事業承継ストーリー

工場の前オーナーと意気投合して商品を共同開発!?料理研究家が廃業寸前の食品工場を承継

大阪府堺市にある「廣瀬食品」は、創業40年の食品工場。ミシュラン三ツ星を獲得した日本料理店に米飯を卸し、大阪の有名焼肉店に「焼肉のタレ」を製造した実績があります。しかし、コロナ禍で飲食店からの受注が減少し、廃業寸前に。

そんな廣瀬食品を承継したのが、料理研究家の五十嵐豪さん(35)です。株式会社フードクリエイティブファクトリーの代表取締役でもある五十嵐さんは、多数のレシピ本を出版し、SNS運用代行やレシピ開発などで大手企業とも取引してきました。

五十嵐さんはなぜ、廣瀬食品を事業承継したのでしょうか。承継の経緯や承継後の取り組みについてお伺いしました。

「くつろげるスイーツを作りたい」新商品の製造に苦戦していた中で舞い降りたチャンス

21歳の頃、4万円の所持金で料理研究家として創業した五十嵐さん。レシピ本の出版やメディア連載などを経て、株式会社フードクリエイティブファクトリーを東京で立ち上げました。以来、SNSで拡散される企画力を強みとして、食に特化したSNS運用やプロモーション施策を行ってきました。

株式会社フードクリエイティブファクトリー代表取締役・五十嵐豪さん

五十嵐さん「活動開始してから13年、受託サービスをメインとしてきました。一方で、自社の力で伸びていく事業をいかに作るかが、長年の課題だったんです。そこで、自社ブランド『toroa(トロア)』を展開する運びとなりました」

toroaのコンセプトは、「極上スイーツを通して、くつろぎの時間を届ける」こと。そこには、働き詰めの日々の中で「くつろぐ時間を持つことの大切さ」を痛感した、五十嵐さんの想いが込められています。

しかし、toroa初の商品「とろ生ガトーショコラ」の開発には、大きな壁が。製造をOEMで食品工場に委託したところ、「レシピの微調整がしづらい」「想定したスケジュールで開発が進まない」などの問題が生じました。

そんなとき、思わぬチャンスが舞い降ります。廣瀬食品の代表・廣瀬誠さん(70)が、廃業寸前の工場を承継する人を探していたのです。廣瀬さんの親族がM&Aの仲介会社を運営しており、五十嵐さんとfacebookでつながっていたことから、生まれた縁でした。

五十嵐さんはすぐに、東京から大阪の廣瀬食品へ、視察に向かいました。

視察に訪れた日に承継を”ほぼ決意”。意気投合して、先代が共同開発者に!?

視察に訪れたその日に、承継の決意を固めたという五十嵐さん。決め手となったのは……?

廣瀬さん(左)と五十嵐さんの奥様・五十嵐ゆかりさん(中央)と五十嵐さん

五十嵐さん「同行したコンサルタントが、『古いけれど、すごく清潔。多くのの食品工場を見てきたけれど、ここまできちんと手入れされた工場は珍しい』と後押ししてくれたんですよ」

料理人でもあった廣瀬さんは、仕事がない日も工場に足を運び、掃除を欠かさなかったそうです。そんな廣瀬さんの第一印象について、五十嵐さんはこう振り返ります。

五十嵐さん「僕にとっては、初めての事業承継。”腹の探り合いになるのかな”とか”廣瀬さんは気難しい方なのかな”とか、いろんな想定をしていました。

ですが、実際にお会いすると、お人柄にいい意味でギャップがありました。僕がやってきたことやこれからやりたいことについて、前のめりで聞いていただけて嬉しかったです。気難しさを感じず、一緒に楽しんでいただけるようでワクワクしました

日本料理一筋だった廣瀬さんは、意外にも、「日本一おいしいガトーショコラを作りたい」という五十嵐さんの想いに共感してくれたそうです。そこで、承継後は共同開発者として、廣瀬さんに「とろ生ガトーショコラ」の製造に携わってもらうことになりました。

