事業承継ストーリー

ワクワクから笑顔を創造する会社。海苔メーカーを承継した元証券マンの挑戦

兵庫県西部にある山間の町・佐用町(さようちょう)。西は岡山県美作市という兵庫県の最西端にある、自然豊かな場所です。

佐用町を流れる千種川(ちぐさがわ)の近くにある光海(こうみ)株式会社は、海苔専門の食品メーカー。味付け海苔や焼き海苔といった様々な海苔の商品を製造・販売しています。

そんな光海を2019年9月に事業承継し、代表取締役となったのが岡田正春(おかだ まさはる)さんです。岡田さんは約25年にわたり、証券会社の第一線で活躍してきました。なぜ証券会社のサラリーマンが海苔メーカーを引き継ぐことになったのか、岡田さんにお話を伺いました。

証券会社のサラリーマンから事業承継して経営者に

証券会社を辞めて光海を引き継いだ、岡田正春さん

岡田さんは野村證券に25年ほど勤務し、東京や京都など全国各地の支店で働いてきました。京都にいた2017年には、働きながら同志社大学の大学院に進学し、金融を学びました。

岡田さん「大学院を修了後、渋谷に転勤になりました。そのタイミングで父から『後継者がいない知り合いがいるけれど、なんとかいい解決方法はないか?』という相談があったんです。同級生が会長をしている会社だったのですが、それが光海でした」

そのころ、野村證券でM&Aに関する業務に携わっていたこともあり、岡田さんに相談を持ちかけてきたのだそう。しかし岡田さんが扱っていた案件は、事業規模の大きいものばかり。光海の話は、それ以上進展はありませんでした。

岡田さん「和歌山支店時代、私がサッカー経験者ということもあり、地元のサッカーチーム・アルテリーヴォ和歌山の設立に携わりました。そのときにお世話になった方が、ウェブメディアを運営する会社が主催するセミナーに参加するために東京へ来ていて、私も誘われてセミナーに行きました。これがターニングポイントになったんです」

その後も続けてセミナーに参加した岡田さん。あるセミナーで聞いた「社長に向いている人の条件はいろいろあるが、強いていうなら嘘をつかないこと」という話に心動かされます。

岡田さん「自分でもやれるかなと考えていたところ、ふと思い出したのが光海の後継者がいないという話でした。会長に尋ねてみると、まだ後継者は決まっていなかった。それで事業承継に興味をもち、光海の承継の話をしてみようと思ったんです。

野村證券には、勤続25年表彰というのがあります。もともと長く勤めても25年表彰の前までだなと、なんとなく考えていました。転勤族で、たまたま25年目のときに所属している支店で25年表彰を受けても、うれしくないなと思っていたんです。セミナーで三戸さんの話を聞いたとき、25年目が近くなっていたのも決断のきっかけです」

自然の多い佐用町は最高のシチュエーション

その後、岡田さんは会社が休みの週末を利用して佐用町に訪れ、少しずつ承継の準備を進めていきます。合計で12回、佐用町まで足を運んだそう。

岡田さん「東京に比べ、佐用町は全然違いましたね。私は大阪府枚方市の出身ですが、佐用町のことはほとんど知りませんでした。まわりは、山や田んぼに川。自然が豊かな土地で、魅力的でしたね。東京は家を出てすぐ、人と建物ばかり。佐用町は最高のシチュエーションだと思いました。

三戸さんにも話をして、『半年後に事業承継します』と宣言しました。このときが2019年の3月でしたので、9月に事業承継を完了することを目標に作業を進めていったんです。それでなんとか9月に代表取締役に就任できました」

事業承継M&Aという形で、事業の承継をした岡田さん。代表就任後、前会長と2年間いっしょに働きました。

光海の海苔に魅了され承継を決意

岡田さんが魅了された光海が扱うのは、バリエーション豊かな海苔製品

岡田さんは「ワクワクすること」と「会社がマーケットにさらされていないこと」の2点を求めていました。そして光海には、この2点のどちらもあったそうです。

岡田さん「2回目に光海の前会長を訪れたとき、光海が使っている海苔についての話を聞きました。全国で0.2%しか流通していない極めて希少な海苔を使っていて、光海とその商品がとても魅力的に感じました。

