静岡県浜松市・浜名湖のほとりにある、手作り体験工房「ルーベラ」。ルーベラはリゾート遊園地に隣接するガラス雑貨店。雑貨だけでなく「選ぶ楽しさ、作る喜び」をコンセプトに、200種類以上のパワーストーンやとんぼ玉を使った、ハンドメイドも楽しめる人気スポットです。
ルーベラを引き継いだのは、東京でビジネススクールや広報関係の仕事に携わっていた、静岡県出身の袴田久美子さん。もともとは自分の事業を持つことに関心を持っていたと話す袴田さんが、どうしてルーベラを引き継いだのでしょうか?
東京で会社員をしながら、2019年の9月に地元でもある静岡県にUターンして承継するまでの、怒涛の道のりをお聞きしました。
「事業承継」という選択肢との出会い
東京でビジネススクールに勤務していた時、同僚や生徒さんに刺激を受けたと話す袴田さん。会社員としてこの先も働き続けるのかと自問自答した時に、「いつか自分も事業をやってみたい」と考えるようになります。
袴田さん「事業への気持ちが強くなっていき、事業を自分で持つための情報収集を始めました。そんな中事業を持つ方法として『事業承継』という選択肢に出会い、ゼロから始める事業よりも『事業承継しよう』と考えるようになったんです。
PR関係の仕事で地域の活性化に関わった経験もあり、なんとなく地域貢献に関心もありました。 事業承継は地域に貢献することでもあると思って、自分の中で『事業承継』の存在感がどんどん大きくなっていきます」
事業を自分で「始める」というやり方から、事業を「引き継ぐ」という選択肢への出会いが、袴田さんの理想へ急速に近づいていくことになりました。
地域貢献をするなら地元の静岡で。芽生えた故郷への想い
会社に勤めていた当時は、「静岡に帰るつもりはなかった」という袴田さん。東京やその他の都市も視野に入れて活動を続けていましたが、少しずつその気持ちに変化を感じ始めます。
袴田さん「事業承継を検討するにあたり、全国のさまざまな企業のオーナーさんと出会って話を聞きました。その中で事業を持つということは、地域に貢献することでもあるんだと感じます。苦労するのは前提です。それなら『地元の静岡で事業を持って、地域に貢献したい』という想いが芽生えていきました」
そして袴田さんは、第三者承継の支援機関「事業引き継ぎ支援センター」を訪れます。後継者不在の小規模事業者と事業を引き継ぎたい人をマッチングする「後継者人材バンク」に登録をしました。
ルーベラに感じた親近感と、事業承継への決意
引き継ぎを希望する、複数の企業と面談をしていた2019年の春頃。ルーベラが後継者を探していると知り、関心を持った袴田さん。当時のオーナーと実際に話をするうちに、袴田さんの心はルーベラに惹かれていきました。
袴田さん「もともとお店の存在を知っていたことや、私の地元に近いエリアで方言が同じということもあって、ルーベラに親近感を覚えました。それだけでなく、地域に貢献できる事業内容や、事業のシンプルさにも魅力を感じて、しっくりきたんです」
同年の9月に後継者が見つからなければ、お店を閉めることが決まっていたルーベラ。廃業へのカウントダウンが始まっていた夏に、袴田さんは引き継ぐ決心を固めます。
利益を出すため、規模を半分に縮小した再スタート
会社員を続けながらの事業承継への準備は、怒涛の日々だったと振り返ります。
袴田さん「東京で働きながら承継の契約を進めて、ルーベラの引き継ぎと会社の退職手続き、静岡での家探しに引っ越し、さらにはルーベラの改装に追われて…。とにかく時間がなかったです」
そんな中でも、1度お店を閉めてしまうとお客さんが離れてしまうという理由から、10月上旬にはルーベラをリニューアルオープンします。
袴田さん「引き継いだ当初は、なかなかの赤字スタートでした。そこでまず取り組むべきは、店舗の規模を半分にして現状のコストを削減することだと思いました。利益を生み出せる体制を作る必要がありましたから。
