養豚農場が生き続けるには、時代に合わせた挑戦が欠かせない。「くすのきファーム」2代目社長の信念と情熱

くすのきファームは、50年ほど前に佐賀県嬉野にできた養豚農場で、オリジナルブランド豚「肥前有明豚」を1,200頭飼育しています。現在は、2代目である娘の小楠裕子さんが事業承継して運営されています。

家業を継いだ経緯や、現在に至るまでどのような苦悩があったのかについて、小楠さんにお話を伺いました。

2代目の小楠裕子さん

調理の専門学校を卒業後、スーパーや病院などで調理の仕事に就いた小楠さん。家業に戻る予定はありませんでしたが、母親がケガで働けなくなり、人手不足に陥ったことでUターンを決めたそうです。

小楠さん「もともと、家業を継ぐことは考えていませんでした。しかし、母がケガをして、父だけで養豚農場を切り盛りする状態になってしまいました。そのままでは人手不足で、放っておけずに嬉野に戻ることにしました

養豚農場での仕事は、想像されている以上にハードです。Uターンした頃は調理の仕事も続けていましたが、次第に身体が持たなくなると感じて、家業に専念することにしました」

生き物と向き合う、尊くも大変な仕事。ありったけの愛情を豚に

小楠さん「子供の頃は農場が遊び場で、豚を追いかけて小屋に移動させたり餌やりをしたりと、お手伝いもしていました。子供ながらに大変そうだとは感じていましたが、特に嫌だと感じてはいませんでした。

先代である父は、付き添いながら丁寧に1つずつ教えてくれるタイプではなく『見て覚えろ』というタイプでした。なので、とにかく仕事をこなしながら感覚をつかんでいきました」

仕事のなかでも特に難しいのが種付け。家畜の繁殖や品種改良を目的に、雄と雌を交配させることです。日々、豚の発情行動や体調などを細かくチェックし、自然交配の時期を見極める必要があり、熟練の勘が試されるそう。

小楠さん「種付けといっても、発情観察や体調チェック、飼養管理など、さまざまなことを考慮した上で交配させなければいけません。計画していた頭数が生まれなければ母豚は栄養過多になり、子宮に脂肪がたまって妊娠しづらくなります。人間と同じで、必要な栄養を十分かつバランスよく与える必要があるんです。

農場の仕事は朝早いうえに給餌(きゅうじ)や清掃など力仕事も多く、肉体的にもきついです。相手は生き物なので、細やかな衛生管理や体調管理なども手が抜けません。人間と一緒で愛情が大切なんです。どれだけ愛情をかけたかで、体調だけでなく味にも影響してきます。大変で苦労も多いですけど、自分が種付けして無事に育ってくれるのを見ると、やって良かったなと思います」

「畜産業=汚い」そんなイメージを払拭したい

もともと、嬉野エリアには何十軒か養豚農家がありましたが、今ではくすのきファームだけ。その背景には養豚農家ならではの課題があるようです。

小楠さん「養豚農家の仕事は、きつい、汚い、危険、いわゆる「3K」と言われていて、人手を集めるのが難しい業界です。豚は生き物なので、休みも取りにくいです。人集めにはどの養豚農家も苦戦していて、外国人の技能実習生を雇用するケースが多いですね。うちの農場もオートメーション化しているわけではないので、人手は足りていないのが現状です」

畜産業界全体で大きな課題となっているのが糞尿。処理の段階で臭いを完全には消せないため、周囲の理解や協力を得るには大変な苦労があり、養豚農家が減少する理由にもなっていると語る小楠さん。

小楠さん「糞尿は何百トンにのぼるため、『野積み』や地面に穴を掘り貯めておく『素掘り』をしてしまうと、河川へ流出したり水源汚染の原因にもなります。くすのきファームでは、浄化槽装置で処理してから放流していますが、ない場合は業者に依頼して産業廃棄物として処理するか、肥料として耕種農家さんに提供するかの二択になります。

しかし、肥料にするためには屋外で乾燥・発酵させる必要があります。高齢の養豚農家さんだと体力的に難しかったり、農家さんへの営業にまで手が回らず、中には引退してしまう方も少なくありません」

