事業承継ストーリー

店名もメニューも変える!京都の人気バルを継いだ元常連客の挑戦

「IL LAGO(イル・ラーゴ)」は、京都市役所の近くで2017年11月に開店したイタリアンバル。オーナーは長野から京都に戻ってきた堀田樹(ほったたつき)さんです。人気店だった『IL LAMPO(イル・ランポ)』のオーナーから事業承継する形で、店をオープンさせました。

「もともと京都出身で、『IL LAMPO』の常連だったんですよ」

常連さんからオーナーへ、店名やメニューも変えて承継。ちょっと意外な形でお店を継いだ堀田さんは、実は長野で赤字続きのペンションを人気ゲストハウスに立て直した実績の持ち主。IL LAGOという名前やメニューの変更には堀田さんなりの理由がありました。

突然の長野での奮闘生活。はじめて参加した常連同士のお花見が転機に。

京都で4年働き、IL LAMPOには週2,3回通っていたという堀田さんはその後、東京のWEB制作会社に転職。IL LAMPOでは「いってらっしゃい会」も開いてもらったそうです。ところが半年後、堀田さんの仕事は激変します。

堀田さん「入社して半年後、社長のお父さんが所有する長野のゲストハウス事業に配属されたんです。野尻湖のすぐそばという絶好のロケーションにもかかわらず赤字続きだったので、『飛ばされた』ようなものだったのかもしれません。

僕が行くまでは併設しているアウトドアスクールがメインで、ゲストハウスへの宿泊はあまり打ち出してなかったんですよ。そこで宿泊でも利益を上げるために、とにかく集客に力をいれていきました」

効率的なオペレーションを考え、お客さんも従業員も気持ちの良い場を目指した結果、赤字だったゲストハウスは1年で黒字に転換。今では予約が取りにくいほどの人気ゲストハウスに成長しました。

一方で、東京や長野にいる間もIL LAMPOとのつながりは続いていたそう。

堀田さん「年に1~2回くらい、京都に帰ってきたときは飲みにきてました。長野でやっていたことをSNSに上げていたんですけど、オーナーさんがそれを見てくれていたんです。『面白そうなことやってるな』と声をかけてくれたこともありましたね」

そして長野に配属されて3年目の2017年。堀田さんはIL LAMPOが閉まるという話を耳にします。

堀田さん「毎年、IL LAMPOの常連でお花見をしてたんですよ。僕はいつも予定が合わなくて参加できなかったんですけど、その年はたまたま予定が空いてたので参加したんです。そこで常連さんから『IL LAMPOが閉まるらしい』という話をきいて、オーナーさんに連絡しました」

すぐに店を継がせてほしいと申し出た堀田さん。とはいえIL LAMPOは人気店だったため、堀田さんの他にも既にお店を持っている人や、独立したい人たちからも申し出があったそう。

その中から、前オーナーが後継者として選んだのが堀田さんでした。

若者の熱意を買い、周囲への挨拶も欠かさなかった前オーナー。

店内の温かい雰囲気とマッチした、カウンター上に飾られているコルクの人形たち

堀田さん「僕がゲストハウスでやっていたことをSNSを通して見てくれていただけでなく、長野まで来てくれたことがあったんです。そこで、僕が一番若くてエネルギーがあったの感じてくれたのかも知れないですね。

『店の名前は絶対変えたい』って言ったんですよ。でもほかの人は、店名もスタッフもそのまま継ぎたいと言っていたそうで、そこが刺さったんじゃないかな。京都でお店やっている人ってだいたい繋がっているから、長野にいた僕の方が譲りやすいという事情もあったのかもしれません。

それに、継ぐ以上は変わってしまうところ、あえて変えるところって出てくるじゃないですか。だけど変えたら、お客さんの中には絶対『前のIL LAMPOはこうだったのになんで?』と言う人が出てくるんですよ。名前を変えてしまえばオーナーが変わったのもはっきりとわかるし、『IL LAGOはこういう店なんですよ』とも言えるでしょ?

