事業承継ストーリー

おせっかいがコンセプトの宅配クリーニング「リビナス」。逆風の斜陽業界で急成長「東田ドライ」の3代目社長

国内最大規模のクリーニング工場を誇る、兵庫県西脇市の「東田ドライ」。人口減少などの影響で年々売り上げが落ちていたものの、3代目社長の東田伸哉さんが新サービス「リビナス」を立ち上げます。

はじめは周囲の反対がありながらも、売上は徐々に伸び、で成績はV字回復。テレビ東京の制作する「カンブリア宮殿」にも取材され、一躍大人気のサービスになります。

家業を経営する上で「記録ではなく記憶に残る仕事をすること」を大切にしていると話す東田さんが家業の大改革に成功するまでの軌跡や今後の展望を伺いました。

「なんとなく楽そうだから」と戻った家業。新婚旅行で心機一転

東田ドライ・3代目社長の東田伸哉さん

東田さん「大学ではほとんど勉強もせず、ずっと遊んでいました(笑)。就活をすることさえ面倒でフラフラしていた大学3年生の時に、母に『お父さんの体調がよくないから店を手伝って欲しい』と言われ、一時的に実家に帰ったことをきっかけに後継になることを意識し始めました。といっても当時は大きな展望や野望があったわけではなく『就活をせずに済むし、楽そう』と思っただけですが」

「父親の仕事を手伝う」程度の気持ちで入社した東田さんに転機が訪れたのは、結婚後妻と行った新婚旅行でした

一生の思い出にと、奮発してモルディブの高級リゾートに宿泊すると「また、こんなところに来たいな。どれくらい仕事を頑張ったらいけるんだろう」という気持ちが芽生えました。帰国後会社の経営状況を確認すると、想像以上に利益が上がっていないことに初めて気づきます。

経営状態が悪化するのは明白。入社2年目の一社員ながら「今日から自分が経営をする」と宣言

東田さん「西脇は都会ではないので、物がなくても十分な生活を送れます。それゆえに皆『欲』が全くありません。当然、父は下がり続ける売上を気にもしていませんでした。しかし、今後どんどん人口が減少し、さらに経営状態が悪化するのは明白。なんとかして今の状況を打破しなければいけないと思ったのです」

東田さんは一社員ながら「経営はこれから自分がやる」と宣言し、さまざまな改革を推し進めていきました。

まず行ったのは、オプションメニューを増やした単価アップ。一時的に売上は伸びましたが、人口流入の止まらない西脇市には限界がありました。そこで、インターネットを活用したクリーニングサービス「リナビス」をスタート。マーケットを西脇市から全国に拡大させるのが狙いでした。

東田さん「クリーニングを利用する人のほとんどは『自宅の近くにある店』を選びます。なぜなら、どのお店もスピード感やシミ抜きなどアピールが同じだから。自分たちの要望にあった店がないため、近くにある店に依頼するしか方法がないのです。そんな中でわざわざリビナスを利用してもらうためには他社との差別化が必要と感じました」

ヒントは会社の中に。スタッフの働きぶりを元に他社と差別化

そこで改めて自社スタッフの働きぶりを見直すと、頼まれてもいないシミ抜きや衣服の修繕などを行っていることに気づきました。そこでリビナスは『おせっかい』をコンセプトに大切な服を安心して任せられるクリーニングサービスであることを全面的にアピールしたのです」

新たなサービスを始めるにあたり、一定数の反対意見はありました。しかし、東田さんの改革を後押ししてくれたのは「おせっかい」なスタッフたちだったのです。

東田さん「宅配サービスはいきなりではないものの、徐々に売上を伸ばし始めました。これまでよりも急に稼働量が増えたので、工場がパンクするのではないかと不安な中『昔はこれくらいやってたから大丈夫』『私たちに任せて』と現場スタッフが言ってくれたときは本当に嬉しかったです。

