事業承継ストーリー

唯一無二であることでお菓子業界を救う!?  キャンディで人気のパパブブレが挑戦する、新しい事業のカタチ

「漫画『サザエさん』でおなじみの磯野家が暮らす街」として有名な、東京都世田谷区桜新町。この街には、本場ドイツも称賛した“本物のバウムクーヘン”で名高い「洋菓子ヴィヨン(以下、ヴィヨン)」があります。

花器や壺、リンゴ、洋梨……。一見、アート作品のようなバウムクーヘンで知られるヴィヨンは、1965年の創業以来、変わらない味を守り続けており、地元だけではなく、全国にもファンがたくさんいます。

そんなヴィヨンを引き継いだのは、アート・キャンディ・ショップの「PAPABUBBLE(パパブブレ)」。新たな経営体制のもと、「世界一おもしろいお菓子屋さん」であり続けている同社の代表取締役社長である横井智さんは、「未来に遺したいお菓子屋さんと資本を提携し、積極的に事業継承を行っていきたい」と、今後の展望を語ってくれました。

多彩なキャリアだからこそ注目していた菓子業界

パパブブレ代表取締役社長 横井智さん

大手メーカーやコンサルティングファーム、医療ポータルベンチャーなど、多彩なキャリアを持つ横井さん。そんな横井さんが「パパブブレ」の代表取締役社長に就任したのは、3年前の2018年でした。

横井さん「医療ポータルベンチャーのほかに別会社の新規事業の立ち上げも担っていたのですが、ある日、お世話になっていた方から『あるファンド企業が買収予定の会社の経営者を探している』と声がけがあって面談を受けたんです。その際、BtoCのビジネスで興味を感じているものはあるかと問いがあり、『パパブブレ』の名前を挙げました」

パパブブレの1号店(東京都中野区)の近所に住んでいるという横井さんは、2005年のオープン当時から「面白い店ができた」と注目していたそうです。

横井さん「ただキャンディを販売するだけではなく、職人が目の前で鮮やかなキャンディを作り上げていく演出に感心しました。おいしくてかわいいキャンディやグミが好きでパパブブレの名前を挙げたのですが、ちょうど面接を受けたファンド企業が、パパブブレを買収するタイミングだったんです!」

偶然なのか運命なのか。すぐにパパブブレのオーナーと会うなり意気投合し、横井さんが経営を引き継ぐことになりました。

100年先も続く店を目指して

色とりどりのキャンディの他に、グミやチョコレートなど、ユニークな商品が並ぶ

街のお菓子屋さんとしてスペインで誕生したパパブブレ。日本の創業オーナーは個人事業として中野で1号店をオープンし、店舗数が増えて事業の規模が大きくなるにつれ、「経営に関してはどこかに任せたい」という思いが生まれたところで、横井さんと出会いました。

もともとお菓子が大好きで、パパブブレのファンでもあったという横井さんは、100年先も店が続いていく仕組みを築いていかなければならないと思ったそうです。

横井さん「私が引き継いだ当時、首都圏を中心に約10店舗ほどを構えていました。パパブブレは個性的なキャンディを手作りで打ち出しているので、全国で50店舗もあるような大型企業にするのではなく、全国で20店舗ほどの適正規模にしていこうと考えました」

店内の作業場で、職人たちがキャンディを作る

横井さん「また、キャンディを製造する職人を育成していくことにも注力しました。ブランドの向上を目指して店舗を増やしていくには、その店舗数に見合う職人がいなければいけない。そこで、技術をしっかり学んでいける環境を作るようにしたのです」

横井さんは、「お菓子はなくても生きていける。しかし、アートや音楽、ファッションなどは心を豊かにしてくれる。お菓子もこれらと同じで、見ているとワクワクするし食べると幸せな気持ちになる。心の栄養になる。純粋に自分はすごくお菓子が好きで、作り手にとっても受け手にとっても、“幸せ”が相乗効果していくものだと思っています」と、お菓子の在り方について話してくれました。

ヴィヨンからスタートした、お菓子の事業継承

 

 

ヴィヨンの人気商品「ヴィヨネット・フランボワーズ」。花器の形に焼き上げたバウムクーヘンの中に木苺のゼリーが入っている

横井さんがお菓子業界で危惧していることは、街のお菓子屋さんは個人事業主が多く、いい商品や技術を持っていても引き継ぐ人や環境が整っていないことが多いということでした。そこで、世の中にあるいいお菓子や技術の継続を視野に入れ、パパブブレとは異なる新ブランドの買収を進めていくことに。そんな時に、ヴィヨンの情報が入ってきたそうです。

