佐賀県佐賀市、長崎自動車道の佐賀大和を降りてすぐの場所でイベント会社を構える株式会社サニム。1990年に創業して以来、東映やアニメのキャラクターショー制作を中心として、ショッピングセンターや住宅展示場でのイベントを企画・実施してきました。地域のお祭りでは、子供向け遊具の提案・販売も手掛けています。
創業者はかつて、芸人の付き人だったそう。その劇団が九州興行する際の窓口が彼だったことがきっかけでつくった「サニム企画」が会社の前身。サニムは、”芸”の字を分解してできた名前です。
その後、弟がヒーロー俳優出身だったことからヒーローショーの依頼も受けるようになり、1990年にはイベント会社として「サニムユニオン株式会社」を設立しました。2016年に社名を株式会社サニムへと変更し、現在は従業員4人のとてもアットホームな会社です。
先代は1250年続く由緒ある金毘羅神社の神主でもあり、温かい人柄と気前の良さから誰からも愛され、地元でもカリスマ的な存在だったそう。普段は宮司の仕事がメインだったため、会社に顔を出すことはほとんどなく、気付かないところで徐々に負債が積み重なっていきました。その危機的状況に入社してきたのが今の社長、小松一俊さん。崖っぷちだった会社を小松さんがなぜ事業継承をすることになったのか、詳しい話をお聞きしました。
辞めるか社長になって経営改善するか。ワクワクを選び取って事業を承継
小松さん「大学卒業後は、不動産業界を知りたいと思って6回転職をしました。あらゆる側面から業界のノウハウを取得し、順調なキャリアを進んでいたと思います。サニムに入社する前の会社は、今と同業のイベント会社でしたが、上司との考えの不一致で退職を決意しました。
当時、同じイベントで度々仕事を共にしていた会社の九州支店長から、退職後の勤め先としてサニムを紹介されて、2011年4月、軽い気持ちでアルバイトとして入社したんです。1年後の2012年4月からは正社員として、2015年7月からは、以前の会社で経理周りを担当していた経験を買われて、銀行との窓口を任される形で取締役へ就任しました」
小松さん「既に経営が傾いていたサニムを立て直すために、度々銀行を訪れており、その時代表権の譲渡を提案されました。以前の会社では、倒産の危機から逃れる為に退職したこともありましたが、厳しい状 況から好転するサニムの未来を思い描くとワクワクして、経営を立て直すことも面白そうだと思えました。2018年9月先代を代表取締役会長とし、経営面は全て任せてもらえることを条件に代表取締役社長に就任、事業承継しました。
その後は先代が連帯保証人を請け負っていましたが、 体調を崩した事から、今後の対応についてご家族を含めご子息と話をし、相続上の手続をすませたのち、会社の経営は私に任せてもらいつつ、連帯保証人になる理由と責任はないと銀行が判断したことから、連帯保証人は空欄のままとすることになりました」
当時を振り返りながら「事業承継するにあたって会社の負債はネックですが、その責任を負う必要がないことで、そこまで心配することなく事業継承ができた」という小松さん。当時の負債は売り上げ2億5千万円に対して、負債も同額の2億5千万あったそう。
小松さん「先代は男気のある人だったから、色々話を受けてくるんですけど、どれも儲からないんですよね。やってあげるみたいな感じで仕事を引き受けてきて、『最後の責任は俺がとるから』ってよく言ってましたよ」
誰もが自由に好きなことを発信する。社員の個性を尊重した環境づくり
小松さんは代表に就任後、早速ホームページをリニューアル。ポッドキャストやYouTubeも始めることで、社員の個性が分かる情報発信を積極的に行いました。内容は会社に関すること以外にも、メディアで議論されている話題から、自分達が常日頃から感じている何気ないこともカジュアルに発信。SNSを見ると、経営理念である”すきなことだけしていたい”の言葉通り、社員の皆さんが楽しいと思えることを発信しているのが分かります。
取引先を減らして業務と利益を効率化。業界の慣習を切り捨てる
会社の経営方針を見直し、九州全域に120社あった取引先を80社まで減らしたサニム。以前と売り上げは変わらないどころか、80社と徹底して向き合うことで利益率は逆に上がったといいます。しんどいところは利益率も低かったそう。
小松さん「取引先のスリム化に加えて、営業全体で情報の共有化も徹底しました。以前の顧客名簿は、社員の退職後に誰かへ引き継がれることがなく、情報だけ持ち去られることがあったんです。イベント業界ではよくあることでしたが、売り上げに影響していることは明らかだったので、まずは営業全体でしっかりと情報を共有し、引き継ぎができるように整理しました。新しくサニムに入社した人に対しても、以前担当していた顧客の情報を持ち込ませないことを徹底しました」
1年で売り上げが負債を上回る。しかしコロナによって事態は一変
小松さん「先代の頃は担当によって仕事量が平等ではありませんでしたが、情報を営業全体で共有したことで仕事をうまく配分できるようになりました。今では会社全体の雰囲気もよくなり、全体の労働時間も以前と比べると短いですね。午後から出勤するフレックスタイム制も導入して、いずれは週の就業時間を30時間以内に抑える事が目標です」
2018年の事業継承直後は2億5千万円あった負債は、今では1億6千万円に。2019年7月には売り上げ2億円に対して負債が1憶6千万円と、黒字に転換しました」
いよいよここからと思っていた矢先の2020年、新型コロナウィルスの到来。感染拡大がようやく収まりつつある今でもその影響は続いていて、売り上げはおよそ6割減、イベント数は4割減りました。住宅展示場のイベントは月に一度ほど実施できているそうですが、ショッピングセンターでのイベント再開の目処は未だ立っていません。
しかし、コロナ前からリモートワークを推進して、早い段階から業務の効率化に取り組んでいた結果、イベントの企画・制作に掛かる事務作業や発注業務、アクター派遣の営業でも、従業員の不満はほとんどなかったそうです。
イベント会社の枠を超え、自由と多様性を意識した会社を目指す
小松さん「今後、従業員たちにとって自由で何の縛りもない、自分の好きな事を選んで仕事ができる環境を作りたいと思っています。イベント会社だからと言ってイベントだけを手掛けるのではなく、ジャンルを問わず、ユニークな活動をしている人達を応援していきたいですね」
業界の常識に囚われず、誰もが自由に自分らしく居られる環境を目指す。社員それぞれが面白いと思うことに共感しながら、自分も楽しむ。新しいことへのチャレンジを恐れずに、次世代のイベント会社として進化していくサニムのこれからが楽しみです。
文:森山絢子