とはいえ、僕は京都にある飲食店や仕入先の方々との繋がりはゼロです。そこで前のオーナーさんが『あそこの店に継いでもらうこと言うといたし』と話をつけてくれて。後からそのお店に行って名刺交換して挨拶して、周囲ともスムーズに関係を作っていくことができました」

本格派から居心地の良い店へ。新しいお客さんに刺さる雰囲気を目指して。

堀田さん「IL LAMPOはイタリアっぽさにこだわっていた本格派のお店でした。そこでIL LAGOは簡単なオペレーションで手頃な価格で提供する、それでいて美味しいご飯を気楽に楽しんでもらえるお店にしようと思ったんです。

たとえば、ピザ窯を撤去して店の奥側のテーブルスペースの内装もマイナーチェンジ、店全体でワイワイ楽しめる雰囲気を作りました。シェフと相談しつつ、鶏の唐揚げなどの一般的なメニューも充実させることで、気軽にオーダーできる居心地の良い雰囲気を目指しました。

とはいえ料理の質は落としていなくて、むしろ少し良い食材を選ぶように意識しています。原価率を3割に抑えても、それを美味しく調理するにはプロの腕が必要でオペレーションも増えます。だけど、ちょっと高くても質の高い素材を仕入れることで、僕の腕でもお客さんに喜ばれるような美味しい料理を提供するようにしています」

名前を変更して店内もリニューアル。意気揚々とオープンしたIL LAGOでしたが、はじめの頃は元人気店ならではの苦労もあったそう。

堀田さん「最初の3ヶ月くらいは結構大変でしたね。IL LAMPOのときのお客さんも来てくれるんですけど、様子を見に来ている感じであまり注文はしてくれませんでした。

ただ、長野のゲストハウス時代とは違って、好きな時間に閉められるという飲食店ならではの環境には救われました。営業が終われば飲みに行けるし、ラーメンも食べに行けますから(笑)

まずはきちんとした集客。新規のお客さんを大事にして、リピーターに繋げるみたいなことをやっていけば、うまくいくんじゃないかと思うんですよね。もし一度常連客が離れてしまっても、新規のお客さんたちが楽しそうにしていたら戻ってきてくれるんですよ。実際、久々に来たお客さんから『すごく楽しい空気が流れてていい』と言ってもらえて、再びリピーターになってくれたこともあります」

新しいお店を出したい、宿もやりたい。堀田さんの広がる夢

お店の壁に書かれているお客さんからのサインやメッセージ

IL LAGOをオープンしてから2年。シェフの独立を機に自身も厨房で腕をふるうようになり、堀田さんの活躍の場はさらに広がっていきます。2019年にはクラフトビアバルの新規オープンにコンサルタントとして関わりました。この店が若い人たちを中心に人気が出て売上も順調にアップしたことで、堀田さんはさらに自信をつけ、今は新たな挑戦を考えているそうです。

堀田さん「実は親父が串揚げ屋やってるんですけど、一緒に串揚げとワインを楽しめる店を新しくオープンできないかなと思っているんです。将来的に親の店を継ぐとかはまったく思っていないんですけどね(笑)。それに僕自身、ずっと飲食をやりたいとはあまり思っていないんです。『今がマックス!ずっとこのままやっていけばいい!』みたいな状態はあまり作りたくないというか。

長野でのゲストハウスの経験が面白かったので、いずれ宿もやってみたいですね。田舎の家賃が低いところなら、資金を建物のリノベーションなどに回せるのが魅力的だと思います」

飲食店の承継のキモは、しっかり数字を考えること

長野で危機的状況だったゲストハウスを立て直し、今では京都に戻ってIL LAGOを経営されている堀田さん。みずから料理を奮うなど、経営と現場の両視点を培ってきたその裏にある考えを最後に伺いました。

堀田さん「飲食ってそんなに儲かる業界じゃないので、なんとなく楽しそうと考えて飛び込んでしまうと大変なことになると思います。売上とか経費、人件費、利益、借金があったら返済計画をきっちり数字で考える。資金はどれだけいるのかも、事前に考えておくことは大事ですね。

もったいない精神って大切だと思うんですよ。この店の良さが伝わってないのはもったいない、もっと良くしたい、僕ならもっと良い店にできる。長野にしてもこの店にしても、僕がもっとよい店にしたい、という気持ちでやってきてますし。前はこうだったじゃなくて、今、どうすれば良くなるかを考える。そうすると、お客さんも集まってきますから」

人気店には人気店ならではの事業承継の難しさがあります。今でも前のオーナーさんや店長、シェフには今でもいろいろ話を聞いたり、相談にのってもらったりしているという堀田さん。先代の思いを受け止めて引き継ぐ。その上で自分なりのやり方を考え、アレンジしていく。そして、売上・経費・利益の数字をしっかり見てシビアに考える。そんな事業承継をみごとにやってのけた堀田さんのこれからが楽しみです。

文・鶴原早恵子

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