昔からいるスタッフは、年々仕事量が減っていくのを不安に感じていたようです。注文が増加したことで、きちんと世に求められている仕事だと再認識でき、誇りを持って仕事してくれています。

ちなみに父もはじめはかなり反対していました。根っからの職人である父は、事業を作るという感覚は全く持っていませんからね。とはいえ、注文が入れば受けるしかありません(笑)。どんどん忙しくなると反対している間もなく、いつの間にか私の実績を認めてくれていました」

会社の安定的な成長を目指し、会社を組織化。経営幹部を採用

東田さんが出している社内報

事業が軌道に乗り出した2019年からは、会社を組織化するために新たに採用を強化しました。それまで、現場以外の仕事は全て東田さんが担当していましたが、10億円規模を超え、安定的に企業を成長させるには経験豊富な経営幹部が必要だと感じたのです。

東田さん「私は大学卒業後すぐに入社したので、ちゃんとした社会人経験はありません。これまで我流でやってきた挑戦は間違いではありませんでしたが、さらなる高みを目指すためにはプロに入ってもらう必要があると感じ経営幹部の採用を始めました。

その道のプロと一緒に仕事をすることでこれまでになかった視点を持てるようになりましたし、顧客対応やシステム構築などさまざまな点で改善できました。しかし、経営幹部が入ることで新しいルールや規則などが増え、それに反発する社員はどんどん退職していきました。

当時はどうなることかとハラハラしましたが、今思えば会社が成長する上で一定の循環は必要だったのだと感じています」

たとえ緊急事態でも、大切な服は変わらない

新たな体制でさらなる拡大を目指す中、新型コロナウイルスが蔓延。緊急事態宣言が出るなど、これまで経験しないような事態となり、東田さんは業績悪化の不安に駆られました。しかし、蓋を開けてみると前年比117%成長と、売り上げに全く影響が出ていなかったのです。

東田さん「新型コロナウイルスが蔓延したことで、テレワークが加速しワイシャツやスーツの利用が急激に減りました。通常のクリーニング屋さんはワイシャツとスーツ利用が全体の6割を占めるため、当然売り上げも下がりました。

しかし、東田ドライはワイシャツとスーツの割合は1割弱。その代わりコートやダウンといった高級な衣類が6割を占めます。たとえ生活様式が変わったとしても大切な服は変わらない、そしてそんな服を私たちに任せていただけているんだと改めて実感しましたね」

東田ドライは、徹底した「顧客志向」によって選ばれるクリーニング店に進化していきました。なかでも、シーズンオフの衣類を無料で保管してくれるサービスは、都心部に住む女性を中心に高い評価を得ています。衣類の保管やクリーニング稼働のために国内で最大規模の大きさを誇る工場も新設されました。

記録ではなく、思い出に残る仕事をしたい

事業承継で大切なのは、どんなことも自分ごととして受け止めることと話す東田さん。

東田さん「後継者になるということは、よい部分も悪い部分も受け継がなければいけません。当然、理不尽なこともたくさんあります。しかし、そこで人の責任にしたり文句を言っていたりしても何も変わりません。どんなことでも自分の責任ととらえ、どうすれば状況がよくなるのかを考え続けることが大切です。私自身、後継者として会社の代表になって本当によかったと思っています。

経営する上で掲げている目標は、『記録ではなく思い出に残る仕事をすること』。いくらお金持ちになっても、墓場には持っていけませんよね。もちろん日々の選択に後悔することもありますが、最後の最後に『よかったな』と思えるようにしたいです。

今後の目標は、インターネットを活用したビジネスをゼロから立ち上げること。今いる経営幹部のメンバーに次のチャレンジの場を提供できるよう、常に魅力的な会社でい続けたいと思います」

広い工場内を隅々まで見せてくださった東田さん。働く従業員の数は西脇市の中でも一番多いそうです。地域の雇用創出にもつながる東田ドライの更なる活躍に期待です。

文:佐原有紀

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