自然豊かな三陸の海と山に囲まれた人口約1.8万人のまち、陸前高田市。牡蠣やワカメの養殖が盛んな海のまちです。海だけでなく、「米崎リンゴ」や「三陸ジンジャー」などのブランド産品があったり、「神田葡萄園」や「ドメーヌミカヅキ」といったワイナリーがあったりと、風土にも恵まれた地域。30代のUIターン者が市議会議員に複数名当選し、若者たちの声をきっかけにパートナーシップ制度がスタートするなど、若者が新しいチャレンジを続けてまちを盛り上げています。
震災からの復興を経た陸前高田市でも事業承継の課題が大きくなってきたことから、2022年度からrelayと連携を開始。「relay the local 陸前高田市」の運営、事業者の状況調査、説明会の開催など積極的な対策を進め、現在は農機具店や食品加工場などの案件の承継を目指しています。
昨年就任された佐々木拓市長は、陸前高田市の広田町出身。地元であるこのまちの現状を、どう見つめているのでしょうか。まちの課題や未来の展望について、お話を伺いました。
話し手:陸前高田市長 佐々木拓様
聞き手:relay編集部
復興を終えてチャレンジャーが生まれるまちへ
──(聞き手)relay編集部(以下、略):今日はよろしくお願いします。早速ですが、陸前高田市はどんなまちなのか教えてください。
佐々木市長(以下、略):全国の人からは、東日本大震災で甚大な被害を受けて被災したまちというイメージを持たれているのではないでしょうか。「奇跡の一本松」を思い浮かべる人も多いと思います。
一方で、まちのハードを整える復興事業はほぼ終了し、たくさんの関係者の方々のおかげできれいなまちができました。新しい商業施設やグラウンドなどもでき、2023年にはsnow peakのキャンプフィールドが完成して話題になりました。
──そうなんですね。陸前高田は三陸の海の恵みが豊かだと聞きました。
海がものすごくきれいです。カキやホタテの養殖いかだが湾に並んでいて、美しいんですよ。被災したところは高い建物がないので、山の美しさも更に際立って見える。自然豊かで、海の幸も山の幸も美味しい。震災のイメージだけじゃなく、まち自体にすごく魅力があります。
──震災以降に移住者の方が増えた印象がありますが、そういった方が事業を立ち上げることもあるのでしょうか。
飲食店がたくさんあったまちの中心部が全部津波の被害を受けてしまったので、それを機に辞めた方も多いんです。その中で、また復活して事業を始めている人もいますし、移住されてお店を始める方もいます。新規創業の支援のための「チャレンジショップ」という施設があるのですが、先日、甘酒専門店の「AMAZAKE STAND」がオープンしたばかりです。新たな観光の目玉になるかもしれませんね。
──まちの人たちは移住する人たちをどのように迎えているのでしょう。
移住してきた方から「地元の人たちがとっても温かい」とよく聞きます。地元の人たちは、最初は恥ずかしさもあってすぐフレンドリーになる訳ではないですが、付き合っていくと家族みたいに接してくれて、優しい土地柄だと感じられる方が多いです。
選択肢を増やし、まちの可能性を広げる
──魅力がある一方で、課題もあるかと思います。まちの課題はどんなところにあると考えていますか。
若い人と話すと、「このまちって何にもないじゃないですか」って言われるんです。若い人からするともっと選択肢が欲しいですよね。これからは昔のように飲食店や会社が増えたり、若い人たちが働く場所をつくったりして、安心してずっと住み続けられるようなまちにしたいと思ってます。
──relayに期待することはなんでしょうか。
もっともっといろんな方に陸前高田に来てもらって、観光はもちろん、この場所を良いと言って暮らす人が増えてほしい。そのためには、やりがいのある仕事やお店の選択肢があればあるほど魅力は増すと思うので、relayを活用した事業承継がその一助になるのではないかと思っています。利用しやすい平地もたくさんありますし、このまちには伸びしろしかないんです。事業を起こす可能性も魅力も、まだまだある。震災をきっかけに無くなってしまったお店を復活させるような事業も、できたら良いですね。
「ないもの」を嘆かず「あるもの」を生かす
──市長が思うまちの理想の未来には、どんな光景が広がっていますか。
私がまだ学生のときに見た映画で、アメリカのカリフォルニアの海沿いのまちで、UCLAの大学生がリュックを背負って自転車に乗って行き交うシーンがあって。私は公約に大学誘致を掲げていますが、大学生たちがまちの中を歩いたり自転車に乗っていたりして、美味しそうな飲食店があって、夏の明るさと潮風が気持ちいい、そんな風景が思い浮かんでいます。
まちの人の声を聞くと、交通手段は不便、病院も近くになく、学校の生徒数は減っていて……と悲しそうに話すんです。でも、便利さだけを追求するのではなく、自然や食や文化などの魅力を生かしたい。relayを通じてそういった資源を大切に生かした事業が生まれていくと良いですね。
──事業譲渡希望の方(譲り手)に伝えたいことはありますか。
陸前高田の飲食店は、数が多いわけではないですが、「味のレベルが高い」と、いろんなところで言われます。三陸の他のエリアに行っても言われるので、そういったお店の味は、これからも絶やすことなく確実に残したい。その技術は絶対自分で終わらせないで、ご家族だけでなく、UIターンの人なども含めて、relayの仕組みを活用して未来に継承していただきたいですね。
──継ぎ手となる方にもメッセージをいただきたいです。
陸前高田は本当に美味しいものが豊富にあって、天候も良くて、海を見てぼーっとしてるだけでも幸せになるようなところです。ここで暮らして仕事をしていくのはものすごくいいんじゃないかなと思います。地震や津波のことを懸念する人もいますが、東日本大震災の経験があるからこそ、日本で一番防災の知恵を身につけた、災害に強いまちになったと思うので、安心して来ていただけたらと思います。
──どんな方に来てほしいですか。
移住して事業をしている方々は「陸前高田って良いとこです」と言って、一生懸命仕事をしているんですね。我々が気づかないような魅力も教えてくれて。なので、陸前高田に来て「良いところだな」って思ってもらえる人が一番だと思います。
小さなまちだからこそできる機動的な支援
──市長として新たなチャレンジをどのように応援しますか?
チャレンジショップや起業支援制度などはこれからも行っていきます。それだけではなく、移住や定住の支援もあります。この先、我々が想定してないような新しい事業もあるかもしれません。その時は、ニーズに合わせて支援できる制度をつくっていけるんじゃないかと思います。大きな自治体ではないので、新しい支援施策をつくるのにさほど時間をかけず、機動的に動けるのが強みだと思っています。
──一次産業への支援はありますか?
漁業はあまり機械化が進んでおらず、勤勉な人たちの労働力に頼っている状態なんです。以前、まちでワカメの加工やイシカゲガイの養殖などをやっている方に出会って。「私はあまり勤勉じゃないので、楽をしたい!」と、作業をサポートする機械を自分で作っちゃったんです。重いものを運ぶ作業を支援するような機械で、ちゃんとしたものでした。ただ「あんまりお金もなくて、誰も支援してくれない」とのことだったので、経済産業省と連携して市役所で予算を作り、今開発中です。少子高齢化で人口が減るとマイナスに捉えられがちですが、漁業の場合だと、2人で100作るのを1人で100作れば倍になる。大変だけど、機械を使えば実現可能なので、チャンスはあるなと思います。
──お話を聞かせていただき、ありがとうございました。