事業承継ストーリー

2度の事業承継の失敗を経験した老舗石鹸メーカー。「くらし、気持ち、ピカピカ」な自律型組織をつくる4代目の挑戦

大正13年創業、大阪府八尾市に拠点を置く「木村石鹸工業株式会社」。古くから続く製法でこだわりの石鹸を製造しています。職人が手作業で行う昔ながらの「釜焚き」と、厳しい品質基準によって作られた石鹸は工業用・家庭用で人気を集めています。

今でこそ97年続く老舗企業ですが、3代目の社長が2度の事業承継に失敗し、後継者不在の状態になった時期もありました。

会社危機のなか4代目を承継し、新規事業やブランドづくりを推進して会社を成長させている木村祥一郎さんにお話を伺いました。

子供の頃から、家業は絶対に継がないと思っていた

木村石鹸工業株式会社 代表取締役 木村祥一郎さん

子どもの頃から、3代目である父親から会社を継ぐよう言われていた木村さん。しかし、若い頃は会社を継ぐ気はなかったと言います。

木村さん「当時は社員も少ない田舎の町工場。すごく狭い世界に見えて、絶対に継がないと思っていました。ちょうど私が大学の頃にWindows95が登場して、インターネットが流行りはじめました。私もパソコンに夢中になり、卒業後は就職せずに、インターネットに関する会社を立ち上げました」

IT企業の副社長として18年間経営を続けていた木村さん。一方先代は、木村さんが若い頃から会社を継がないと伝えていたため、2度の事業譲渡に挑戦していました。しかしいずれもうまくいかずに、短期間で終わってしまいます。

木村さん「今から十数年前、親父が病気になって社長職を退くことになり、ずっと工場で働いていた人に社長を任せました。その後7年間社長を続けてくれましたが、親父と価値観が合わないことから、仲違いをして関係が失敗してしまいます。

この時、親父から助けて欲しいとお願いされましたが、自分の仕事も忙しかったので、知り合いの社長の経歴を持つ人を紹介しました。その人に事業を任せることになったのですが、会社に馴染めず2年で退任することになります。これを期に、私も40歳になったタイミングでしたし、紹介した人が辞めてしまった手前、責任も感じていましたので覚悟を決めて実家に戻ろうと決めました。それを聞いた親父はとても喜んでいました」

社内の「失敗が許されない文化」を打破し、事業構造の見直しを実施

木村さん「突然戻ってきた自分が常務に就くことで、社員からの反発があるのではないか心配していました。しかし、親父についてきていたベテラン社員が多かったため、身内である自分を快く迎え入れてくれました。社員との関係で困ったことは今までありません。

むしろ問題だったのは、2度の事業承継の失敗から、失敗が許されない文化が社内で生まれていたことです。失敗したときのペナルティを恐れるあまり『新しいことするより、言われたことを粛々とこなしている方が評価を下げなくて良い』という考えが社内に浸透していました」

価値観の違いで起こった前回の事業承継の失敗を繰り返さないように、急激に新しいやり方で社内を改革することは極力避けたと言います。

木村さん「まずはじめに、社員たちの中に積み重なった、失敗へのネガティブな感情や思考を取り除くことに意識を置きました。また財務的には過去にやってきた利益の蓄積があって、キャッシュが切迫していることはありませんでしたが、利益が右肩下がりにあったことが課題でした。事業構造が特定の会社に依存していたので、そのお客さんからの要望を断れない状態だったんです。

原料が値上げになっているのにも関わらず、こちらが提供する価格は値下げに走ってしまっていて、利益を食い潰していて状況がよくありませんでした。2013年に戻った時には営業利益が0だったんです。このままだと利益が出せない。『新しいことを始めないと』という緊張感がありました」

下請け中心の事業形態から自社ブランドの立ち上げへ

木村さん「私が会社に戻るまでは、主に企画会社が企画する商品を裏方として作ることがほとんどでした。このやり方はオーダー通りに作ると買ってもらえるので、安定はするものの、粗利が小さいんです。しかも特定の会社との取引に依存していたため、取引先からの「値引きしたい」「価格は据え置きで増量したい」などの要望に対して、断れない状態でした」

事業の状態から、会社が危ないと感じた木村さん。意を決して自社ブランドの立ち上げに向けて動き出します。

木村さん「このままではいけないと覚悟を決めて、自社ブランドを立ち上げようとしたのが2015年。私が戻って2年くらい経った頃です。自社ブランドの中では、社員が作りたいものがあれば会社が全面的にバックアップしています。競合他社の動向や市場分析で売れそうなものを作るのではなく、何でもいいから『自分が欲しいもの、使い続けたいもの、自分の親しい人にプレゼントしたいと思えるもの』を作りなさいと伝えています。

自社ブランドは全売上の20%にまで伸ばすことができました。今後はその割合を50%に持っていくことで、名実ともに自分たちでモノ作りをするメーカーを目指していきたいですね」

社員が自分で考えて行動する「自律型組織」を目指したい

木村さんは自社ブランドの立ち上げに加え、変化が早い市場に対応するために、社員1人1人が自分で決めて自分で行動する「自律型組織」を目指していると言います。

木村さん「社長やマネージャーが決めて引っ張るのではなく、現場の最前線が変化に素早く適応できる『自律型組織』になることを目指しています。自律型組織を作るのは大変です、本当に社員を信頼していないとできません。社員が信頼され、期待されて仕事に取り組んでくれれば、パフォーマンスはやらされてやる仕事より高いんです。

現在40名の木村石鹸では、前の会社の経験を活かした自律型組織ができています。社員の幸せやパフォーマンスを踏まえて、社員数がこれから100人、200人と増えた時にもそれを維持できるか挑戦したいと思っています」

木村石鹸は商品も社員も「くらし、気持ち、ピカピカ」を目指す

 

会社としての利益よりも、社員の関係や家庭状態を重要視する木村さん、その背景には木村さんの描く理想の会社の形がありました。

木村さん「売り上げをどんどん上げるということより、仲間(社員)が幸せかどうかが大事なんです。自分たちが気持ちもピカピカで納得して仕事ができることが製品に現れると思っています。私はいつも『文化祭前のような会社』でい続けようといつも言っています。

目指している目的が一緒で、良いものをみんなで作ろうという時、しんどいけど、仲間感があって、熱量があって、楽しい。すごく信頼を置けているメンバーでプロジェクトを進めていけるのが社員が楽しく働くためにも、会社を維持していくためにも重要だと思っています」

新工場「IGA STUDIO PROJECT」や、クラウドファンディングで目標額の17倍を超える支援が集まったシャンプー「12/JU-NI」など、現在も様々なことにチャレンジしている木村石鹸。社員さんが楽しく幸せに働く木村石鹸は、世の中をピカピカにしていく石鹸をこれからも作っていきます。

文:植田睦美

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