
2022年9月、福岡県柳川市にある「珈琲廊 ゴンシャン」が、relayを通して後継者募集をスタートしました。
「珈琲廊 ゴンシャン」の創業は1973年。オープンから半世紀近く経っていたお店でしたが、当時のオーナー・北島敏秋さんの体調が芳しくないこともあり、2022年9月30日をもって閉店に。しかし、こだわりの詰まったインテリアや装飾の数々、そして、長年の喫茶店経営の賜物である「焙煎技術」を引き継ぐことができるということで、後継者希望の問い合わせが多くあった案件でもありました。
relayに掲載後、50名を超える応募者の中から「珈琲廊 ゴンシャン」の後継者となったのは、飲食業界で15年以上のキャリアを持つ児島 聡さんです。前オーナーの北島さんから焙煎技術などを学び、店名を「Classic珈琲 ゴンシャン」に変更。
今年の3月21日に再オープンし、新しい「ゴンシャン」を奥様の祐子さんとともに運営しています。今回、そのオープン日に、売り手である前オーナー・北島 敏秋さんと買い手の児島 聡さん、そして、来店されていたお客さんにお話を聞くことができました。
譲渡者:「珈琲廊 ゴンシャン」北島 敏秋 様
承継者:児島 聡 様
聞き手:relay編集部
半世紀の歴史を継ぐために
ーー(聞き手)relay編集部(以下、略):後継者の児島さんは、長年、日本食の料理人として活躍してきたとお聞きしましたが、実は「珈琲廊 ゴンシャン」に訪れたことがなかったとか。今回、なぜrelayを通して後継者に応募したのですか?
(承継者)児島 聡様(以下、敬称略):現在は佐賀県在住ですが私自身元々福岡に住んでいたということもあり、その付近で自分の経験を活かせる仕事はないか探していたところ、relayで後継者募集を知り、応募をしました。
ーー倍率の高い選考を経て、晴れて後継者になったわけですが、半世紀の歴史があるお店を継ぐに至るまで、ご苦労はありましたか?
児島:入口のドアを塗り替えたり、トイレを改修したりといった作業はありました。「ゴンシャン」は北島さんが丁寧に淹れるサイフォン式の珈琲が人気でしたので、その味を守るなど、大変なのはこれからだと思います。
ーーやはり、サイフォンで珈琲を淹れるのは難しいですか?
児島:実は、すごく難易度が高いというわけではないんです。難しいのは焙煎の方でして、北島さんはずっと年代の古い機械を使っていて、私はそれをそのまま引き継ぎました。今の焙煎機は温度などがグラフで見れるようになっているのが主流ですが、ウチの機械にはそれがありません。そのため、「感覚」の部分がとても大事になってくるんです。
ーーでは、前オーナーの北島さんから相当技術を習ったんですね?
児島:みっちりと習ったのは、オープン前の一週間です。でも、珈琲の淹れ方はあまり教わっていなくて。というのも、北島さん曰く「淹れ方にコツなんかない!」と(笑)。もともと、趣味レベルで珈琲を淹れていたので、これから鍛錬していこうと思っています。
「もう、自分の物ではないんだけど……」前オーナーの想いとは
ーー譲渡者の北島さんにもお話を伺います。relayでの募集を経て、本日、新しい「ゴンシャン」が再オープンしました。今、何を思いますか?
(譲渡者)北島 敏秋 様(以下、敬称略):長年守ってきたお店が復活して、メディアの方も取材に来てくださって嬉しいです。今日オープンを迎えて、もう児島さんのお店になったわけだけど、やっぱり心配な部分もありますね。
ーーやはり、長年のこだわりを守って欲しいとの想いはお持ちですか?
北島:「珈琲廊 ゴンシャン」は半世紀続いたけれど、児島さんの「Classic珈琲 ゴンシャン」も、それくらい続くんじゃないかな?でも、やっぱり私も、ずっとこだわりを持って営業してきましたからね。ああだこうだと、ついアドバイスをしてしまいます。妻からは「お父さん、あなたもう関係がないんだから」と言われましたが。今日も、忙しかったら店を手伝おうと思ってここに来たんですよ(笑)
ーーついついアドバイスをしてしまうという北島さんですが、児島さんのお気持ちはいかがですか?
児島:ストイックな方ですから(笑)。さっきも、お客様が大勢来られてバタバタしていた時に作り終わった商品の提供に少し時間がかかったことをご指摘いただきました。早く慣れて、そういったことが当たり前にできるようになりたいです!
ハープの演奏も聴ける唯一無二の喫茶に
ーー児島さんは、新たに誕生した「Classic珈琲 ゴンシャン」をどのようなお店にしたいと考えていますか?
児島:まず、「珈琲廊 ゴンシャン」の伝統を守りつつ、ワッフルや軽食など、これまでになかったメニューをご提供していきます。そして、実は私の妻はハープ奏者でもあるんです。なので、不定期でハープのコンサートも開催していく予定です。落ち着いた雰囲気の店内と妻の演奏はとても相性が良いのではないでしょうか。
ーーそれは素敵な取り組みですね!話は少し変わりますが、児島さんはご出身が埼玉県と聞いています。見知らぬ土地への移住に不安はなかったのでしょうか?
児島:妻が佐賀県出身だったので不安はさほどありませんでした。ただ、あまり友達はいませんね(笑)
ーーそれでも、この地で頑張っていくというお気持ちがあるんですね。
児島:はい。北島さんのときはやられていなかったSNSも始めて、近隣のお店と繋がったりと、ライバル関係ではなく上手く繋がってやっていけたらと考えています。
「一緒に頑張っていきたい」お客さんの声
取材日当日、天候はあいにくの雨。にもかかわらず、多くのお客さんがお店に訪れました。そんな中、近くにある飲食店を経営する女性がお客さんとして来店しており、話を聞くことができました。
「この辺りはお店がどんどん減ってきて、私も『どうしよう』と感じていたんです。だから、『ゴンシャン』が復活してくれて私もすごく嬉しいです。インターネットで後継者を探されていることは噂で聞いていたけれど、本当に見つかるのか?と正直、懐疑的でした。素敵な雰囲気の『ゴンシャン』を守ってくださる方が来てくれて良かったと思います。これから、柳川に観光客が戻ってきたら、一緒に頑張っていきたいですね!」
また、先代の「ゴンシャン」から通っていたという女性もこう話します。
「考え事をしたい時など、よく1人で利用していました。この辺はチェーン店以外の飲食店が少ないから、こうした個人店が残ってくれて感激です。メニューも、以前より増えましたし、これからの発展に期待したいです」
取材前に行われた再オープンにあたってのセレモニーでは、エプロンの贈呈が印象的でした。
「Classic珈琲 ゴンシャン」の今後が楽しみです!