退路を断って承継を直訴!常連さんが地元焼肉店の味と暖簾を守る

岐阜県本巣市にある「焼肉根尾街道」。昭和50年に先代の山田受弘さんが創業し、甘みのある濃厚なタレやアットホームな雰囲気が人気の焼肉店です。家族連れから飲み仲間まで、地元の人で賑わう人気店として長く愛されています。

2017年、山田さんが閉店を決意し、後継者のいない「焼肉根尾街道」は廃業の危機に。承継に名乗りを上げたのは「お店をなくしたくない」と純粋に願う常連客、岩﨑健輔さんでした。

大切なこの味を、この場所を、地元のために残したい

焼肉根尾街道オーナー 岩﨑健輔さん

祖父に連れられ、幼いころから常連として通っていた岩﨑さん。当時から家族でお店に連れて行ってもらうのが日々の楽しみで、大人になっても通い続けていました。

そんな「焼肉根尾街道」が廃業を考えていると知ったのは、2017年12月頃のこと。先代の山田さんは、自身の高齢化と手の怪我をきっかけに店を閉じることを決意し、早い段階で周囲に伝えていっていました。

岩﨑さん「話を聞いたときはショックでした。焼肉根尾街道は、子どもの頃からの思い出が詰まった大切な場所。大切なこの味を、この場所を、地元のためにどうしても残したいと思いました」

「店を残すためには自分が店を継げばいい」

「店を残すためには自分が店を継げばいい」という考えが頭に芽生えた岩﨑さん。飲食経験がない自分ができるのか、今の安定した職を離れるのかという不安も同時にありましたが、ちょうど大好きな地元に腰を据えて働きたいと考えていたタイミングでもありました。

そして「人間本気でやればなんとかなる」と思い立ち、家族に相談。はじめは難色を示されたものの、岩﨑さんの本気と熱意を知って背中を押してくれました。こうして2018年3月、山田さんにお店を継ぎたい意思を伝えたのです。

「冗談」と思われた承継の申し出

岩﨑さんご夫妻と山田さんご夫妻

初めて岩﨑さんが「店を継ぎたい」と伝えたときは、山田さんに「冗談」と思われたのだとか。岩﨑さんの気持ちを知り、山田さんが一度出した答えは「NO」でした。それは、飲食店経営の大変さを知る山田さんの気遣いでもありました。

岩﨑さん「店長は自分の代で店を畳むつもりだったし、お客さんも減っていた時期だったのでそんなのやめておけと言われました。これではいつまでたっても伝わらないと思い、腹をくくって会社を辞めて退路を断ち、店を継ぐために会社を辞めてきたことを伝えました。店長はすごく驚いていました。でもそこまでしてくれるならと受け入れてもらえました」

常連から焼き肉屋の店主に

こうして、岩﨑さんが店を引き継ぐことが決定。飲食も経営も経験がなかったため、さっそく翌月から山田さんと一緒に店頭に立ち猛特訓が始まりました。包丁の持ち方などの基本的なところから丁寧に教わり、修行から4ヶ月後の7月、「焼肉根尾街道」は岩﨑さんのお店としてリニューアルオープンしました。

岩﨑さん「不安はありました。本当にお客さんが来てくれるのかという不安が一番大きかったです。でも我武者羅にやるしかないので、最初の1年はひたすら働きました。地元の新聞にも取り上げられて離れていたお客さんもまた来てくれたりして。もちろん先代の頃からの常連さんには味が変わったとか言われたりもして、離れていくお客さんも少なくなかったです。それでも段々と自分を訪ねに来てくれる常連さんも増えてきました」

最初は心配していた先代も、岩﨑さんが働き始めてからたくさんの人が彼を慕って店を訪ねてくる様子を見て、この人になら任せても大丈夫と思うようになったと言います。

「変わらないもの」と「変えていくもの」

常連のお客さんのお子さんが描いてくれた店長と奥さんの似顔絵

現在は岩﨑さんが肉の仕込みや調理を、奥さんがおつまみなどの副菜のメニューを担当し、家族みんなで協力して店を切り盛りしています。また、2020年の10月には焼肉屋の隣にカラオケ喫茶&バーをオープンしました。昼はカラオケ喫茶を母が、夜はバーを姉が運営し日々賑わっています。

岩﨑さん「家族でこの場所を守っていこうとみんなでお店を作っています。奥さんと一日中一緒に仕事するなんて想像できませんでしたが、会話も増えていい夫婦関係を築けていますね。家族も含め、身内に守られてお店ができています」

先代の頃から置いてあるお店のマスコットとなっている招き猫

「焼肉根尾街道」の雰囲気や居心地の良さが誰より好きだった岩﨑さん。リニューアルオープンにあたっては、内装や装飾もほぼそのまま残しました。一方で、お店をよりよくするために変えた部分もあります。

利益率を上げるためお酒のメニューを増やしたり、肉の仕入れ先を変えたり、Instagramで仕込みの裏側を発信して顧客獲得に繋げるなど、様々な工夫を重ねていきました。その努力の甲斐もあり、お客さんの層も地元のお客さんからファミリー層や若い子にと客層の若返りにも成功しました。

「この店を守ってくれてありがとう」

岩﨑さん「お客さんから今まで言われた言葉で嬉しかった言葉は、もちろん『美味しい』や『また来るね』もありますが、昔から通っていたお客さんに言われた『この店を守ってくれてありがとう』でした。自分の守ろうとしたものが他の人にとっても大事な場であったことを確認できた瞬間です。

お客さん同士が仲良くなって、隣の人の分を他の人が振舞う、一人で来たけどいつの間にか会話が生まれている、そんな居心地のいい空間がこの店に人を惹きつけるのだと思います。また、敷居の低い店内は、地元の高校生の少しの贅沢の場としても使われ、話題が話題を呼び若い子の常連客も増えています。客層は変わっても、地元の人に愛され、美味しく楽しく居心地のいい時間と場所を提供し続けていきたいです」

岩﨑さん「地元に食を通じて地元に貢献したいという思いもあって、今度障がいを持ったお子さん向けに放課後デイサービスのような形で焼肉を振舞おうと思っています。中々外食ができない人にも外食を楽しんでほしい、そういう経験をさせてあげたいんです。

地元も年々人口の流出が激しくなっています。自分の同級生の多くも地元を離れてしまいましたが、自分が頑張れば彼らもまた戻ってくるんじゃないかと思いながらお店を続けています」

自分のお店のことだけでなく、地元全体のことを考え奮闘する岩﨑さん。きっと「焼肉根尾街道」で生まれた時間は多くの人の記憶に残り、それが拠り所となってまた岩﨑さんのように地元のためにと行動を起こす人を生み出すことでしょう。新生焼肉根尾街道の飛躍に期待です!

文・日野ひかり

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