観光地のビジネスモデルとして、規模を縮小することは周囲から心配されましたけどね。それでも、現実的なことを考慮して取捨選択しました」
規模の縮小に関しては事業承継センターのスタッフが親身になってくれて、様々な交渉などにも同行してくれるなど、とても心強かったそうです。何を残し、何を手放すか。袴田さんはシミュレーションをしながら試行錯誤を繰り返し、ルーベラをよりシンプルに整理して、その上でどう付加価値をつけるかということに目を向けました。
支えてくれたのは、新旧のスタッフたち
怒涛の勢いで事業を引き継いだものの、事業を軌道に乗せることに試行錯誤していた袴田さん。
引き継ぎ後に様々な不安を抱える中で、心の支えになったのは、引き継ぎ前から残ってくれたスタッフや新しくルーベラに仲間入りしてくれたスタッフだと話します。
袴田さん「直前での事業承継となってしまい、店を続けるのか閉店するのかわからなかったスタッフは不安だったと思います。引き継ぐことが決まっても、東京の仕事もあり、事前に挨拶さえできなかったので…。
不信感もあったでしょうし、自分で本当に運営できるのかなって、それが1番不安でした。だけど残ってくれたスタッフが本当にいい人たちで、とても救われました。新しく仲間入りしてくれたスタッフも、みんなルーベラのことを好きになってくれて、それがお客さんにダイレクトに伝わっていると感じます」
袴田さんはスタッフを信頼しているからこそ、スタッフのアイディアのほとんどを採用し、現在も運営に活かしていると言います。それだけでなく、スタッフが作ったオリジナルアクセサリーを商品化し、売り上げに応じてインセンティブを本人に戻すシステムを導入するなど、モチベーションを上げて働ける環境を整えていきました。
スタッフこそが価値そのもの。楽しい空間づくりとものづくり
観光地にあるルーベラは、少なからずコロナ禍での影響を受けていると言います。それでも多くのお客さんに遊びに来てもらえて、お店の経営が支えられている理由を、袴田さんは「スタッフの魅力」とひと言で言い切りました。
袴田さん「スタッフみんな、このお店やハンドメイド自体が好きなんですよね。お休みの日にも商品を作りに来るんです。そういうのって、すごくいいなって思って。だから、お客さんにもスタッフの『好き』が伝わるんだと思います。
お子さんの独創的な作品を『勉強になる』と言って一緒に楽しんだり、デザインに悩んでいる人がいたらアドバイスをしたり、お客さんと一緒に本当に楽しい空間を作っているんです。売っている物や立地が特別優れているわけじゃなくて、ルーベラの価値は、スタッフがすべてなんです」
仕入れた物を売るだけではなく、そこに「素晴らしいスタッフ」という付加価値を見出している袴田さん。その価値を最大化するためにも、スタッフの力を引き出して、自由に楽しく働いてもらう環境作りを大切に、日々運営していると言います。
楽しいは幸せ。事業承継のモデルになりたい
今後について、今のルーベラをもっと広げていきたいと展望を語ってくれた袴田さん。
袴田さん「方向性はまだまだ未定ですが、事業を広げて、ルーベラをもっとたくさんの人に知ってもらいたい。同時に『事業承継するのっていいじゃん』って思われるようなモデルになっていたいです。そして5年後、10年後に『楽しい働き方は幸せだよ』っていうことを示せたらいいなって思います」
パワーストーンやとんぼ玉などの取り扱いは東海県下最大級。オンラインショップでは、自宅でも「作る喜び」を体験できる手作りキットや、種類豊富なアクセサリーなども購入可能です。 浜名湖での思い出づくりだけでなく、人生のさまざまな場面での思い出作りに、店舗やオンラインショップにぜひ立ち寄ってみてください。
文:船津さくら