臭い、汚いというイメージを少しでも払拭したいと語る小楠さん。普段使う軽トラはキレイにする、どこか営業や商談に行く時も身なりを整えるなど、まずは目の前の小さなことから取り組んでいるそうです。

デリケートな豚のために、積極的な技術導入。快適な環境づくりへ

くすのきファームが特にこだわっているのはその飼育方法。豚は非常に繊細で、ストレスに弱い生き物です。とにかく豚が健やかにのびのびと過ごせるよう、農場には様々な工夫がありました。

小楠さん「くすのきファームでは、嬉野温泉と水源が同じ地下水と、栄養たっぷりな飼料を与えています。また、豚たちが走り回って遊べるように、豚舎には地域の農場からもらった天然雑木で作った『バイオベッド』を敷いています。豚の足腰を強くできて、糞尿も微生物で分解されるので衛生状態も維持できますし、処理の手間も省けます」

豚は暑いのが苦手な生き物。汗をかかないので口でしか体温を調節できません。ミストで水を散布したり、部屋内の頭数を調整して熱中症対策をしているそうですが、近年は気候変動の影響を受けて、くすのきファームとしても環境配慮への取り組みを推進しているそう。

小楠さん「先代から、食品ロスを活用した飼料『エコフィード』を取り入れています。食品メーカーの工場から出た米粉やとうもろこしを中心に、廃棄される予定のパンやお弁当などを配合した飼料のことですが、手間がかかるので取り入れている農場は多くありません。メリットは環境に優しいだけでなく、味に甘みが出て肉質も柔らかくなり、餌の価格も抑えることができます」

6次産業化とDtoC。新しいチャレンジで全国に販路を拡大

小楠さん「2019年にレストラン『いのこ』をオープンさせたことで、生産・加工・販売を一貫して行う6次産業化が実現しました。レストランでは、前職の調理経験を活かして、店頭での調理やメニュー開発に携わっています。

しかしコロナがきっかけで、従来の流通経路だけでは生き残っていけないと危機感を覚えました。ECへの出店は、運用・管理をする時間がとれずに断念していたところ、嬉野市のマーケティング講習会でECモールの『全国津々浦々ライブコマース(以下、つつうら)』を知りました。

つつうらのサポートを受けながら、手探りでD2Cにチャレンジしましたが、遠くのお客さまに直接提供できるのが良いですね。はじめて、商品が売れたときは本当にうれしかったです。売り方や写真の撮影方法、コラボ商品の企画など、さまざまな提案もしていただけて助かっています」

「肥前有明豚」を通して、嬉野を盛り上げたい

つつうらがきっかけとなって、一ノ瀬畜産さんとのコラボ商品『牛肉と豚肉のしゃぶしゃぶセット』も誕生。可能性が広がっていた最中、嬉野は2021年8月の集中豪雨で大きな被害を受けました。何か力になれないかと、つつうらさんに協力を仰ぎ復興プロジェクトを発足させたそうです。

小楠さん「テーマは、40代のママさんが盛り上げる嬉野復興プロジェクト。リターンは嬉野の名産品で、くすのきファームと一ノ瀬畜産さん、白川製茶園さんのコラボ商品である『茶しゃぶ』や、福田豆腐店さんの『温泉湯豆腐』があります。

実は、10年前にも集中豪雨の被害に遭った嬉野。農場の裏の堤防が決壊する恐れがあることから、避難指示が出たそうです。

小楠さん「父は『わしはここを守らないかんから、お前たちは先にいけ』と言って避難しませんでした。その時は理解できませんでしたが、今は分かります。『手塩にかけて育てた豚と場所を守らないといけない』そう考えた末の言葉だったんだと思います」

レストラン「いのこ」の近くで咲く、立派な桜の木

50年以上もの間、嬉野の地で事業を続けるくすのきファーム。バイオベッドやエコフィード、D2Cといった、時代に合わせた新しいチャレンジの数々。今後はウィンナーやハムなど加工品のメニュー開発にも力をいれて、生産数拡大を考えて母豚の数も増やしたいと語る小楠さん。嬉野唯一の養豚場として、今後のさらなる活躍が楽しみです。

嬉野市の地元復興のためにクラウドファンディング実施中(2022年1月11日まで)

文:俵谷龍佑

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