事業承継ストーリー

愛媛で90年親しまれる銘菓「たぬきまんじゅう」。地域一丸となり行った奇跡の復活劇

西日本最高峰の石鎚山がそびえ立つ愛媛県西条市は、愛媛県で90年親しまれる銘菓「たぬきまんじゅう」のふるさとです。「たぬきまんじゅう」は、厳選した小豆をじっくりと粒あんに練り上げ、まろやかな桃山生地で包んだ焼生菓子。愛媛県民を中心に多くのファンに愛されています。

長年変わらないおいしさを届けてきましたが、2018年の夏、先代社長の近藤大さんは後継者不足と設備の老朽化を理由に、やむを得ず事業をたたむことを決意。その想いのバトンを引き継いだのが、たぬき本舗株式会社の代表取締役 森達正さんです。

森さんは「伝統ある銘菓の味を守り抜きたい」という一心で、今まで足を踏み入れたことのなかった、和菓子の製造業を事業承継しました。

地域の財産・たぬきまんじゅうを残さなければならない

たぬき本舗株式会社代表取締役 森達正さん(左)、専務取締役 森貴則さん(右)

平成7年から西条市議会議員を18年間務めるなど、地域に貢献する仕事に従事してきた森さん。もともと知り合いだった近藤さんから「後継者不足と設備の老朽化で、たぬき本舗を廃業しようと思っている」という話を聞きました。

森さん「その話を聞いたとき、私はすぐに近藤さんを説得しました。“たぬきまんじゅうは地域の財産だから残すべきです。どうにか続けていただくことはできませんか?(ぜひもう少し頑張ってください!)”と。近藤さん自身も、本当はたぬきまんじゅうを残したいという想いがありながら、仕方なく会社をたたもうとしていると分かったからです。

しかし、どれだけ言葉を伝えても、廃業するという決心は固く、揺らぐことはありませんでした。説得を続けるうちに、”私が事業を引き継ぐしかない”、という使命感が芽生えてきました。当時私は67歳で、大きな決断をするのには勇気のいる年齢でしたが、その不安を超えるくらい、たぬきまんじゅうを次世代にも残していきたいという気持ちが膨らんでいたのです。私の息子にも協力を仰ぎ、一緒に事業承継を行っていくことになりました」

たぬきまんじゅうの復活に向けて一致団結し、事業承継がスタート

近藤さんはご厚意で、当時使用していた機械や建屋をすべて譲ってくれると言ってくれたと言います。ただ、森さんは決意を固める意味も込めてそれらを購入することに。そして、「たぬきまんじゅうを復活させる」というミッションに共感した様々な領域のプロが集まり、事業承継がスタートします。

森さん「たぬきまんじゅうの品質は職人の腕にかかっているので、近藤さんにお願いして、以前勤めていた方を呼び戻してもらいました。みんなに愛され続けたたぬきまんじゅうをそのまま再現するためには、これまでのメンバーの協力が必要だと感じたからです。

本当に多くの方の協力があったからこそ、たぬきまんじゅうは復活を遂げることができました。資金面をサポートしてくれた金融機関様や、建屋を修理してくれた大工さん、建屋内の電気を設置してくれた電機屋さんなど、私の知識や経験では対応しきれない部分を、周りの方が支援してくれました。その方たちからは、“たぬきまんじゅうの復活に関わることができて良かった”という声をもらい、とても励みになりましたね」

引き継いで感じた、たぬきまんじゅうの底力

森さんの想いの強さにより、おのずと多くの人たちが動かされ、順調にたぬきまんじゅう復活への道が拓かれていきました。森さんはそれほどスムーズに進んだ理由を、このように話してくれました。

森さん「滞りなく事業承継が進んだのは、何と言ってもたぬきまんじゅうのお陰です。90年もの間、その昔ながらの味わいや風味は地域の皆さまに愛されてきました。一度たぬき本舗が廃業して、たぬきまんじゅうがなくなったときには、地域で大きなニュースになりましたし、たぬきまんじゅうの復活が決まるとそれ以上の反響がありました。

