かったです』とか『友達にあげたらすごく喜ばれた』など、直接エンドユーザーから感謝の言葉をいただけるので、また違うよろこびがありますよね。従業員も自分のアイデアで製品が売れるとなれば、やりがいも大きくなると思うので、今後は全体の売り上げの10%くらいまで増やしたいなと思います」

”町工場”をかっこいい集団にしたい

今後、タシロはどのような方向に進んでいくのでしょうか。田城さんに今後の展望について聞いてみました。

田城さん「技術力を磨きつつも、人としての魅力で勝負する会社でありたいですね。祖父母も父もそうだったんですけど、何か人のためにやってあげたいみたいな気持ちは強いほうで。影響を受けてか、自分も人に何か価値を発揮したいっていうのがすごく強いと思っています。

僕は見積りを作れませんが、工場長に聞くとすぐにパッと出してくれるんですね。現場を見ててもフォークリフトを自由自在に操る人がいたり。また、言葉を発しなくても手の動作だけでわかる駐車場誘導員の方など、日常の瞬間でもプロフェッショナルを発見することができますが、彼らに共通しているのが自分の介在価値を認識し、人のために尽くせる力だと思うんですよね。

どうしても、町工場は『3K』というネガティブなイメージがつきまといがちです。僕らが、人としての魅力を基盤にかっこいい集団となり、かっこいい製品を作ることで、イメージを少しでも変えていければ良いなと思います」

「大切な人を大切にできる人生を」という田城さんの人生哲学のもとに、変革しつつある株式会社タシロ。

これから、地域の人や顧客、従業員とどういう関係性を育み、どんな未来を築いていくのか。この先の展望に目が離せません。

文:俵谷龍佑

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