事業承継ストーリー

次世代型木材店が描く林業の未来。「世界一カッコいい木材店」を目指す4代目の次なるビジョンとは

岩手県花巻市で、日本の林業、木材店の新しい形を体現する「株式会社小友(おとも)木材店」。1905年に木材店として始まり、山主からそのまま木を買い受けて加工販売するほか、現在では木製おもちゃに特化した美術館の運営や、モノづくりの体験価値の提供に力を入れています。

2014年に4代目として就任した小友康広さんは、長年培ったIT業界のノウハウを木材業界に持ち込み新しいアイデアを次々と実現させ、業界に新風を吹かせています。イキイキと「世界一カッコいい木材店」を目指す小友さんにお話を伺いました。

「好きにしていい」自分の意思を尊重してくれた、父の優しさ

大学生の頃から家業を継ぐことを意識していた小友さん。しかし、お父様は自身の経験から、息子に家業を継いでもらうことに意欲的ではなかったといいます。いきなり帰って家業を継いでも発展性が乏しいと考えた小友さんは、営業力や経営力などのスキルを身に付けてから家業を継ごうと、ITベンチャーに就職しました。

小友さん「父は4人兄弟の末っ子長男で、実家を継ぐために東京から嫌々引き戻されたという過去がありました。だから、息子の私には同じ思いをして欲しくないということで、昔から『お前の好きにしていい』と言われていました。

また、父は木材屋の未来に不安を感じており、木材事業を拡大することはしませんでした。祖父の時代は戦後の復興から経済が上向いていた頃で、鉄道の線路に使用する枕木の製材で事業を拡大しましたが、父はその資産のほとんどを不動産事業へ投資し、今でも会社全体の利益の7割ほどは不動産事業が占めているほどなんです」

周囲に心配されながら進めていった、事業承継。

そんな中、お父様の病気がきっかけで29歳の時に家業を継ぐことを決めた小友さん。継いだ当初の苦労はほとんどなかったそうです。

小友さん「いつ潰してもいいように、私の幼少期には50人ほどいた従業員も、私が継ぐ頃には5人になっていました。父は木材事業ではなく不動産事業に振り切っていましたので、継ぐ事を従業員に伝えた時も、先行きの明るくない木材店に戻ることは心配されましたね。だけど半分使命感のようなものがあって、木材店として引き継ぐことに決めました。

私が代表になったとき父は既に亡くなっていたので、木材屋の仕事に関しては従業員の方々から学ぶしかありませんでした。事業承継については昔から意識していたこともあって、まず始めの1年は『一切何も変えない、従業員から学ぶ1年』ということを決めていました。当時会社で最も価値を生んでいないのが私だったので、役員報酬を誰よりも低くしたことを除けば、苦労はほとんどなかったですね」

一方で、既に辞めていった人たちに対しては今でも心残りがあるといいます。

小友さん「私が家業を継いだ時、従業員の平均年齢は60歳を超えていたので、次の世代にバトンタッチしていく必要があったのですが、その段階で少し揉めました。例えば、手書きだった経理の書類は、新しい従業員にはPCで入力してもらうように指示しました。業務が新しいやり方にシフトしていけばいくほど、以前から働かれていた人たちの仕事はなくなっていきます。

きちんとご勇退頂く道をつくってはいましたが、途中で辞表を叩きつけて去ってしまった人もいます。会社として致命的な失敗ではありませんでしたが、長い間会社に貢献されてきた方々のやり方と未来の活動を円満かつ円滑に繋げなかったことは苦い経験です」

全員にとっての最適解。なるべくしてなった二拠点生活

家業を継ぐため、当時勤めていたIT企業に辞めることを伝えると、「月の3分の1だけでも続けてみないか」と提案された小友さん。東京と岩手の二拠点生活を始めて5年以上が経ちますが、結果的に家業の木材屋と東京のIT企業、そして自分の三者にとって一番良い決断だったと振り返ります。

小友さん「中途半端なことをすると周囲に迷惑を掛けてしまう怖さと、絶対に大変だということは分かっていたのですが、こんな機会は二度とないとも感じました。

はじめのうちは、仕事や生活の切り替えが上手くいかなかったものの、徐々に3時間ほどの新幹線での移動時間を有効に使えるようになり、二拠点生活ゆえの苦労は慣れることで解消できました。今は全員がハッピーな状態だと思っています」