もちろん、多少は大変なこともありましたが、それを超越するくらい、たぬきまんじゅうが私たちを引っ張っていってくれました。あっという間に復活できたのは、たぬきまんじゅうそのものが持っている底力のお陰です。」

たぬきまんじゅうの復活に、昔からのファンは歓喜に湧きました。事業を承継してから約3年経つ今でも、お客様から「よくたぬきまんじゅうを復活させてくれたね」「あの味と風味を忠実に再現してくれてありがとう」と、いつもお礼を伝えてもらうのだとか。それは配達担当者にとっても大きな励みになっているようです。

森さん「やはり、エンドユーザーであるお客様に喜んでいただけることが一番嬉しいですね。ありがとうという言葉をいただく度に頑張りが報われます。お客様だけでなく、地元で一番大きなスーパーのバイヤーさんからも、お礼を言っていただきました。

本来は製造会社からスーパーにお願いするものですが、たぬきまんじゅうが復活してすぐに、バイヤーさんから電話をいただき、とても良心的な条件での取り引きをご提示いただいたのです。そのときに、“たぬきまんじゅうの繁栄に期待を込めて価格設定しました。ぜひ会社を大きくしていってくださいね”と、あたたかいエールまでいただき、とても心強かったのを覚えています。

ちなみにそのスーパーにたぬきまんじゅうを並べてもらうことは、事業承継後の大きな目標のひとつでした。それがまさか向こうからお声がけいただくとは思わず、改めてたぬきまんじゅうの底力を実感しましたね。今まで様々な商売をしてきましたが、こんな経験は後にも先にも聞いたことがありません。このスーパーを皮切りに地域全体にどんどん広まっていったので、本当に感謝しています」

たぬきまんじゅうの歴史と次世代を繋げるクラウドファンディング

2020年の夏、森さんは新たな一歩を踏み出しました。それは、西条市が実施しているクラウドファンディングで、たぬきまんじゅうのCMソングを復活するプロジェクトを立ち上げたこと。西条市から声がかかったことを機に、何人ものお客様からリクエストをもらっていた、CMソングの復活を市民参加型で実現することにしました。クラウドファンディングの目標金額は50万円で、期間は2か月を見込んでいましたが、実際は1か月弱で目標金額に到達。「エントリーしようと思っていたのにもう終わったんだね」といった声もあったそうです。

森さん「90年もの歴史あるたぬきまんじゅうと、次世代の若者とを繋ぐ大きなプロジェクトでしたね。県内の高校の吹奏楽部や合唱部がオリジナルで演奏してくれたり、小学生や中学生がCMソングの創作ダンスを踊ってくれたりしました。また、CMソングをYouTubeやラジオで流したので、より多くの方に聴いてもらえたと思います。実際にCMソングを聴いていた世代だけでなく、それを知らない若者にも、新しいカタチで届いたことは大変感慨深いです」

先代社長を超えることで恩返しをしたい

森さんに今後の目標を伺ったとき、一番最初に出てきた言葉は「近藤さんを超えたい」というもの。地域の財産であるたぬきまんじゅうを引き継いだからこそ、先代社長である近藤さんを超えることが、唯一の恩返しになると言います。

森さん「事業承継前のたぬき本舗の売上を超えたいと思っています。近藤さんは事業承継の際に、経営に関するアドバイスや精神面への気遣いなど、様々な配慮をしてくださりました。近藤さんに事業承継を実現できたと自信を持って伝えたいからこそ、きちんと数字としても結果を出したいと考えています。

これは私にとって原動力にもなっている志です。今後も、近藤さんの築き上げたたぬき本舗を超えるために、アイデアを駆使して事業を展開していければと考えています。弊社の力だけでは難しい部分もあるので、今後は地域の繋がりを中心に、一緒にたぬきまんじゅうを大きくしてくださる企業様も探していければと思っています」

たぬきまんじゅうという長年愛されてきた銘菓を引き下げ、新たな挑戦を続けるたぬき本舗。ずっと変わらない手作りのおいしさは、私たちにも一歩前進するエネルギーを分けてくれます。ぜひご賞味ください。

たぬきまんじゅうのECサイト

文:志摩 若奈

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