料理研究家と料理人の二人三脚で生まれた新商品

「とろ生ガトーショコラ」は、五十嵐さん率いるフードクリエイティブファクトリーがレシピ開発を、廣瀬さんが製造を担当する「二人三脚」体制で開発されました。

五十嵐さん「廣瀬さんからは、効率的な大量調理の方法や、衛生管理などを学びました。特に衛生管理について、”ここまでやればOK”というベースラインを知れたのが、良かったですね。ベースラインが決まれば、今後の方針が見えますから。自社ブランドを展開したいと思ってきた私たちにとって、貴重な機会でした」

レシピ開発には、料理研究家・五十嵐さんならではの視点が活かされました。

五十嵐さん「料理研究家って料理人ではなく、消費者に近い立場で考えることが多いんです。スーパーで食材を買って、家庭料理を作るわけですから。『とろ生ガトーショコラ』のレシピ開発でも、消費者の立場から、”こうした方がおいしいんじゃないか”と考え続けました。

チョコレートの場合、一種類のチョコレートにこだわるよりも、数種類のチョコレートを混ぜた方がおいしいと僕は思います。そこで『とろ生ガトーショコラ』では、4種類のチョコレートをブレンドしました。幅広い層の方に満足していただける味を目指して、試作を重ねました」

「とろ生ガトーショコラ」は、2020年12月、クラウドファンディングサイト「makuake」でリリースされました。開始後10時間で目標金額の1000%を達成し、最終的には、達成率3400%を獲得し完売。料理研究家と料理人の強みをかけ合わせ、成し得た成果でした。

突然の引退。スタッフを守るために、衝突しながらも業務改善を図る

「とろ生ガトーショコラ」のリリースから3日後。五十嵐さんにとって、予想外の展開が起こります。心臓の疾病のため、廣瀬さんが仕事を引退することになったのです。

そこで急遽、製造スタッフを採用し、廣瀬さんの技術を引き継ぐことになりました。

同時に、オンラインストレージの活用や資材倉庫の導入などを通して、業務改善を図りました。ガラリと変えたのは、厨房のレイアウト。不要な調理器具を捨て、長すぎる動線を改善しました。「快適に働ける環境の方が疲れにくく、集中力が続きます。事故の防止にもつながりまし。」と五十嵐さんは語ります。

とはいえ、そこは、廣瀬さんが長年働いた職場でもあります。改善にあたって、廣瀬さんと衝突することはなかったのでしょうか。

五十嵐さん「衝突は、多々ありましたよ。それでも、安全面や衛生面を考慮しての改善点は、今すぐ実行しなくてはという思いがありました。というのも、万が一、食中毒などの事故が発生したら、東京のオフィスで働くスタッフを守れなくなってしまうからです。

代表取締役として常に最悪の事態を想定していること、それを回避するための改善が必要であることを率直に伝え、協力していただきました。」

食を通して「自分を大切にするきっかけ」を提供したい

「とろ生ガトーショコラ」に続き、新商品「とろ生チーズケーキ」を販売した五十嵐さん。今後の展望について、こう語ります。

五十嵐さん「私たちは忙しい日々の中で、自分自身を後回しにしがちだと思います。気がついたときには心身ともにボロボロになってしまい、仕事やパートナーが嫌になってしまう。これは、僕自身が何度も経験したことです。

でも本当は、長く続けることによって、徐々にうまくいくようになることもあると思うんです。だからこそ、ボロボロになる前に自分自身をケアすることが大切です。toroaのスイーツや発信を通して、みんなが自分を大切にする『きっかけ』を作っていきたいですね。」

食を通してより多くの人に、くつろぎの時間を届けたい。くつろぎの時間が、長く走り続けるための糧となってほしい。廣瀬さんから受け継いだ食品工場で、今日も「極上のくつろぎスイーツ」が生まれます。

文・三間有紗

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