事業承継ストーリー

創業52年の不動産会社3代目が仕掛けるDX改革。週休3日制、営業利益2.5倍を実現

ウチダレックは鳥取米子で創業52年になる不動産会社です。紙を中心に業務をしていたため、残業が常態化していました。

3代目の専務取締役である内田光治さんはこの状況を変えるべく、前職のIT企業で培った経験を活かし、抜本的なDX改革を実行。その結果、不動産業界初の週休3日制を導入、営業利益は2.5倍にまで成長しました。

家業に戻り、現在に至るまでどのような苦悩やストーリーがあったのか、内田光治さんにお話を伺いました。

デジタル化が進む不動産業界に可能性を見出す

3代目で専務取締役の内田光治さん

内田さんは家業に入る前、楽天、フィンテックのベンチャー企業であるネットプロテクションズで勤務していました。もともと、自分で事業を興したい野望がありましたが、事業のテーマは決まらず日々経営者の記事をチェックしてビジネスチャンスを探していたそうです。

いずれ家業を継ぐことも選択肢の1つとして考えていたため、特にネガティブなイメージを持っていなかったと内田さんは語ります。

内田さん「ある記事で、日本交通の三代目である川鍋さんが『後継者は、最初から強い武器を持って戦えるのだからすごく有利。継いだほうが良い』という話をしていてハッとさせられました。家業の状況にもよりますが、資金面や人脈などすでにあるリソースを活用できる点は有利ですよね」

ちょうどこの頃、不動産業界は転機を迎えていました。長らく対面・紙をベースとしていた重要事項説明(※)が2017年から非対面(オンライン)でも可能になりました。この変化の波を内田さんはビジネスチャンスととらえました。

※宅地建物取引士が借主または買主に対して物件や条件に関する一定の重要事項について説明する業務

内田さん「オンラインに移行すれば、ビジネスモデルが転換するだけでなく、働き方や組織のあり方も大きく変わります。それに伴いさまざまなサービスや商品も登場するでしょう。また私の地元にも貢献できることから、家業である不動産業に可能性を感じ、戻ることを決めました」

紙中心の業務によって、残業が常態化

2016年に家業に戻った内田さんは、会社のさまざまな部署で仕事の段取りを覚えていきます。しかし、そこで会社が抱える課題に直面します。

内田さん「やけに忙しそうというか、仕事量のわりに成果が出ていないと感じました。例えば、1年でもっとも忙しい2〜3月の引越しシーズンは、深夜1、2時まで残業していることも少なくありませんでした。

業務を1つずつチェックしてみると、紙の契約書を作るのに6、7時間かかっていたり、転記のミスを防ぐためにダブルチェックをする人を置いているものの、その人がいないと回らない状態になっていたりと生産性が低い状態になっていました。

不動産オーナーさんにしっかりと提案すること、そして来店したお客さまに物件を準備してご提案することに注力しないといけないのに、書類作成に時間を取られていました」

ウチダレックのメイン顧客である20〜30代は、2005年を境に減少していて、2020年までの15年で25%減少しています。今までのやり方のままではマズいと危機感を覚えたことも、改革を進めたきっかけになったそうです。

内田さん「これまでの不動産業界は、人口増加を前提に営業力の強化をしたり、店舗数を拡充したりしていました。しかし、今後は人口が減少し需要がなくなることを見越して戦略を立てないといけません。そのためには会社の生産性を高めることが急務でした」

本気で働き方を変えるには、悪しき前例や慣習を断ち切らなければいけない

内田さんが、まず着手したのが入居者さんからの問い合わせ対応です。電話対応のスキルがある人に業務が集中しており、その人にしか業務の進め方がわからない状態になっていました。引き継ぎも難しく、改善にはかなり苦労したそうです。

内田さん「『水漏れが発生しています』『鍵をなくしました』といったように、緊急性が高い問い合わせが多いんですね。なので、少しでも対応が遅れるとクレームにつながってしまいます。情報を一元管理できる基幹システムを自社開発し、誰でも対応できる環境を構築しました」

この施策がうまくいったことをきっかけに、他の部署の業務改善もスムーズにいくようになりました。しかし改革には痛みが伴うもの。一部のベテラン社員から大きな反発があったそうです。

内田さん「『変わりたくない』という空気が蔓延している状態では、ある程度パワープレイで進める必要があると思っています。今まで使用していたホワイトボードを捨てる、ITツールにデータを入力しないと人事評価に反映しないなど強制的に仕組みを変えました。

その結果、『変えてはいけないものもあると思います』と言われて会社を辞めたり、日報に批判的なコメントを書く人が現れたりと猛反発を食らいました。最終的には従業員のうち半分が退職しました」

年間休日が20日以上増加、残業時間は50%減

大幅なDX改革によって従業員が半分退職しましたが、内田さんは臆することなく改革を進めました。そして、試行錯誤の結果、徐々に目に見える成果が現れ始めます。

内田さん「年間休日が増えたり、残業が減ったりと成果が出るようになってきて、反発の声も少なくなりました。今では5年前と比較して年間休日は20日以上増加、残業時間も50%削減できました」

そして2019年には不動産業界初の週休3日制を導入します。従業員は今までの半分であるにも関わらず、1人あたりの営業利益は2.5倍に、離職率15%から3%と大幅な業務改善に成功しました。改革のなかで業務効率化だけでなく、従業員の意識も変わったと内田さんは語ります。

内田さん「一時期は、日報に批判的なコメントが書かれていましたが、業務が改善されるにつれて『あらためて仕事のやり方を見直すと、まだまだ改善の余地があるので変えていきたいです』と前向きなコメントが増えていきました。不要な業務がなくなって考える余裕が出てきたことも従業員の意識変革につながったのかなと思っています」

そして、2019年11月には自社の成功事例をベースに開発した不動産特化型CRM『カクシンクラウド』の提供を開始します。

内田さん「弊社の成功事例をもとに不動産特化型CRM『カクシンクラウド』の提供を開始しました。紙文化から脱却できず、業務効率化に課題を感じている不動産会社さんも多くいらっしゃいます。

ただ、既存業務にシステムを導入するだけではなかなか成果は出ません。そのため、業務フローの見直しや取捨選択、最適な導入設計のサポートもあわせて実施しています」

中小企業のDX化を広める”旗振り役”でありたい

内田さんはウチダレックを地域社会、不動産業界に良い影響を与えられる会社にしていきたいと語ります。

内田さん「人口減少するとはいえ、不動産仲介は地域にとってなくてはならない仕事です。実家に暮らす、家を購入するという選択肢しか持てない地域の人々に、賃貸住宅管理という仕事をとおして、新しいライフスタイルの選択肢を提供できるからです。

さらに、ウチダレックの業績が良くなれば、税金も多く払えて雇用も増やせて地域社会へ貢献できますし、カクシンクラウドが拡大していけば不動産業界の変革を促すこともできます。地域で『他の会社さんよりもウチダレック』と言ってもらえるような存在感のある会社にしていきたいです。」
従業員の猛反対にも屈することなく、改革をやり遂げた内田さん。

「中小企業のDX化を進める旗振り役として、不動産業界を明るく灯していきたい」という展望をもとに、今日も走り続けます。

文:俵谷龍佑

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