事業承継ストーリー

市役所職員が尾道の観光スポットを承継!後藤鉱泉所の「幻のサイダー」を守り抜く

広島県尾道市は「坂の街・文学の街・映画の街」として有名で、多くの観光客で賑わいます。中四国を結ぶしまなみ海道があり、サイクリストが集うエリアでもあります。「後藤鉱泉所」は尾道の対岸に浮かぶ向島にあり、本州から3分ほど船に揺られると到着します。

昭和5年に創業された「後藤鉱泉所」は昔ながらの清涼飲料水店です。1本1本手作りで製造しており、現地のお店でしか味わえないサイダーは「幻のサイダー」と呼ばれています。地元の人だけでなく全国からの観光客やしまなみ海道を走るサイクリストから人気のお店です。

長く愛されてきたお店は今年で91年目になり、3代目の後藤忠昭さんから2021年4月に森本繁郎さんが次なるバトンを受け取りました。

代々続く親子承継から第三者承継へ

「後藤鉱泉所」は創業から代々親子承継でお店を経営しており、戦争や原爆をも乗り越えてきた長い歴史のあるお店です。

先代の後藤さんは3代目として、ご夫婦でお店を切り盛りしていました。サイダーを飲みにくるお客さんはもちろん、県内外から後藤さんご夫婦に会いにくるお客さんもたくさんいらっしゃいました。

長年親子承継で引き継がれてきていましたが、次の担い手がおらず知り合いから紹介された事業承継のマッチングサイトで承継者を探すことに。そこで名乗りをあげたのが森本さんでした。

地域のお店は街を彩る宝

森本さんはこれまで広島県の市役所に勤めており、歴史を活かしたまちづくりなど街の特性を活かした地域活性化に関わる業務を行っていました。仕事をする中で、地域で愛されているお店の担い手不足でどんどん辞めていっている姿を見てきたと言います。

森本さん「お店がなくなると街が衰退し、活気が失われます。そんな地域の姿を見てきて、自分でも何かできることはないのかと悶々としていました。人生100年時代と言われる今、定年を迎えても長く続けられる仕事をしたいと思い今の仕事を辞めようと考えていたところでした」

間接的ではなく自分自身が街を守る仕事をしたいと考えていたところ、事業承継のマッチングサイトで「後藤鉱泉所」が次の担い手を探しているのを発見しました。

森本さん「後藤鉱泉所は全国放映のテレビでも取り上げられていましたし、尾道の観光スポットとしても有名だったので知っていました。まさかこんなに有名なお店が、承継の問題で閉店の危機にあるとは驚きました。知名度もありましたし、街の宝を残したいと思い承継の決意に至りました」

そして承継にあたり、神戸に住んでいる妹の藍さんを誘い向島にきてもらうことに。

森本さん「先代が経営していたお店の魅力は、お店や商品はもちろんですが、先代ご夫婦のトークも魅力の1つだと考えました。そう考えた時に、私よりも妹の方が社交的だったので、一緒に事業をしようと誘いました」

長年受け継がれてきたお店の技術と想いを引き継ぐために

後藤さんと森本さんが初めてお会いしたのはマッチングサイトでマッチした後でした。今年で80歳を迎える後藤さんは、背中がしゃんと伸びており若々しく元気な印象だったと言います。森本さんは”誇りを持って現役で働く”ということはこういうことかと感銘を受けたそうです。
「地域の宝を守りたい」という森本さんの熱意が伝わり、後藤さんも事業を引き継ぐことを決意しました。

承継が決まってから引き継ぐまでは、前職に勤めながら休みの日に製造のお手伝いをして技術を学んでいきました。多くは語らなかった先代でしたが、「味は落とさないように」としっかりと叩き込んでくれたそうです。

森本さん「今まで親子承継で受け継がれていたこともあり『見て学ぶ』ことが多かったです。必死になって作り方を覚えましたね」

先代が繋げてきたこのお店をしっかり引き継ぐために、試行錯誤しながら承継の日を迎えました。

今の時代に適用する商売に変化していかなければならない

お店で使われている機材は長く利用されているため、味が安定しないことが悩みだと言います。1本1本が個性ある味になってしまったり、正確な量が入らず、いつ壊れてもおかしくない状況だそうです。お店で販売している商品の単価は大体200円前後のため、客単価がどうしても安くなってしまいます。客単価が低いと売り上げが出せないため、必要な機材も買い換えることもできません。

少し前までは各地域に清涼飲料水店があり、各家庭ごとに瓶ビールや瓶ジュースをケースで購入する時代もありました。飲み終えた瓶は回収し再利用するサイクルができていましたが、大手企業が参入し、缶やペットボトル、自動販売機が世に浸透し、清涼飲料水店はどんどんお店を閉めていったと言います。

森本さん「今までと同様の商売を続けていくと、労力と客単価が見合わず経営破綻してしまいます。せっかく引き継いだお店を潰すわけにはいきませんし、継いだからには後世にもこのお店を承継していきたいと考えています。そのためには、今の時代にあった商売を考え時代に適応していく必要があります。きちんと売り上げを作り、次の担い手にバトンタッチできるよう土壌を作っていきたいですね」

販路拡大のために新しい取り組みに挑戦

現在、販路拡大のためお店のSNS開設・グッズ販売・ECサイト開設(現在準備中)など、承継後に新たな取り組みを始めています。SNSを開設したところ、早速『コラボ商品を作りたい』と連絡があり一緒に新商品の開発を行うことになりました。

森本さん「今回の事業承継において、『地域の宝を、地域の力に。』が私どものビジョンでした。今回お声がけいただいた方からのご提案は、ビジョンに一致するものであり、私どもの戦略『客単価を上げる』ことに合致していることから、新商品の開発に踏み切りました」

商品開発を重ねて完成した商品は、広島県瀬戸田の怪獣レモンを使った『怪獣サイダー』。6月に販売開始したところ、あっという間に売り切れたそうです。

森本さん「コラボ商品開発の条件として、受注して製作する関係性ではなく、一緒に商品を作っていくことを大切にしています。新たな取り組みとしてこれからコラボ商品は力を入れたいです」

また、仕事を通して新しい人とのつながりができ交流できることが、承継後に感じる嬉しいことだと語ります。

森本さん「お客さんが笑顔でお店にいらっしゃるんですよ。前職では怒っている方の対応も多かったため、最初から笑顔でコミュニケーションが取れることはすごく嬉しいですしやりがいを感じますね」

先代が築き上げてきた経営を大切にしながら、未来に繋げられるお店作りを

これまでは、瓶を回収するためにサイダーは通信販売は行なっておらず、店舗で購入して飲んでいただくスタイルでした。そのため後藤鉱泉所のサイダーは『幻のサイダー』とも呼ばれています。
販路拡大のため通信販売を取り入れていく予定ですが、持続可能なまちづくりのために、これまでのように瓶を回収できることができないか検討中だそうです。

森本さん「事業承継は承継後の課題や困難に立ち向かい、試行錯誤しながら乗り越えるというところに魅力を感じています。先代が91年間繋いできたお店を守り、次なる後継者へバトンタッチできるよう、試行錯誤しながら頑張っていきたいです。それが地域の宝を守り、地域を守ることに繋がると考えています」

消えそうだった街の明かりが森本さんの手によって再度灯されました。こうしてまた次の世代へと紡がれていきます。
尾道に行った際はぜひ、「後藤鉱泉所」に立ち寄ってみてください。

文:手嶋芽衣

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