事業承継ストーリー

サラリーマンだからこそできる、事業承継は事業”改善”。靴を売る靴屋から健康をサポートする存在へ

伊豆、熱海、富士、三島、豊かな自然と古き良き風景を残した観光地に囲まれた静岡県函南町。そんな人の行きかうこの地に、”足”から人々の健康を支えようと事業を展開する株式会社アシウエルがあります。

2019年に靴の小売店「シューズハウスオオイシ」を事業承継し、「アシウエルらぼシューズハウスオオイシ」としてリニューアルオープンしたアシウエル。事業を受け継いだ水口徹さんは、当時オーダーメイドインソール事業で起業をしたばかりでした。「フットケア×靴屋」で新しい可能性を切り開く水口さんにお話を伺いました。

父の店を畳む。あるものをゼロにすることの苦労

静岡県函南町に店を構える「シューズハウスオオイシ」は、大石良則さんが1985年に創業した靴の小売店です。そこから30年以上、量より質を重視し、地域の顧客ひとりひとりと向き合いながら事業を続けてきました。

地域に根付き、地域から愛されて店を続けてきた大石さんですが、大石さんが57歳の時に同様に個人で靴小売業を営んでいた父が亡くなってしまいます。父とは別に靴小売業を営み店も構えていた大石さんは父の店を継ぐことはできず、店終いの作業に心をすり減らしていました。店終いのためには単に店があった場所をゼロに戻すだけではなく、取引先や顧客、地域との関係性をも無くす必要があります。

父の店を畳む中で「自分の店ははたしてこのままでいいのか」という考えが大石さんの頭をよぎります。自身も60歳近くなり、仮に75歳くらいまで店を続けたとしてその後はどうするのか、この店もいつか畳むことになるのか-。そんなことを考えていた矢先、商工会議所の知人から事業承継の個別相談会の誘いを受けます。57歳という事業承継を考えるにはまだ早い年齢でしたが、その相談会に参加したわずか3日後に具体的な承継の話が持ち上がるとはこの時は考えもしませんでした。

医療でカバーできないところに事業を作る。起業家と事業承継の出会い

シューズハウスオオイシを事業承継した水口徹さん

一方、医療器具の卸会社を退職し、起業に向けて商工会議所で創業塾を受講していた水口徹さんもまた、事業承継に関心を持ちます。

水口さん「医療に携わっていた会社員時代、医療のライセンスがなくてもできる、けれど今の医療でカバーできていない予防医学の分野で何かできないかと思い、靴のインソールに目を付けたんです。日本では顔や手のように表から見えない足のケアについて関心が低いですし、また、医療でも骨折以外であまり足に関わることがない気がしていて。そこでオーダーメイドインソールを事業にすることを考えました」

オーダーメイドインソール事業で起業した水口さんは、当時実店舗を持たずに営業をしていました。そこで事業拡大のため店舗を持つことを考えたときに、既存の店舗を活用した方が効率がいいと思い事業承継を選択肢の一つと見て「後継者人材バンク」に登録します。そして登録わずか3日でシューズハウスオオイシさんとの承継の話が持ち上がりました。大石さんが商工会議所の事業承継相談会に参加したのも、水口さんが後継者人材バンクに登録したのも、2018年8月28日のことでした。

同じ日に後継者バンクに登録し、3日後に承継の流れに

登録後わずか3日で承継の話が持ち上がった水口さんと大石さん、それぞれの要望や条件がマッチし、支援機関を介して承継の話を具体的に固めていくことになります。引継ぎ支援センターが紹介した弁護士・金融機関・会計士が中心となって承継の際の資金・契約書・経営企画など承継に必要なすり合わせをし、水口さん、大石さんがそれぞれ所属している商工会議所がそれぞれのバックアップをしていきました。

水口さん「オーダーメイドインソールと親和性の高い靴屋という業態もそうですし、人の集まりやすい立地、店舗の規模、地域からの信頼など、渡りに船の話でした。双方の合意が固まってからは、引継ぎ支援センターと相談しながら条件を決めていきました。結果としては在庫も店舗も丸ごとシューズハウスオオイシさんを引き継いだ形です」

翌年2019年4月には承継が完了し、事業継承のタイミングでしか申請できない補助金も活用しながら、店舗の内装・外装、機材を水口さん主導で店舗改装を進めました。そして2019年10月、「アシウエルらぼシューズハウスオオイシ」がリニューアルオープンしたのです。

店舗運営とフットケア、両者の得意分野の掛け合わせ

現在アシウエルらぼシューズハウスオオイシは、大石さんが業務委託の形で店舗の運営や靴の販売を行っています。一方水口さんはオーダーメイドインソール・フットケア・経営と、両者役割分担をしながら、それぞれの得意分野を掛け合わせて運営しています。

水口さん「事業承継は元の色があるので、それを引き継ぎながらやっていくとことが難しいところでもあります。移行期にお客さんがどう感じるか、お店がなくなってしまうというイメージ、そういったものがあるのでポジティブな認識が広がるまでは少し時間がかかりますね。それでも、今の店舗も大石さんが運営してくださっているのでお客さん的にもギャップは少ないのではと思います」

場所も屋号も変えない。0→1ではなく1→2

水口さん「自分がもし一から店舗を作ったら誰も知らないところからのスタートになりますが、シューズハウスオオイシさんを継承できたお陰で、お客さんに来てもらうまでそこまで時間がかからなかったです。また、取引先もほとんどそのまま引き継いでいます。契約しなおしたり名称を変える手間はありましたが、それでも0から作るよりもずっと早いです。店舗の場所も屋号も変えていないですが、変わったところは店舗の中にフットケアの場所を確保したことですね」

リニューアルオープンした「アシウエルらぼシューズハウスオオイシ」では顧客に合わせた靴の販売、オーダーメイドインソールのカウンセリングと販売、それだけでなくドイツ式のフットケアも導入し、足から顧客の健康をサポートしています。病院に行くほどの症状ではないけれど医療の入り口的にこの場が機能することで、健康に歩ける人を増やすことがこのアシウエルらぼの目指しているところです。

「足に合う靴を売る」だけではない、医療の入り口としてのこれから

水口さん「ここではドイツ式のフットケアを取り入れていますが、ドイツでは足のクリニックが歯医者さんのように身近にあるんです。アメリカでも足の病院があります。医療であって医療でない、医療の穴を埋めるような機能がこの場で持てればと思っています」

健康寿命という概念が広まる中近年需要が増えてきたフットケア業界、今後水口さんはフットケアに力を入れて事業を展開する予定です。まだまだ技術者が少ない中で、まずは既存のサロンを誘致するところから静岡県でこの業界を育てていきます。

水口さん「事業承継で事業を起こすことはサラリーマンの方が向いているのではないかと思うんです。0→1ではなく1→2の業務改善だと思ったら、改善が得意なサラリーマンに可能性があるんじゃないでしょうか。もし何かやってみたいことがあるのであれば、手段の一つとしてあまり重く考えずスモールM&Aとして登録して探すことから始めてみてはどうでしょうか」

事業継承は”事業改善”だと考える水口さんは、自信の事業承継の経験を通じてスモールM&Aのコンサルティングも今後取り組んでいこうとしています。医療の入り口としてのフットケア事業と事業立ち上げのファーストステップとしての事業承継コンサルティングを手掛ける水口さんは、いろいろな人の背中を押すことでしょう。

文:日野ひかり

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