事業承継ストーリー

事業承継して気付いた経営者に大切な3つの仕事。10年以上前からフルリモート・フルフレックスを実装した不動産の2代目社長

株式会社さくら事務所は、ホームインスペクション(中古住宅を売買する前の住宅の調査)を中心とした不動産・建築系の会社です。

10年以上前から「フルリモート&フルフレックス」を導入している先進的な会社ですが、その背景には波乱のある事業承継と社内の仕組みを調整する葛藤が存在していました。

サービスを広げていくために役割分担したい。突然回ってきた経営のバトン

もともとさくら事務所の創業者である長嶋修(おさむ)さんは、創業した会社をそのまま自分がずっと社長で続けるのではなく、どんどんバトンのように会社を渡していってもらいたい想いを持っていました。

しかし会社が少しずつ伸び始めた頃、さくら事務所の経営方針についていけず離反する社員が相次ぎます。この出来事も重なり、バトンを準備をする間もなく創業者である長嶋さんはさくら事務所で広報・マーケティングを担当していた大西倫加(のりか)さんに社長の就任を打診します。

長嶋さんと大西さんは長嶋さんがひとりで会社を立ち上げたころからの知人で、長嶋さんに強い誘いを受け、まったく不動産業界の経験がなかった大西さんはさくら事務所に参画したのでした。

大西さん「長嶋さんから大勢の仲間を巻き込んで、作ったサービスを丁寧に深化させて拡げていくフェーズは任せたいと言われました。人に伝えて発信していくってところは長嶋さんの得意分野なので、そこに専念させてほしいと。

長嶋さんから役割分担をしようと社長就任を打診されたこともあって、私が社長に就任して以降、経営には一切口を出さなくなりました。

私自身は社長就任を断り続けていたんですけど、やっと決心がついて引き受けたら、経営のことや現場のやり方については、もう8年経ちますが1回も口を出されたことはありません。『責任を持ってくれるなら自分の思う通りにやれ』と言われました」

自分の運命を信じる胆力。先代から学んだ2つのこと

大西さんは創業者である長嶋さんから会社を継いでから、相談をしても最後は自分で決めろと言われたそうです。長嶋さんと19年一緒に仕事をするなかで学んだことは2つあると言います。

大西さん「1つ目は自分の運命ごと信じる胆力です。たとえば私に任せると決めたら、私の起こす出来事もすべて自分(長嶋さん)の運命の範疇なんです。だから自分を信じるのと同じ感覚で、私がいろいろ引き起こすものを信じているから何も言わない。自分を信じる以上に他人のことは信じられないので、私自身もいかに自分を信じる力を強めるかを意識しています。

2つ目は関与しすぎないリーダーシップです。自分を運命ごと信じる胆力があるからこそできることだと思っています。リーダーシップにはいろんな型があるけど、それを先代から学んだし、後進を育てるうえで大切だと思いました」

すべて常識の逆張りにすることで見出した道

承継後は「苦労しかなかった」と大西さんは言います。毎日社長を辞めたいと思った時期も最初の数年間はあったそうです。しかも大西さん自身は不動産業の経験が豊富であったわけではありません。当時の業界の特性もあり、創業者から承継した直後も重なって「お飾りの社長」みたいな大きな逆風が社内外に吹いていました。

だからこそ王道なやり方ではない方法で大西さんは進み始めました。そこで大西さんは組織に着目し、10年前から画期的な形に会社を作り変えていきました。

大西さん「常識の逆張りを行くことにして、それが良かった。私が信用も尊敬もされていないどころか、『お前にやれるのかよ!』って社内でもマイナスのスタートだったから、私がいなくても仕事が回るように個々人が立って、私が個々人に出来ないことをサポートするやり方に変えました。

会社のみんながいろいろやりたいことを、下からお手伝いするようなリーダーシップにしようと思いました。私が優しくて面白くて優秀な人を集める。みんながパフォーマンスを最大化しやすく辞めなくていい働き方ってどういう働き方か逆算して、今の働き方を設計していきました」