横井さん「東京だけでなく、全国的にバウムクーヘンが評価されているヴィヨンのことは以前から知っていました。ヴィヨンに後継者がいないと聞き、すぐに創業者の大年さんとお話しをする機会を紹介者に設けていただきました」

ヴィヨンは日本だけでなく、ドイツ農業協会が主催するコンテストで、出品商品の全てが金賞を獲得するほどの洋菓子店。しかし、オーナーの大年さんが80代になり、家族や周囲の人も引退を勧めるなか後継者がおらず、問題を抱えていました。

横井さん「約50年で築き上げた技術が絶たれてしまうのは非常にもったいない。未来の子どもたちにもおいしいお菓子を食べてもらいたいという思いを、大年さんに伝えました。そして、一緒に継承者を育てることを提案したところ、共感していただけたのです」

職人が集中できる環境を整え、経営を支える

ヴィヨン外観

自分の役割は、会社を伸ばしていくこと。そして、いいお菓子の技術を伸ばす環境を整えて、成長を望むお店があれば、会社として一緒に大きくしていくことだと言う横井さん。

横井さん「対象になるお菓子屋さんは職人気質の方が多いので、人事や税金など、経営や管理が苦手な方が多い。会社が代わりにそれらの部分を担うことで、職人は楽しみながら技術を磨き、お菓子を作ってほしい。職人はある意味タレントやアーティストで、私たちは事務所のプロデューサー。職人たちがのびのび仕事できるような環境や仕組みを用意できればと思っています」

ヴィヨン内観

ヴィヨンの経営を引き継いだ始めの一年は、若手の職人に技術を承継することに集中しました。

横井さん「ヴィヨンは店主が一人で全てをやっていました。一人でやれることは限界があるので、若手たちには役割分担を意識してもらいました。次の一年でチャレンジしたのは、どうやって技術や商品を広めていくか。催事に出店するだけでなく、オンラインの販売もスタートしました」

そうは言っても、50年間オーナーが一人で守り続けた技術を、一年で引き継ぐことは簡単ではなかったそうです。

横井さん「常連さんから味が変わったという指摘を受けることもありました。現場の職人たちも試行錯誤はしているけれど、やはり前オーナーの存在は大きいと実感しています。しかし、変えていくこと、新しいことにチャレンジすることが大事だと前オーナー自身も言っています。モデルチェンジや工夫、新しいことをしないと、既存のお客さまが飽きて離れていってしまいます」

若手たちには、お菓子とは違うことにも敏感になり、さまざまなことを勉強し、吸収してほしいと横井さんは言います。

横井さん「チャレンジの質を上げるには、思いつきレベルのアイデアでは既存のお客様は離れてしまうと思っています。前オーナーが壺のバウムクーヘンに至るまでには、美術展や百貨店に出向き、世の中がどういうことをしているのかを常に観察し、お菓子と違うことも勉強していたと思うのです。積み重ねがあったからアイデアが生まれた。新商品をやるからには100勉強してその中から1、2生まれるものだと。もっと深い意味でチャレンジを続けてほしいですね」

唯一無二を守り続けることの重要性

種類豊富なキャンディの説明をする横井さん

横井さんは、今後もヴィヨンのような事例を増やすことで、会社の経営基盤をより強固にしていきたいと言います。そこで大事にしていることは、「ユニークなのかどうか、唯一無二なのかどうか」ということ。

横井さん「単なる収益拡大のための事業を進めることは考えていません。スケールメリットで価格勝負をするのではなく、熱烈なファンが喜んでくれるような、ここでしか買えないというようなブランドが強いと思っています。『このお店がなくなったら困る』『他にない』というものを守っていきたいですね」

おいしくて安心して食べられる、そして、他では作れないもの。人を“幸せ”にするお菓子を広めることを目指し、企業もブランドも高めていきたいと言います。

「今後は洋菓子だけでなく、和菓子やパンなどにチャレンジしたい」という横井さん。挑戦が続くことで、見て食べて笑顔がこぼれる“幸せ”の連鎖が生まれていくことでしょう。

パパブブレホームページ

文・久保田亜希

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