巣鴨地蔵通り商店街に店舗を構える「山年園」は、日本茶、健康茶、健康食品、茶器などを販売する創業71年の老舗茶舗です。
3代目である塩原大輝(しおばらたいき)さんは、EC事業に力を入れて会社全体の売上アップに寄与。特に山年園の主力商品である「高級お茶漬けセット」は各メディアに取り上げられるほか、2021年5月には楽天デイリーランキング総合1位を獲得するなど、その勢いはとどまるところを知りません。
3代目の塩原さんに事業承継をしたきっかけやEC事業を立て直した経緯、今後の展望などについて話を伺いました。
システムエンジニアから、老舗茶舗のEC事業の責任者へ
塩原さんは、大学卒業後は家業を継がずIT企業でWMS(倉庫管理)システムを開発するシステムエンジニアとして働いていました。
塩原さん「正直に言うと、家業については何も考えていなかったです。創業者である母方の祖父は僕が生まれる前に亡くなっているんです。また店舗は実家から離れていることもあり、馴染みがありませんでした。」
特に、家業を継ぐ選択肢を考えていなかった塩原さんですが、先代であるお父さんにECのセミナーに連れていってもらったことがターニングポイントになります。
塩原さん「ECのセミナーに来ている社長さんの話を聞いたり会ったりするうちに、いろんな世界があることを知って面白そうだなと思いました。父からも『うちに入って通販部門を伸ばしてくれないか』と言われて、会社を退職することにしました」
赤字状態からV字回復。EC事業の売上が30倍以上に
しかしその当時、会社は赤字状態。塩原さんは半年ほど無給で実店舗の業務を覚えながら、営業終了後にインターネット通販の勉強をして、ECサイトの運営に携わっていきました。売上を増やすために、連日夜遅くまで一人居残りをして注文処理や発送の手続きをしたと言います。
塩原さん「最初はなかなか売上が伸びずに苦労しました。結局、どんなに商品ページをキレイにしても良い商品じゃないと売れないわけですよ。『本当に良いものを扱う』という商売の基礎を学びましたね。
昔から最上級を目指すタイプで、無茶しがちなんです。キャパシティが1000件だとしたら1000件前後までしか注文を取らないのが普通ですが、僕は3000件とれるなら3000件とっちゃおうと考えます。
当時は、システムやオペレーションも整備されていなかったこともあり、出荷はほとんど手作業でやっていました。夜中2時に帰って夜中3時に出社する時期もありました」
短期間で圧倒的な行動を積み重ねた結果、EC事業の売上は30倍以上になり実店舗の売上を超えました。山年園のEC事業の売上を大きく押し上げる要因となったのが、現在、主力商品となっているお茶漬けセットです。
塩原さん「父と母が見繕って買ってきたんですよ。もともと、お茶漬けは他の商品と比べて一定数の売上がありました。購入履歴を見ているとギフト注文をしている人が多いことに気付きました。そこから「常温保存」「無添加だし」「具材20種類」など、少しずつギフト用に合わせて商品の特徴を打ち出していきました。すると、売上がどんどん伸びていき、楽天市場のお茶漬けカテゴリランキングではデイリー、週間、月間ともに1位をキープ、また2021年5月には楽天デイリーランキングで1位を獲得することができました」
伝統にとらわれず、柔軟な思考で事業を伸ばしていく
外の世界を見てから家業に戻った塩原さん。どのような価値観のもと、事業をされているのでしょうか。
塩原さん「家業に思い入れがないわけではないですが、良い意味でドライに見ているかもしれません。家族は家族、仕事は仕事と区別して考えていますし、いわゆる『代々受け継いできた技術や商品を世の中に』みたいなこだわりもないですね。それよりは純粋に経営することが好きなんですよね。」
家業には必ずついて回る伝統。冷静にフラットに先を見据え、過去の悪習は断つべきだと塩原さんは語ります。
塩原さん「伝統というと良いイメージが強いですが、前々からやってきたことだから続けているみたいなのが嫌なんです。たとえ、それが先人が築いた文化だったとしても。事業にとって悪影響をもたらすのであれば、やり方は変えるべきだと思うんですね。伝統にとらわれず、いろんな視点から考えるようにしています」
新店舗の建設。伝統のお茶を日本から海外へ
最後に、塩原さんに今後の展望についてお聞きしました。
塩原さん「来年に一号店を建て替える予定です。その建て替えが完了し、オペレーションも落ち着いたタイミングで、本格的に海外展開に向けて動こうと考えています。僕が携わっている業務をどのようにスタッフに引き継ぐかが今後の課題ですが、ゆくゆくは海外用のECサイトを作って、海外の売上を半分くらいにできれば良いですね。」
家業と聞くと、「伝統を守る」といった言葉を思い浮かべます。しかし、塩原さんは伝統にとらわれることなく、自由な発想で経営にとってベストな選択を考えています。
日本国内だけでなく海外への展開も検討されているとのこと。これからどのような事業展開をしていくのか、今後の活躍に注目です。
文:俵谷 龍佑