
十勝平野の中央部にある自然豊かなまち・北海道芽室町。駅から徒歩2分ほどにあるビルの2Fにあるのが、地域の憩いの場であったスナック「グリーンハウス」です。オーナー・高山初枝さんが約40年間守ってきた、思い入れあるお店。そして2024年3月、「呑処 酒歌屋(さかや)」としてこのスナックを引き継いだのが後継者である三谷諭史さんです。
三谷さんは元々、このビルの1Fで居酒屋「はなはな」を経営しているオーナーでした。今回どうしてこのタイミングでお店を引き継ぐことにしたのか、事業承継のきっかけや承継後の様子、想いを伺いました。
譲渡者: 高山初枝様
承継者: 三谷諭史様
聞き手: relay編集部
ーー(聞き手)relay編集部(以下、略):事業承継を考え始めたきっかけは何だったのでしょうか?
(譲渡者)高山初枝様(以下、敬称略):きっかけは、健康面の不安からです。10年前に脳梗塞を患ってから右半身がうまく動かせなくなってしまったんです。復帰した後も「リハビリになるかな」と思ってお店を続けていたんですが、最近足が思うように動かなくなってきて。
一時は「従業員を募集して、サポートをしてもらおうか」とも考えたんですが、そもそも私がお店に立てずに店を閉める日が続いてしまったら従業員にもお客様にも申し訳ない。それだったらいっそのこと、誰かにお店をお任せした方がいいと考えたんです。
relayと芽室町役場が連携していたことへの安心感
ーーどうしてrelayで事業承継の募集を決めたのでしょうか?
高山:元々は芽室町役場から送られてきたアンケート用紙がきっかけでした。事業者向けに困り事はないか、事業承継について興味があるかどうかという内容でした。すぐに回答したところ、担当者の方がrelayのことを教えてくれたんです。全く知らない人じゃなくて、顔見知りの役場の人が間に入ってくださったので安心して任せられました。
ーー自治体も一緒に取り組んでくれたのですね。今回事業承継された三谷さんは、元々お知り合いだったんですか?
高山:そうなんです。同じビルの1Fで、居酒屋をやっているオーナーさんで。気さくな人柄もあって、何度かお店で「誰かに引き継げたらいいんだけど…」とこぼしていたんです(笑)そうしたら、心配してくれたのか色々と面倒を見てくれることが増えていって。この人にだったら任せたいな、と思うようになりました。
大事なのは「人が集まれる居場所を残したい」という気持ち
ーー承継された三谷さんにお話をお聞きします。どうして事業承継に踏み切ったのでしょうか?
(承継者)三谷諭史様(以下、敬称略):高山さんはこのビルのオーナーでもあるので、時々お話しする機会がありました。体調が優れないことも知っていたので、大丈夫かなあと心配してたんです。そんな時にrelayさんの記事をたまたま見つけて、すぐに高山さんにも連絡しました。
この町って、本当にいい町なんですけどとにかく娯楽が少ないんです。飲み屋さんも昔はいくつかあったんですけど、今は高山さんのお店を含めても数えるほどになってしまって。このままお店がなくなってしまって、町のネオンがまた一つ消えてしまうのはあまりにもったいないと思いました。
また、ちょうどいいタイミングで隣町の帯広市から、スナック経験のある方が居酒屋のお手伝いに来てくれていたんです。それで「こんなお店が2Fにあるんだけど、ママとしてやってみるのはどう?」と相談したら快諾してくれて。そこからはとんとん拍子に話が進んでいきました。
ーー実際にお店を引き継いでみて、反響はどうですか?
三谷:元々この町に住んでいる年配の方がたくさん集まるお店だったので、今もその流れを継いでいます。来ていただいた方は「この店がなくならなくてよかった」とおっしゃってくれますね。高山さんも「ちょっとお店に顔を出したいな」って時に来てくださるので、顧問のような形でいてくれています(笑)
やっぱり、人が集まれる居場所を残しておくってことが一番大切だと思うんです。じゃないと、どんどんこの町にいる楽しみが薄れていってしまう。利益をたくさん得たい!というよりは、この場所を残すということを大切にしたいと思っています。メインストリートの灯を消すわけにはいかないですからね。
名物はそのまま引き継ぎ、新たなチャレンジも
ーー人が少なくなってしまっている町だからこそ、居場所づくりは大切ですよね。承継後に新しく始めた取り組みはありますか?
三谷:元々このお店は、生バンドの演奏が名物の一つだったんです。楽器や音響機材が揃っていてここまで広いスペースはなかなかありませんからね。だからその環境は残しつつ、新たな若い世代にも来てもらえるように貸しスタジオを始めています。
楽器は持っていないけどやってみたい、練習する場所がほしい人に貸し出しができるような事業です。そうすることで学生さんも足を運びたくなる場所になるし、また新たな居場所ができるじゃないですか。ここで練習して、ライブをやってもいいですし。とにかく、この町の新たな娯楽をひとつでも作りたいんです。
若者からお年寄りまで、皆んなが足を運べる居場所づくりを
ーー貸しスタジオ、ワクワクしますね。これからどんなお店にしていきたいですか?
三谷:芽室町は「農業の町」として、今いろんな農家さんが頑張って認知を広げようとしています。「芽室町=元気な町」と思ってもらうためにも、飲食店は町のネオンを消さないように頑張らないといけない。だからこそ幅広い世代が足を運びたくなるような、そんな居場所づくりをしていきたいと思います。
ーー取材中も楽しそうに会話していた、高山さんと三谷さん。小さな町だからこそできた新しい繋がりが、relayの事業承継をきっかけにひとつのお店を守りました。今日も「呑処酒歌屋」のネオンが、芽室町を明るく照らしています。