事業承継ストーリー

承継に必要なのは「破壊と創造」。出島戦略でシナジー効果を生み出す3代目の想い

東京都東久留米市で昭和42年から3代続く「細田木工所」。3代目の細田真之介(ほそだしんのすけ)さんの祖父が建具屋として創業し、父親は現役の一級建築士として活躍。真之介さんは、プロダクト開発から新商品の販売など幅広く取り組まれています。

また、あくまでも家業を継ぐのは目的ではなく手段ととらえ、家業とは別軸で個人事業として「Sense Of Fun(SOF)」という異業種のクリエイターチームを立ち上げ、活動の幅を広げています。

そんななか生まれた壁掛けの折りたたみデスク「タナプラス」は、日本特有の狭い住空間で家具の配置に悩む層にマッチし、コロナ禍でも需要が伸びている人気商品です。また地産地消を意識した国内の資源を使い、国内で製造するこだわりに、多くの支持を得ています。

今回は細田木工所3代目の細田さんに、事業を継ぐにあたっての先代との葛藤や家業とは別に個人事業を立ち上げた経緯、仕事への想いを語ってもらいました。

既存のビジネスモデルを脱却し、新たなプロダクト作りを

3代目の細田真之介さん

学生時代は建築学科にて設計を学びながら、大学の長期休暇を活用して家業の仕事を手伝っていたという細田さん。設計から自分で考えて自分で作る(施工する)ことによって得られる達成感や歓喜を求めて、就職せずに家業に職人として入社しました。

当時、3代続く家業を生業にすることに抵抗はなかったものの、下請けや受注発注が中心でなかなか利益が出ないうえ、休み返上で一生懸命仕事をしても赤字だったことに疑問をいだいていたという細田さん。今まで通りのビジネスモデルではいけない、やり方自体を根本から変えなくてはいけないと気づいたのは入社してから1,2年目からとのことです。

細田さん「下請けや受注発注の仕事を続けているうちに、そういった受け身の仕事だけじゃなくて、自社のオリジナル商品を作らなくてはと感じるようになりました。でも先代との価値観の違いや意見の食い違いがあり、なかなか思うように進みません。葛藤していく日々を過ごすうちに、次第に先代の言うことを聞くだけではなく、自分の思う道を戦ってでも進むべきだと思いました」

意図的な出島戦略で先代との軋轢を埋める

細田さんは先代に現状の問題点への解決策として新しいビジネスプランを提案しますが、職人気質の価値観を持つ先代とはうまく折り合いがつきません。当時はお互い良くしたいと思っているのに考え方が違うだけで衝突も多く、もどかしさを感じたそうです。

そこで家業を一度離れ、個人事業として細田製作所(Sense Of Fun)を立ち上げます。本業をこなしつつ、商品の開発や展示会への参加など、今までとは違った新しい仕事の範囲を広げていきます。家業と個人事業を意図的に切り離すことで、先代との対立や葛藤の解消を図るいわゆる「出島戦略」です。

細田さん「今の時代に沿った新しい事業や商品を提案しても、先代に理解してもらうのは難しく、いくら説得しても変わらないと思って、一旦家業とは別のフィールドではじめました。最初は先代にも『そんなのは遊びだ』といわれてよく思われていませんでしたが、少しずつ実績を出していくにつれて、次第に納得してもらえるようになりました。僕自身も外に出ることによって新たな出会いや発見もありましたし、やり方を変えるだけでうまくいくんだと気づきました」

家業である細田木工所とは別に、「タナプラス」という自社製品を開発し展示会に出展し、タナプラスの営業、販売する会社として個人事業を立ち上げたと言います。

細田さん「営業活動をしている間に、コラボや協業の話があったり、テレビや雑誌の取材に繋がり、少しずつ実績を作っていきました。その後オーダー家具の受注や新商品開発なども着手するようになりました」

仕事は外注ではなく、仲間と創り上げる

家業とは別の軸で活動することによって、自分のやりたいことに注力できたという細田さん。クリエイターチームを立ち上げるにあたって大事にしていたコンセプトは「それぞれが持つ感性が合うかどうか」「面白いものを造りたいという想いを持っていること」が主な基準となっていたそうです。

家具職人や一級建築士、空間デザイナー、グラフィックデザイナー、フォトグラファー、映像クリエイターなどの制作職やプロモーションディレクター、マーケティングディレクターなどのマーケティング職に就く人が集まり、それぞれが培ったスキルを持ち寄って新しいアイディアを生み出すチームができたことにより、お互いにとっていいシナジー効果が生まれたと話します。

細田さん「先代が考える『いいもの』って無垢材を使うことだったりするんですが、僕らは『環境に優しい』とか『オシャレ』というのがひとつの価値基準になっています。なのでそういった感性が似ていて、さらにクリエイティブな部分があって面白いものを造りたいという想いがある人に集まってもらいました。また、仕事をふるだけと考えるならば外注という手段もあったのですが、外注なら替えはいくらでもききます。僕はどうせチームを作るなら『替えのきかない関係性づくり』を重視していたので、まずは自分の身の回りにいる大学時代の仲間からスタートして、友人の友人、そのまた友人の紹介といった形で少しずつメンバーを増やしていきました」

メンバー全員が携われる案件が少ないことや、継続案件でなく単発案件が多いという現状の課題はあるものの、クラウドソーシングで外注するのではなく、感性の合う仲間と一緒に創り上げていくことで、自身にとっては技術の足りないところを補えて問題解決に繋がり、参加するメンバーも副業としてのスキルや実績がつくので、結果的にお互いにWin-Winな関係を築けているそうです。

既存のビジネスモデルを壊すのも、跡継ぎの仕事

3代目として事業を継ぐということに対しては、事業承継はあくまでも目的ではなく手段だと捉える細田さん。継ぐべきか、または立ち上げた別事業として買収やグループ化といった形で取り込むかは発展性を考慮して考えていきたいと話します。

細田さん「承継する会社の型にハマろうとする努力も必要だと思いますけど、『破壊と創造』という言葉があるように、ある意味既存のビジネスモデルを『壊していく』のも跡継ぎの仕事かな、と思っています。事業承継に関わらず、なにかを変えるときに衝突は避けられません。そこは先代と戦うべきところですし、戦うのが跡継ぎの役目でもあると思います。今あるリソースでどう戦うか。 僕は一度家業を離れて外部で仲間を見つけてやりはじめましたが、今後もいろいろと試行錯誤を練って切り開いていきたいと思います」

細田さんに今後の展望を伺うと、オーダー家具とプロダクト開発の両軸をやりつつ、まちづくり関連の事業がしたいと語ってくれました。

細田さん「まだまだ模索中でざっくりとした構想ですが、『まちづくりに携わりたい』という想いがあります。そのなかの一つの案として、新しい工場の形を作れたらいいなと。例えば職人体験ができたり、その場で相談に乗れたりするような場所を作りたいです。職人の顔や仕事現場が直接見れたり、お客様とコミュニケーションが図れることって、今までの工場にはなかったですし。バーミキュラさんや土屋鞄さんなど、他の分野での事例は多くあるのですが、木工所ではそういった事例はありません。お客様にとっても新たな体験価値になるので、『職人の顔が見れる』って今の時代にとても重要だと思うんです。まだ構想段階ではありますが、実現できたらと考えています」

細田さんがこれからどのように事業展開をしていくのか、今後の活躍に注目です。

文:吉川大智

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