事業承継ストーリー

神戸市灘区で愛され続けてきた「マジックパン」の後継に。事業継承で気づいた資産の重要性

神戸市灘区にある魔法のサンドイッチ「マジックパン」。1999年に創業した後、ボリューミーかつリーズナブルなサンドイッチが地域の方に愛され続けています。

そんなマジックパンを引き継いだのは、もともと商社勤めだった山根智治さん。今回はマジックパンの後継者になった山根さんに、話を伺いました。

地元山口県で起業するために、地域おこし協力隊からスタート

山根智治さんは、兵庫県・神戸市が本社の水産商社に13年間、勤務していました。水産物の販売を中心に、途中シンガポールへ駐在した際には、日本食を東南アジアで販売する新規事業の立ち上げなども経験。

この経験を経て、「自分で事業を起こしたい」と考えるようになった山根さんは、帰国後にファイナンシャルプランナー検定の資格を取得するなど、起業のために必要なスキル習得から始めました。

山根さん「出身が山口県ということもあり、もともとは山口で起業しようと考えていました。しかし、山口での勤務経験はなかったため知り合いもおらず、まずは働いてみることからスタートしたんです。そこでたまたま見つけたのが『地域おこし協力隊』という働き方。

3年という期限があり、かつ副業もできるので、起業する準備期間にぴったりだと。赴任先の萩市は日本海に面しているので、これまでの知見を生かして水産加工品の加工を始めることにしました」

山根さんは地域おこし協力隊就任後の冬、早速水産加工品を地元仲買から購入し、地元ちりめん業者での加工を行い、市内6次産業化(地域内で付加価値をつけて販売)を行い、海外へ販売しました。初年度は赤字を計上したものの、ノウハウを学び徐々に売り上げは伸びていきました。

しかし、地域おこし協力隊の期限は3年。事業の特性から年に1回、計3回しかチャンスがないことや、季節が限定される商品であることから、水産加工品だけで食べていくのは難しいという結論に至りました。

起業して初めて気付いた、資産の重要性

山根さん「ゼロから事業を起こして改めて感じたのは、ノウハウやステークホルダーなど、資産の重要性です。地域おこし協力隊での活動を通し、後継者不足に悩む経営者が多くいることを知り『事業承継』に興味を持ち始めたのもこの頃でした」

事業承継について学ぶ中で、「まずは自分がやってみよう」と思った山根さん。関西で第三者が運営する、野球教室の後継者になります。しかし、新型コロナウイルスの影響でイベントや教室は延期や中止を余儀なくされ、教室運営は不安定に。

水産加工品の卸事業も並行させていましたが、売上の変動が大きかったため、安定的に利益が出せる「核」のような事業を探し求めていました。そんな中、神戸市産業振興財団が行う「100年経営支援事業」から紹介を受けたのが「マジックパン」だったのです。

山根さん「先代が引退を考えられ、後継者を探しているとのことでした。地元の人に長らく愛されていることを知り、なくなってしまうのはもったいないと感じました。オーナーの小笠原さんは人柄も魅力的で、雇用を守り続けたいと強く願っておられ、『自分が責任を持ってこの事業を引き継ごう』と思ったんです」

マジックパンは、新型コロナウイルスの影響で卸売事業は少し影響を受けましたが、店舗事業はテイクアウトが主で卸事業を補うように増加。事業承継直後は、お客さんに提供する商品を作ることで一杯いっぱいでした。しかし、山根さんは現状維持だけではなく、新たな販路拡大を目指しています。

会社、病院、大学などさらなる販路拡大

山根さん「マジックパンは創業25年。お客さんの多くは長年通ってくれている人たちです。もちろん今来てくださるお客さんは大切ですが、もう少し客層を増やせるのではないかと思いました。

山根さん「新型コロナウイルスの影響で従業員のみなさんにはかなり苦労をかけました。就任したばかりのを支えてくれて、パートさんには感謝しかないですね。」

もともとマジックパンでは、大学や病院への卸売りもしていました。しかし、年々その比率を減らし店舗販売が主に。そんなときだったので新型コロナウイルスの影響はほとんどなく、むしろ売上が増えるという状況になりました。今後は、卸売の再開で、更なる売上増を目指しています。

山根さん「マジックパンはもともと複数の店舗があり、店舗展開も検討していました。しかし、家賃や従業員の給与などを考えると、同じ店舗で販路を拡大した方が効率的だと考えたんです。マジックパンのある灘区周辺では病院や学校などが数多く、前のオーナーからの繋がりもしっかり残っています。この資産を活用していきたいと考えています。

また、今後は店舗の余っている敷地も、有効活用したいと考えています。13時までは店舗営業が忙しいので、それ以降に売れる何かを探しています。このご時世なのでデリバリーもよいかなと思っています。」

創業者に対し「この人であれば」と感じられるかが重要

事業承継のメリットは、すでにある資産を活用してさらなる成長を目指せること、と話す山根さん。

山根さん「実際に自分で水産加工品の事業を起こしたからこそ、資産の重要性を痛感しました。新規事業であれば、お客さんが定着するまでに最低でも1年はかかります。マジックパンはすでに25年の歴史と実績があり、しっかり土壌が整っているので新たなチャレンジもしやすい点が大きなメリットです。

でも、事業承継において一番大切なのは経営者の人柄だと私は思います。これまで事業承継のためにいろんな経営者から話を伺いました。その中でも小笠原さんは本当にお店と従業員思いであることはもちろん、後継者の成功も心から願ってくれています。事業承継後もこまめに相談に乗ってくださりますし、私の新たな挑戦も応援してくれます。事業承継はリスクも多いですが、『この人であれば信頼できる』と思えるかどうかは重要ですね」

長年愛されるマジックパンをさらに成長させようと奮闘される山根さんは、お客さんはもちろん、従業員やその家族への思いが溢れる方でした。そんな山根さんのこれからの活躍、そしてマジックパンの成長に期待です。

文:佐原 有紀

 

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