太平洋に面した快適な気候、新鮮な海産物、すぐ行ける海水浴場や釣り、海風と波音で憩う砂浜、海は生活の一部です。自然と昔ながらの風情や便利さが調和し、住みやすく心地よいまち、ひたちなか市。
工業で発展を続けてきたモノづくりのまちとして、市民に愛されているお店や高い技術を持った企業など、現在でもまちを支える価値ある事業をされている方がたくさんいらっしゃいます。その一方で、経営者の高齢化による廃業の課題が大きくなってきたことから、2023年度より「relay the local ひたちなか市」を開設しrelayと連携を開始しました。
平成30年11月に就任された大谷市長はひたちなか市の出身。地元であるこのまちの現状を、どう見つめているのでしょうか。まちの課題や未来の展望について、お話を伺いました。
話し手:ひたちなか市長 大谷明様
聞き手:relay編集部
豊かな水産物とものづくりの技術で育まれた、ひたちなか市
──(聞き手)relay編集部(以下、略):ひたちなか市の特徴を教えていただけますか。
大谷市長(以下、略):当市は、製造業で発展を続けてきたものづくりの街であり、県内有数の工業都市として知られています。また、那珂湊漁港をはじめとした水産業も古くから街を支えており、価値の高い地域産業といえます。そのほか、首都圏へのアクセスも良いことから、当市に移住し、テレワークを活用しながら首都圏の企業に勤めている方もいます。
──製造業と水産業をベースに育まれた街なのですね。具体的には、どんな地域資源がありますか。
特産品である干し芋やソウルフードのスタミナラーメン、那珂湊やきそばなどは当市の貴重な観光資源です。これらは、市内にある老舗の飲食店で食べられます。老舗のお店は、地域住民にとってサードプレイスであり、地域に対する誇りです。誇りを守り、今の街を形成した製造業や水産業、観光業など魅力ある多様な産業を次世代へ引き継いでいきたいと考えています。
地域社会の新たな循環を生む「第三者承継」という選択肢
──多様な産業がひたちなか市を支えているとのことですが、街の事業承継の現状については、どのようにお考えでしょうか。
経営者の高齢化や後継者不在による廃業は、日本の大きな社会問題の一つとして認識しています。当市も高齢化が進んでおり、後継者問題を避けて通ることはできないでしょう。これまでも、地域で良く知られた馴染みのあるお店が黒字経営にも関わらず、閉店したという話を耳にしています。
──それは、親族以外に承継する選択肢がないからでしょうか。
やはり第三者への事業承継に抵抗があるのかもしれません。当市の商工会議所会員へのアンケートでは、「後継者不在のため第三者への事業承継を検討している」と回答した事業者が少なかったと報告を受けています。これからの時代、後継者不足に拍車がかかってくると思うので、第三者承継という選択肢が当たり前になり、地域社会の新たな循環になることを期待しています。
──そのために、市としてどんなことを行っていきたいですか。
まずは、商工会議所と連携し、事業承継の大切さやメリットを伝えていくとともに、相談できる体制を構築しながら、事業承継を希望する事業者の掘り起こしに努めていければと考えています。また、事業承継が創業の選択肢の一つであることから、当市の創業支援事業との連携を考えています。さらに、当市の第3次総合計画後期基本計画(※)の最大目標である「人口15万人の維持」のために、事業承継を起点とした移住促進にも繋げていきたいです。
魅力は、それぞれの形に合った事業承継
──そのような現状の中でrelayと連携した理由を教えてください。
relayは、地域に根付いた個人経営のお店や工場などの少額取引の実績があるだけでなく、事業承継についても、建物の一部貸与や後継者候補の求人、レシピの伝承などさまざまな形態で対応してもらえるところが連携を決めた点です。また、relayの移住希望者目線を考慮したWebサイトや経営者の事業に対する想いと愛着に焦点を当てた見せ方もrelayならではの魅力だと思います。
──ありがとうございます。これから、事業承継を希望する事業者の掘り起こしを進めていく中で、relayに期待することはありますか。
relayの仲介者としての技術に期待しています。事業承継は、一見すると当事者同士で話を進めた方が効率的に見えるかもしれません。しかし、話を進める中で直接聞きづらいことが発生し、そのギャップを埋められずに、最後まで話を詰め切れないことがあると思います。そうならないためにも、両者を取り持ち、利害調整するプロが必要です。お互いに納得した上で、スムーズな事業承継を実現してほしいですね。
事業主の想いは、街にとっても価値のあるもの
──relayとしても、その期待に応えていきたいです。事業者の方に、大谷市長から伝えたいメッセージはありますか。
まずは、第三者承継という選択肢を広く知っていただき、視野を広げてほしいです。事業主にとって、古くて使いづらいと思われる建屋や設備などは、創業・移住希望者から見ると魅力的なものだったりします。長い間地域に根付き、守られてきた想いや人との繋がりは、街にとっても大切なものです。その想いを自分の代で終わりにするのではなく、relayに相談することで、事業主にとって適した事業承継の形を見つけてほしいと思っています。
事業承継で、新たな可能性を見出してほしい
──事業承継を検討している買い手に対しては、市長としてどんな想いを持っていますか。
当市はビジネスチャンスに溢れ、昔から移住者が多いので、新たな店舗を受け入れる風土があると思います。これまでは起業して新たに何か始めるという選択肢がほとんどでしたが、すでに整った基盤をもとに、例えば、新たな商品開発を検討してもらうなどして、更なる価値を見出してほしいと思います。新規の起業だけでなく、relayを活用し、生き方や働き方の幅が広がる事業承継という選択肢を視野に入れてほしいですね。
市と事業者、そしてrelay。全てが一体となり、価値ある事業を次世代へとつなぐ
──事業承継を進めるにあたって、市として今後どんな支援ができると思いますか。
事業を引き継いだ次の経営者に、商工会議所や専門家と連携し支援することで、その想いを大切に繋いでいきたいと考えています。後継者不在の経営者の多くは高齢者であり、relayの認知度や実績が少ない段階では、市と商工会議所による支援が重要です。「relayを活用してほしい」と広報活動するだけでなく、現地の取材に同行するなどして、1件でも多く事業承継を実現していきたいです。
──ありがとうございます。最後になりますが、事業承継によってどんな未来になることを期待していますか。
当市は、ネモフィラやコキアなど多くの花に囲まれた街ですが、当市のキャッチコピー「ひとが咲くまち。ひたちなか」とあるように、市民一人ひとりがやりたいことを実現できる街として、「自分らしい花」を咲かせてほしいと思っています。令和6年は、市の生誕30周年の節目を迎える年でもありますので、市民や事業者が一体となり、relayと一緒に価値ある事業を次世代に引き継いでいきたいですね。
──今日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。relayとしても、長年にわたって地域に根付き、守られてきた想いを、それぞれに合った形で連携していきたいと思います。これからもよろしくお願いいたします!
(relay編集部)
(※)参考リンク
第3次総合計画後期基本計画