デザイナーとのコラボにオンラインスタイリング。客層の転換のために地方洋品店の後継ぎがしかけた方針とその想いとは?

福井県敦賀市の中心市街にある路面店、ホテヤ洋品店。約100年ほど前に仕立て屋さんとして営業が始まり、今では地域の方々に愛される洋服屋さんとなっています。

現在ホテヤ洋品店の4代目を務めているのが、中山喜美子さん、3代目のお父様からお店を承継しました。

もともと服や家業に興味はなかったものの、運命に流されたように事業を承継。お店の課題であったメイン顧客の高齢化にメスを入れます。

服なんて破れなければそれでいい。家業を継ぐ気は少しもなかった

中山さんがホテヤ洋品店の事業を両親から引き継いだ継いだのは、2016年のこと。

それまで、家庭にはホテヤ洋品店を経営していたご両親と一緒に叔母が暮らしており、中山さんは、叔母がお店を継ぐと考えていたそう。

4代目の中山貴美子さん

中山さん「当時はまったく服に興味を持っていなくて、『服なんて破れてなければそれでいいやろ!!』と考えていました(笑)

お店についてもあまり関心を持っていませんでしたね。ただ地域密着型のお店で、多くはないお客さまがどんどん高齢となっていくので、継ぐ気がないながらも、これから先ぼそりになってしまわないかと心配していました」

決心をする暇もなかった。「まるで運命に流されたかのよう」に家業を承継

しかし、実家を継ぐと考えていた叔母が、2015年の8月に突然亡くなってしまい、状況が一変します。

叔母の葬儀をきっかけに、結婚や子育てなどを考え、翌年1月に地元に戻ることになった中山さん。そして跡を継ぐ予定だった祖母が亡くなったことで、お店を継ぐことになったのです。

中山さん「叔母が亡くなり、地元に帰り、子育ての準備に、お店の承継…。何もかもがバーッっと急展開で起こって、まるで運命に流されたみたいな承継でした。決心なんてしている暇もありませんでしたね (笑)

あまりの目まぐるしさに、その当時のことは自分も周囲も全然覚えていないのですが、ただ両親が驚きながらも喜んでくれたことは記憶に残っています。まさか私が地元に戻って、しかもお店を継いでくれるとは考えてもいなかったのでしょうね」

娘であった中山さんが承継したこともあり、引継ぎの処理は親戚の方々への説明のみだったそう。親戚の方々は一様に驚かれていた、と中山さん。しかし両親と同様、叔母が亡くなったことでお店の存続が難しいと考えていたために、とても喜んで受け入れてもらえたといいます。

課題はメイン顧客の高齢化問題。対策を打つものの成果は出ず…

承継後の課題は、承継前から漠然と感じていたお客さんの高齢化問題でした。

中山さん「承継して営業していくうちに、何人かの高齢のお客さまが、体を壊して入院されるなどして、洋服を買えない状況になってしまったんです。70~80代の常連さんを大切にしつつも、私と同世代の40~50代のお客さまを獲得する必要があると感じました」

若いお客さん獲得のため中山さんは、補正下着の販売やマルシェ実施などの施策を打ち出しますが、どれもうまくいかず。苦悩の日々が続きます。

ボトルネックになっていた店舗の外観。若くて新しいお客さんのために改装を決意

自分と同じ40~50代の若い世代にお店へ来てもらうため、悩みぬいた中山さんは店舗の改装を決意します。

中山さん「当時、店舗の外観は高級感があり路面店という立地も相まって、若く新しいお客さんが立ち寄りにくい雰囲気となっていました。そこで、外からでも見やすくて明るいお店にしようと改装を行いました。服を買わなくても試着やお話だけで楽しくなるような空間をつくりたかったんです」

信頼できる工事関係者さんや、ふくい産業支援センターからの協力をうけながら、2018年の12月、機能的で明るさのある新しい店舗が完成します。

中山さん「改装には、新しいお客さんに向けて『私が跡を継いだよ』とアピールする狙いもありました。そのうえで、両親の時代からの常連さんを大切にしていきたい、とも考えていたため、商品コーナーの半分はこれまでと同じにして、馴染んでもらえるように工夫を施しました」

その甲斐あってか、多くの常連さんにはすぐに馴染んでもらえ、若い世代も足を運びやすい、リスクを最小限に抑えた顧客の世代交代を成功させました。

洋服には単なる衣服以上の価値がある。お客さんに楽しんでもらうのがお洋服屋の使命

両親の後を継いだ中山さんは、経営者として精進すべく、異業種の経営者が集まる交流会にも参加しています。交流会での出会いは、ホテヤ洋品店の新たな取り組みに活かされているのだそう。

中山さん「交流会がキッカケで敦賀出身のデザイナーとコラボレーションしたり、カメラマン・スタイリストと協力して撮影会を行ったりしました。どちらもお客様にすごく人気で、楽しむだけでなくお買い物もしてくれるんですよ。」

これらの取り組みは、どれも両親の時代には行っていなかったもの。根底にはお客さんと関わり合うなかでわかってきた洋服屋さんの役割があるのだといいます。

中山さん「むかし両親はお客さんを送り迎えするのと一緒に、お洋服を家まで届けていました。いまそんな両親と一緒にお仕事をしていくなかで、お洋服には、楽しいなどの気分をつくり出す、単なる衣服以上の価値があるのだと感じたんです。そしてお洋服屋さんは、楽しい場所でなければならないとも感じました」

若い世代にアプローチしながら、常連さんとの信頼関係も大切に

自分だけの価値観を見つけ、若い世代へ向けて精力的に活動している中山さん。今ではお客さんの服の悩みを解決するためにカラーコーディネーターの資格も取得したそう。

ただしいまでも一番に考えているのは、両親の時代からの常連さんたちのことです。

中山さん「常連さんたちのなかには、一人暮らしをしていらっしゃる高齢の方もいます。そんな方々が頼ってくれるような、洋服だけじゃない信頼関係をつくっていきたいんです」

ご両親は今でも一緒にお店に立ち、仕事面だけでなく、家事や育児でも支えてくれているというといいます。

お母様は、これまでとは違うやり方が多いなかでも、驚きつつ楽しんで協力してくれているそう。お父様は、中山さんの取り組みを、お店のことは任せているのだから好きにやっていい。順調なようで良かった、と暖かく見守ってくれていると話してくれました。

待っていては衰退する。楽しめるお店を作って、お客さんとみんなで幸せになりたい

事業を承継し、苦労を重ねながら実感したのは、待っていては衰退してしまうということだと中山さんは話します。

中山さん「これまでのような安売りだけのイベントではなく、お客様が楽しい、また行きたいと思ってくれるような新しい取り組みが大切だと感じました。

異業種の方とのコラボレーションは、その意味ですごくいい取り組みだと感じています。私も、コラボレーション先の方も、お客さんも幸せになれる。これからもいろいろな取り組みをしていって、みんなで幸せになっていければいいなと思います」

過去にはZOOMで東京のスタイリストさんとホテヤ洋品店を繋ぎ、お客さんが試着のアドバイスが受けられるイベントを実施したこともある

活動していくなかで、服を買う気持ちになれない人にもサポートをしてあげたいと思い、2021年の春には店舗を利用し若いころの目標だった行政書士のお仕事も始めたそう。お客さんのことを本気で考える中山さんだからこそのアイデアです。

服をお求めの人も、楽しくなりたい人も、悩んでいる人も。敦賀に行った際には、ホテヤ洋品店へぜひ立ち寄ってみてください。きっと明るく素敵な時間がまっているはずですよ。

文・高橋昂希

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