国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている角館武家屋敷通りを誇る、秋田県仙北市。歴史ある景観の中に佇む「茅葺きの曲がり家 西の家」は、明治時代に建てられた古民家を改修しながら活用している民宿です。
最も原始的な屋根と言われる茅葺き屋根で作られた民宿を承継したのは沖縄県出身の東風平(こちひら)さん。大学進学を機に秋田に足を踏み入れ、地域おこし協力隊としての活動を経て、2022年5月に先代から民宿を引き継ぎました。
地域の魅力を知り、秋田に残ることを決意
現在25歳の東風平さん。沖縄県で生まれ、小学校1年生から中学校1年生まではネパールのインターナショナルスクールに通い、秋田県の大学に進学しました。
東風平さん「大学では主に中国の経済について学び、研究していました。卒業後の進路を考えたときに、『地域に貢献したい』という気持ちが強くなり、卒業後も秋田県に残ることを決めました。方法を模索する中で、地域おこし協力隊の募集を見つけ、応募。無事に採用され、大学卒業後は地域おこし協力隊としての活動をスタートしました」
農村漁村などにおける滞在型余暇活動を意味する「グリーン・ツーリズム」を推進する仙北市の魅力を、在学中から肌で感じていた東風平さん。農家として生計を立てることの難しさや、先代から代々受け継がれている知恵に感銘を受けたと話します。
文化を守りながら新しい挑戦を続ける
大学卒業後2年間、東風平さんは地域おこし協力隊として仙北市の農家民宿と修学旅行生や海外の団体客を仲介する業務に携わり、地域おこし協力隊としての任期が迫る中で、今回の承継の話が持ちかけられました。
東風平さん「こういった農村部では共通ですが、先代が高齢になったことで、次の世代へのバトンタッチが課題となっている状態でした。息子さんたちも既にサラリーマンとして働いていたため引き継ぐことが難しかったんです。ただ、茅葺き屋根を残していくことに真摯に取り組んでらっしゃることを知っていましたし、昔からあるものを大切にしていきたいという気持ちは私も同じだったので、手助けが出来たらという想いで承継を決めました」
承継にあたり、先代から繰り返し「自由にやって良いですよ」と声をかけられたという東風平さんは、古き文化を残すために、時には課題と向き合いながら民宿を経営しています。
東風平さん「先代は本当に懐の広い方だなと感じています。背中を押してもらえたからこそ、さまざまな挑戦もできているので本当にありがたいですね。この民宿は『茅葺き屋根を残す』という目的で営まれていたので、要となる屋根を絶やすことのないように、先代が築いてきたものを大切に守っていかなければならないと思っています」
元々の関係性もあったことから、スムーズな引き継ぎができたと話す東風平さん。少ない資金でも事業を始められる事業承継に魅力を感じている一方で、課題もあると話します。
東風平さん「営業する前から薄々は分かっていたことですが、お客様の数はシーズンによって波が大きいなと感じています。近くにある武家屋敷は桜の名所なので、春はお客様が多い一方、冬のお客様は本当に少ない。京都などの有名な観光スポットとの違いを身に染みて感じていますね。町の魅力をどのようにアピールすれば、年中お客様が来てくれるようになるのか、そこが今後の課題です」
地域を巻き込みながら盛り上げていきたい
課題も抱えつつ、日々奮闘されている東風平さんに今後の展望について伺いました。
東風平さん「グリーン・ツーリズムなどもそうですが、本来の魅力というのは数時間や1日という短い時間で伝わるものではありません。長期間その土地に触れることで、徐々に魅力に気づいていくもの。茅葺き屋根の家も、より長く滞在していただくことで歴史や周辺地域の理解を深められるような場所に出来ればと考えています。
とはいえ、もともと秋田県の人間ではない私には『完全な秋田』は再現できないかもしれません。これまでの経験も活かしながら、周囲の方々も巻き込んで盛り上げていきたいです。
茅葺き屋根は、地域の方々が連携して一軒一軒の屋根を順番に取り替える文化がありました。古き良き文化を、現在のシェアリングエコノミーなどを取り入れることで復活させていきたいという思いもありますね。自分のバックグラウンドも活かしながら、地域の方と協力して、文化の橋渡しが出来るように頑張ります」
古き良き文化を継承しながらも、新しい風を吹かせていく。そんな東風平さんの挑戦に期待が高まります。
文・たお