木材事業への投資が、可能性と未来をひろげる

小友材木店が運営する「花巻おもちゃ美術館」。岩手県産材をふんだんに使った体験型木育施設です

継いでからの1年は学ぶことに徹していた小友さん。2年目からは、木材をより複雑かつ精密に加工できるCNCルーター「ShopBot」の導入、車に乗せて移動できる部屋「モバイルハウス」の製作、花巻おもちゃ美術館の設立運営など、木材事業をよりアクティブにしていくための施策を次々と実行しています。

小友さんは、会社であげた利益の3分の1は木材事業へ投資することにしていると言います。決断の瞬発力や周囲を巻き込む力が、時には予想もしないプロジェクトへと発展していきます。

そして、今開発に取り組んでいるのが、マイクロ林業用小型運搬機『山猫』です。

家業を継いで気付いた、林業の3つの課題

小友さん「家業を継いでから最初の1年で、林業には3つの課題があることが分かりました。1つ目は危険が伴なう仕事であること、2つ目は山から木を移動させるコストが高いこと、もう1つが林業、木材業のブランディングが成されていないことです。逆に言えば、これらを解決することで林業、木材業には大きな可能性があると感じました」

そこで小友さんは、日経BP主催の新規事業と異業種連携の創出を促すコミュニティー「リアル開発会議」で「100kg可搬ドローン」というプロジェクトに参加。今開発中のマイクロ林業用小型運搬機「山猫」の原型が生まれました。

小友さん「参加者のほとんどがエンジニアで、僕は経営者として事業に応用することが目的だったので、奥山の課題を説明すると興味を持ってくれました。初めは山で切った木をドローンで運ぶことを想定していましたが、航空法上の問題で飛行することは非効率だと分かり、ドローンで木材を地に着けたまま引きずるというアイデアを経て、最終的に今の形に落ち着きました」

同郷の花巻市にある除雪機メーカーに話を持ちかけて試作機を開発し、今は量産機を開発している段階だと言います。周囲をうまく巻き込みながらも事業の新たな可能性を見逃さず、必要な投資は躊躇わない。その背景には、「世界一カッコいい木材店」としての次なるビジョンがあります。

「体験」に価値を見出すサービスで、次世代の木材店を目指す

小友さん「2021年からの5年間は『次世代型木材店』の実現という目標を掲げて、『6次産業化×体験販売』に力を入れようと思っています。モノを売る場合、丸太であれ製材した板であれ、どうしても価格競争になってしまいます。しかし、花巻おもちゃ美術館が良い例で、モノではなくて体験を売ることで、同じ木が繰り返し価値を生み、差別化やブランディングができます。

椅子を作るワークショップでは参加費としてお金を頂いて、作ったものは持って帰っても置いていっても良いですよ、という形で開催したんですが、半分くらいの人は置いていったんですよ。つまり、『椅子というモノ』が欲しい訳ではなくて『椅子を作る体験』がしたい人がそれだけいたということなのです。更に言えば『置いていったものは〇〇で使われます』ということも伝えているので、置いていく人は『そこで役に立つなら嬉しい!』、使う施設は『ワークショップで作ってくれた人たちありがとう!』となって双方にメリットがあります」

小友さん「ShopBotを使って加工販売する際も、『半』完成品をつくることで、モノではなく体験を求めてくるお客様を巻き込んで一緒にモノをつくることを重視しています。開発中の『山猫』も、それ自体というより、山から木を下ろすであったり、山の中で機械を使うという体験に価値が生まれると思っています。

会社を大きくしたいとは思っていないんです。自分たちの課題を知った上で、これからも率先して新しい取り組みを続けたいと思います。いずれは同じ理念や課題を抱えた人たちに対して私たちが持っているノウハウを提供することで、業界全体の発展に繋げたいですね」

林業と木材店の課題をしっかりと受け止め、現状に囚われない非連続的なアイデアを実現させてきた小友さん。ITやデジタルという得意分野を活かしながら、今の社会に求められるニーズを的確に汲み取っていく姿勢は、未来の木材屋そのものです。

株式会社小友木材店
花巻おもちゃ美術館

文:清水淳史

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