青森県弘前市の市街地から少し離れた場所にある久渡寺(くどじ)。津軽三十三観音霊場の一番札所で、東北地方で古くから信仰されている「オシラサマ」の聖地としても有名です。
歴史ある寺院の入り口にお店を構えるのは「久渡寺のラーメン屋さん」。長年、お寺に訪れる人や地元の人に親しまれてきましたが、度重なる担い手不足で経営を続けることが困難な状況になっていました。
そんな中、救いの手を差し伸べたのは共に20代の鎌田翔至さんと石山大河さんです。
今回は弘前大学を卒業後、22歳の若さで「久渡寺のラーメン屋さん」を引き継いだ鎌田さんに話を伺いました。
担い手不足のラーメン屋、地元の人に惜しまれて復活
鎌田さんたちの元に承継の話が持ちかけられたのは、石山さんが所属していた「株式会社ホーデック」がきっかけでした。
鎌田さん「久渡寺のラーメン屋さんは、以前は個人で経営をしていたのですが、担い手不足になってしまい、3年前から農業組合法人が切り盛りをしている状態でした。しかし、昨年またも担い手が不足。そんなとき、『せっかくなら若い人にやって欲しい』という声が上がり、農業組合法人と繋がりがあった石山と、石山が所属するホーデックから紹介を受けた僕に声がかかりました」
2022年3月に大学を卒業したばかりの鎌田さん。実は内定先から1年間の猶予をもらい、久渡寺のラーメン屋さんを切り盛りしています。
鎌田さん「出身が北海道ということもあり、昔から地方の活性化に興味がありました。大学では地域社会について学んだり、イベントなどにも積極的に参加しましたね。そんな中で承継の話があり、『ラーメン屋さんを軸として、この地域を盛り上げていけるのではないか』と思い、内定先と交渉をして1年の猶予をもらい、承継することを決意しました」
先代のレシピを受け継ぎ、アレンジした「鶏ガラ煮干し中華」
ラーメン屋を承継した鎌田さんですが、実はラーメン作りは未経験。当時、不安は大きかったものの、先代から「初めは大変かもしれないけれど、少しずつ工夫していくのは楽しいものだよ」と声をかけられたことで、不安が和らいだと振り返ります。
鎌田さん「現在は、先代の醤油ラーメンのレシピをベースとして、醤油やチャーシューに独自のアレンジを加えています。先代から受け継いだレシピを大切にしながらも、ラーメン作りの経験がないからこそ、新たなチャレンジを続けることを心がけています」
看板メニューは「鶏ガラ煮干し中華」。煮干しの風味を抑えて鶏ガラを加えることで、甘みが感じられる優しい味に仕上げているそうです。
鎌田さん「この地区は農業が盛んなので、作業の休憩時間に寄ってくれる農家さんたちが多いんですよ。午後からも元気が出るように、熱々の美味しいラーメンを提供できるよう、日々努力しています」
地域資源を活かし、お世話になった人達に恩返しを
日々、試行錯誤しながら地域のためにお店を経営する鎌田さん。お店に立てる期間は、内定先から猶予をもらった1年だけですが、今後も地域資源を活かしながら弘前を盛り上げていくことを計画しています。
鎌田さん「本当にたくさんのことを計画していますよ。例えば、農家さんが農閑期に入る冬。この地域はたくさん雪が降る場所なので、雪まつりを開催して盛り上げていけたらいいなと思っています。他にも、ラーメン屋さんの近くにある小さなりんご畑を活用し、キャンプ場の開設を進めています」
ラーメン屋から、観光、キャンプ場まで幅広く挑戦を続けている鎌田さん。最後に今後の抱負を伺いました。
鎌田さん「さまざまなことにチャレンジしていますが、もちろん軸はラーメン屋さんです。物理的に人が集まれる場はとても貴重で、心地よい場所だからこそ、それ以外の活動にも繋がっていくと思います。
承継時、ラーメン屋さんではなく、おしゃれなカフェとして改装することも出来たかもしれません。しかし、そこは農家さんが作業着や長靴で、気軽に入れる場所ではなくなってしまう。
あくまで地元の人に寄り添って、生活の一部で在れるように。そしてお世話になったこの地域に少しでも恩返しが出来るように、これからも頑張っていきたいと思います」
地域資源を活かしながら、地域を盛り上げる挑戦を続ける鎌田さん。久渡寺の麓がさらに活気付く日は、そう遠くないのかもしれません。
文・たお