光海で使う海苔は、鹿児島県の出水湾で養殖されたものです。海苔養殖では、雑藻類の対策のために酸処理をすることが多いのですが、出水湾では湾内の海苔養殖全体で、いっさい酸処理をしません。そのため風味豊かでおいしい海苔に育ちます。その出水湾産の海苔のみを使った光海の商品は、とてもおいしいんですよ」

地球や人に優しい企業になるため、まず従業員が笑顔になる企業に

光海はもともと、大阪で創業しました。一時は大阪で三本の指に入るほどの大きな海苔の会社だったそうです。その後、創業者の故郷である佐用町にも工場を建設。そして1993年9月、前会長によって光海 株式会社が設立されました。創業から数えれば岡田さんで四代目、光海設立からは二代目になります。

光海の海苔のなかで一番人気なのが「旨しお海苔」。海苔にゴマ油と塩のみで味付けがされた、無添加の商品です。シンプルだからこそ、海苔の風味が引き立ちます。

旨しお海苔は。有機・無添加食材を扱うECサイトにも出品しており、そのサイト全体で一番売れている商品。メーカー・オブ・ザ・イヤーも獲得するほどの人気だそうです。

光海の人気商品「旨しお海苔」

光海を承継し、岡田さんは残していきたいことと変えていきたいこと、自分らしさを出していきたいことのそれぞれにこだわりがありました。

岡田さん「残していきたいのは、先代が大切にしてきた社訓 ”感謝と反省と喜び”です。もうひとつは、”海苔を極める”ということ。やっぱり先代が大切にしてきたことは、世代が変わっても大事なことだなと感じています。

変えていきたいことや、自分らしさを出していきたいことは”地球に優しく、人にやさしく”ということです。『優』という漢字は『優れている』という意味もあります。ですから、優しくあることは優れることに通じる、大切なことです」

承継後の目標に向けて、まずは「従業員に優しく」することから始めたという岡田さん。

岡田さん「まず、それまで会社には男女共用しかなかったトイレを、男女別の洋式トイレに変えました。また、海苔の加工作業も立ち仕事から座り仕事に改め、従業員の負担を減少させています。PCを使った有休申請やLINEワークス、1on1のミーティングや360度評価なども取り入れています。

”地球に優しく、人に優しく”するには、まず従業員が笑顔でないとダメなんです。ですから経営者は、従業員に優しくしないといけません。そしてそれが、地域の雇用につながっていきます」

光海は劇団。従業員に会社を舞台として活用して欲しい

岡田さんの挑戦は海苔だけにとどまりません。会社前でパン屋を運営したり、子どもたちにプログラミングを教える機会を提供したり、堀江貴文さんの講演を開いたりと、会社としてさまざまな挑戦をされています。

山間の佐用町でも、光海では入社希望の若者が多くやってきています。取材日の1週間前には、6人もの入社面接をしたそうです。

岡田さん「おもしろいことをやっている会社、楽しくて魅力的な会社があれば、場所を問わず入社を希望する方はやってきます。

うちの会社は劇団なんです。やる演目によって主役が変わったり役柄が変わったりするように、やることによって主役やほかの役が変わるんですよ。従業員には会社を”舞台”と考えてもらって、大いに活用して欲しいと思っています」

地域の活性化や雇用創出にも貢献している光海ですが、岡田さんからは意外な言葉も。

岡田さん「実は、地方創生とか地方活性化とかは意識していません。おもしろいことが重要です。”おもしろければいいじゃないか” ということしか考えてないですよ」

“地球に優しく 人に優しく すぐれた海苔づくりで 世界中がワクワクする 美味しいという一言で笑顔が溢れる そういう瞬間を世界に創造し続ける”という経営理念に掲げる光海。

「光海は海苔専門の会社じゃない。笑顔を創造する会社、つまりエンターテインメント・カンパニーだ」と語る岡田さんには、これからもやってみたいことがたくさんあるそう。ワクワクすることに全力で取り組む岡田さんと光海の今後に注目です。

文・淺野陽介

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