
富山県の南西部にあり、石川県金沢市と隣り合わせの場所に位置する南砺(なんと)市。世界遺産の五箇山合掌造りがあるところで、世界的版画家の棟方志功の第二の故郷としても知られる、歴史と文化が感じられる場所です。
南砺市福光の観音町エリアは、かつて富山有数の歓楽街として栄えた場所で、今なおその面影を残す飲食店などが建ち並んでいます。JR福光駅から徒歩5分の場所にあり、小矢部川のほとりに1990年(明治33年)に創業したのが、料亭「松風樓(しょうふうろう)」です。
創業以来、122年にわたり地元の人々に愛されてきた料亭ですが、今年の5月から営業を休止し、長い歴史に幕を下ろすことになりました。
新型コロナの影響で宴会が激減したものの、個人のランチ客をターゲットに切り替え、薬膳そばを提供したり、棟方志功を題材にした弁当を販売したりと、いろいろなアイデアで売上を維持していました。しかし、ご主人である齋藤文治さんの視力低下にともない、営業の継続が難しくなり地域の人に惜しまれながらも廃業に至りました。
齋藤さんは、松風樓の建物を活かして地域を盛り上げながら新たに事業を始めたい方を募集しています。
国登録有形文化財となっている料亭
松風樓は1900年に創業した料亭で、各部屋ごとに趣向をこらした造りの近代数寄屋建築の東棟と、風情ある中庭があり蛇腹漆喰など茶屋建築の特徴を持つ西棟、さらには昭和前期に建築された2棟の土蔵の計4棟が国登録有形文化財に指定されています。
富山県内でも老舗の料理屋として地域の方々から愛され続けてきたお店です。もともとは旅館もしていましたが、宴会と宿泊の両方のお客さんをとっていると、どちらにも迷惑がかかってしまうという理由から宿泊客はとらずに料亭として営業していました。
建物の前には小矢部川(おやべがわ)が流れ、春になれば川の両岸に植えられた桜が満開となり、富山県内有数の桜並木の名所として多くの人で賑わいを見せています。

齋藤さん「ふくみつ千本桜として小矢部川は桜の名所となっているんですが、元々はこの店の初代と二代目が桜を植栽したのがきっかけなんです。今は700~800本ほどの桜にまで増えていますが、来年度から千本桜プロジェクトとして本格的に始動するんです」
春になれば2階の大広間から見える小矢部川ほとりに続く桜並木の景色は圧巻です。
老舗料亭の4代目として苦労した日々
齋藤さんは4代目として生まれ、調理専門学校卒業後、京都で4年間板前の修行をしました。
齋藤さん「板前は4年で辞めて、ボクシングとか自分の好きなことをしてました。元々実家を継ぐつもりはなかったんですよ。でも、長男という立場から地元にもどって4代目を継ぐ覚悟ができました。最初は老舗としての重圧を感じていて、心身ともに疲労した時期もありました」
朝早くから夜遅くまで仕事をし、多い時は約9名のスタッフで料亭を運営しながら、配膳スタッフも外注して切り盛りしていました。桜の季節をはじめ、忘新年会のシーズンなど12月から5月まではかなり忙しい日々を過ごしていたのだとか。
オーナーシェフとして料理もしながら店の経営もしていた齋藤さんですが、さらなる試練が待ち受けていました。

齋藤さん「20年くらい前から視力が見えづらくなっていたんです。ただし、料理をするには問題はありませんでした。とくに昔から生まれ育ったところだったということもあって、問題なく仕事はできていました」
しかし、視力障害を理由に廃業を決意しました。
齋藤さん「これ以上視力が悪くなれば調理をするのが困難になると思いました。両目ともに視力が低下してきたので、まだ続けることもできたんですが、料理の中に異物が入ったりするとお客さんに迷惑をかけることになるので決断しました」
メーカーとして料理にも携わっていた齋藤さん
齋藤さんには松風樓のオーナーシェフという顔以外にも、もう一つの顔をもっていました。
齋藤さん「もともとはお客さんに美味しい料理を味わって欲しいということから水の研究をすることになり、いろいろな縁もあってGENKI JAPANという会社も立ち上げ、活性化水素水生成器を販売してるんです。
大学の研究機関にも依頼しながら進めてるんですが、活性化水素水の水は柔らかくて五臓六腑に染み渡る感じで、料理に使ってもおいしいんですよ。この生成器自体が国内初ということで注目を浴びだして忙しくなってきたので、料亭をやめるタイミング的にも今かなと思ったんです」
老舗の重圧や視力の低下など、いろいろな困難と向き合いながらも、4代目としての責任を果たしてきた齋藤さんですが、廃業の決意をすることは心苦しい気持ちでいっぱいだったそうです。
地域を盛り上げてくれる承継者を希望
齋藤さん「創業して120年以上経ちますが、本当にこの店は地元の人々から愛されていたんだと実感しています。とくに廃業するのを皆さんに伝えたら、やめないでという声も多かったので、地元の人に恩返しをしたいという気持ちでいっぱいです」
そうした気持ちから廃業後にチャリティーバザールを実施し、お店で利用していた掛け軸や食器などを特価で販売して、売上の一部を南砺市に寄付をしています。
この場所を引き継ぐにあたっては、特に飲食店でなくても問題はないそうです。
齋藤さん「ここではお茶会など開いていたこともあるので、料理屋や旅館などで引き継ぐのがスムーズだとは思いますが、とくにこちらからのこだわりはないです。ただ、120年の歴史がある国登録有形文化財の建物を活かしてくれれば、どんな業種でもかまいません」
齋藤さん「ここらへんは田舎なので、町内会があって近所付き合いが当たり前なところです。草刈りがあったり公民館掃除があったりするので、近所付き合いができる人に向いていますね。
もし飲食店をするのであれば、ご自身の持ち味を活かした料理を提供してもらいたいと思っています。もちろん地元で利用していた業者は紹介させてもらいますし、地元ならではの郷土料理のアドバイスもさせていただきます。
このお店は地元の方から昔から愛されてきました。だからこそ、この場所を活かせる方に引継ぎたいと思っています。ここの場所から地域を盛り上げ、ぜひ、福光をはじめとする南砺市を盛り上げてください」
心のこもった料理と、風情豊かな場所を提供し長年に渡り地元の人々に愛されてきた松風樓。齋藤さんの想いと建物を受け継いで、新たに地域を盛り上げてくれる方を募集します。
事業者情報
商号 | 松風樓 |
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所在地 | 富山県南砺市福光7471-8 |
代表者 | 齋藤文治 |
創業 | 1900年 |
業種 | 飲食 |
従業員 | 1名 |
営業時間 | 10:00〜22:00 |
定休日 | 不定休 |
応募条件 | コミュニケーションが好きな方 |