通常だと社長が頂点の組織ですが、大西さんは役職の強い権限をなくして組織をフラット化。社長が社員をサポートする形を模索しました。

大西さん「育児をしている人たちを雇うために、週何日とか何時間だけの働き方も可能にしたり、家に帰って持ち帰りで仕事をしてもいいとか、コンディションに合わせて働けるようにしました。組織に従ってもらうという今までの就業規則のやり方を、人のライフスタイルやライフサイクルに合わせてその時々で契約を結び直すような、個人に合わせた会社のやり方に発想を逆転させたんです」

今までにないやり方だったため、会社内でも軋轢もあったと大西さんは言います。組織の変化に適応出来ずに去っていくメンバーもいました。しかしその発想と組織の考え方は10年前にすでに実装されていたとは思えないぐらい、今でも画期的だと思うような組織体の構築でした。

事業承継をして考えた、経営者として大切な3つの仕事

さくら事務所を継いだ当初は会社を辞めようと思うことが多かったと語る大西さんですが、会社の業績も順調に伸び、逆張りにした施策も功を奏するようになります。忙しい日々をさらに過ごすようになるなかで、経営者の仕事として考えるようになったことが3つあると言います。

大西さん「まず笑顔を作ること。これは依頼者や働く人、メディアを含めた応援してくれる人や関係者。とにかく会社のステークホルダーであるみんなの笑顔を作ることです。次に働くメンバーの機会を作ること。成長や進化、気付きや才能の開花など、そういう機会を作ること。最後はともに冒険する仲間を作ること。この3つがすごく大きな経営者の仕事と考えています。

うちの会社は声を出してご依頼者から『ありがとう』と言われるぐらい、みんなが良い仕事をしてくれているので、たくさんの笑顔と会えている。直接の依頼者じゃなくても応援してくれる人も多いんです」

さくら事務所の働き方に自由度があるため、社員やパートナーのなかに億面もなく「未来が拡がった」と語る人や、「この働き方で可能性が拡がった」「思ってもみないキャリア」とそんな声を聴くと、大西さんはものすごく幸せを感じるそうです。

次へのバトンを渡すために

今後に関して大西さんは、哲学者のレヴィ=ストロースに倣うと創業者である長嶋さんや顧客である依頼者、そして仲間はじめ周囲すべてから受けている恩恵や贈与の返礼義務を負っていると語ります。

大西さん「いま私が持っているものは、私が持っているものではなくて、必ず誰かに手渡すべきバトンだと思っています。だから後進を育てるために、もっと返礼の贈与をやっていきたい。この先は年単位で既存の仕事や産業がなくなっていき、常識が変わっていくと思います。

自分がやりたい仕事は自分自身で好きなことを仕事にするみたいな感じになると思う。欲しい未来は自分で作り、自分が好きなことを形にしていくような自分で出来る力を持った人たちをたくさん育てたい。その人たちにそれが出来る場や機会を手渡していきたいです」

さらに働き方についても、大西さんはいまさくら事務所に集まっている仲間同様に、もっと多様な個性や才能が世界中あちこちから集結するようなフレックス・ファームを作っていきたいと言います。やわらかいつながりが固い絆で結ばれるネットワークチームを考えています。

大西さん「100か0で仕事を続けられるかやめるかではなく、そのときどきの個人の状況に応じてつながりを細くしたり太くしたり、かえたりする。そのプロジェクトは面白そうだからやる、とか、ちょっと会社が大変そうだからもっと仕事を手伝うとか。そういう会社でありたいです」

いまの時代に一番合った働き方が出来る会社が、もう10年前から完全フレックスでリモートワークも推奨していた事実は驚嘆しますが、本当に試行錯誤しながら今の形に行き着いた苦労があることを垣間見ることが出来ました。

文:望月大作

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