2021年11月、鹿児島県大崎町にある鯉の養魚場を併設する鯉料理店「高井田養魚場」がrelayにて後継者を募集しました。
全国各地からたくさんの応募があった名店を承継することになったのは、同じ大崎町の出身で、しばらく他県に出ていたという純浦幸平さん。なんと承継者の牧之瀬幸夫さんは小中学校時代の同級生のお父さんで、お互いに顔見知りだったといいます。
バトンが受け継がれた「高井田養魚場」は、2022年11月、メダカや金魚の養殖事業を手がける「高井田めだか」として生まれ変わりました。奇跡的とも言える再会を果たし、現在も毎日のように顔を合わせているお二人に、承継時のお話や今後の展望についてお話を伺いました。
譲渡者：「高井田養魚場」牧之瀬幸夫様
承継者：純浦幸平様
聞き手：relay編集部
1日に300名以上が来店することも。人気店が廃業を決意したきっかけとは
ーー牧之瀬さんが承継を決めたきっかけをお聞かせいただけますか？
（譲渡者）「高井田養魚場」代表 牧之瀬幸夫様（以下、敬称略）：廃業することを決めた大きなきっかけは、2020年7月の大豪雨です。豪雨で川の堤防や道路が流されて、この敷地も初めて崖崩れの被害に遭いましてね。この50年で初めての災害でした。
もともと家内とも「70歳になったら辞めるよ」と話していましたし、ちょうど70歳を迎える歳になったこと、コロナ禍の波も相まって「この際もうやめるか」と廃業を決めました。その後、地元の商工会に相談したところ、relayの取り組みを紹介してもらい、後継者を募集することになりました。
ーーもともと鯉料理を提供されていて、併設の池も使用されていたんですか？
牧之瀬：もともとは鯉と鱒の料理専門店で、併設の池にいた鯉は観賞用でした。この池で養殖する量では料理に使うには追いつかないレベルだったので、料理には養殖した鯉を仕入れていました。ここの池は水が綺麗すぎて養殖には向いていないんです。
そのため、ある程度育った鯉を仕入れて、ここの水で1週間ぐらいさらしています。養殖業者から仕入れた段階で、鯉が泥臭いことはないんですが、平均17から18度のここの水にさらすことでより身が締まるんです。
うちの場合は、他のお店とはちょっと違った方法で鯉のあらいを作っています。普通は鯉の皮から全部削ぎ落として切り身だけにするんですが、うちは鱗だけ削ぎ落として皮を残し、その皮に沸騰したお湯をかけて煮ます。皮だけを煮れば全体が引っ張られた状態になって身が締まるので、食感のコリコリ感が全然違います。お客様からは「これは本当に鯉か？」という反応をされることもありました（笑）
ーーさまざまな工夫をされていて、承継前もかなり人気店だったようですね。
牧之瀬：本当に忙しかったですよ。コロナ前のピーク時は、昼に150名、夜に150名が来ていましたからね。その時期は朝6時から夜の1時2時まで鯉を触りっぱなしでした。
「自分の店を持ちたい」運命的な出会いで夢を叶える
ーー純浦さんは以前から「高井田養魚場」をご存知だったとのことですが、承継のきっかけを教えてください。
（承継者）純浦幸平様（以下、敬称略）：もともと趣味でメダカと金魚を飼っていて、そこから副業として道の駅やYahoo!オークションなどに出品をしていました。前々から「自分の店も持ちたいな」という思いがあり、お店候補を探すうちに、relayのInstagramでここの記事を見つけました。初めはまったく気づかなかったんですが、記事を読んでいると、小中学校時代の同級生のお父さんが出てきてびっくりしたとともに、「自分のやりたいことをやる場所にぴったりだな」と思いました。
ーー牧之瀬さんも、純浦さんのことはご存知だったんですか？
牧之瀬：はい。息子と仲が良かったので、よく覚えていました。問い合わせが来たときは、とても嬉しかったですね。お互い、ほぼ即決でした（笑）。
ーー奇跡的なストーリーですね。純浦さんに託そうと決めた理由を伺えますか？
牧之瀬：この場所が廃れて、人がいなくなることが一番悲しいことでしたから、ここのお店と敷地を利用してもらえる人がいるだけでうれしいことだと思いました。なので、お金のことはあまり気にしていなくて。施設も好きなように改造して構わないから」とだけ伝えました。
ーー純浦さんは、その話を受けた時はいかがでしたか？
純浦：これだけの広い敷地を他で借りるとしたら、家賃だけでも大変なことになるんですけど、そこを牧之瀬さんが破格の金額で承継してくれて本当に助かっていますし、うれしいことですよね。
牧之瀬：このお店を大きくして収入が増えた時には、ゴルフ代くらいのお小遣いはくれるって言っているので（笑）それで十分ですよ。
ーーお互いに運命的な出会いでしたね。純浦さんは今後、この場所をどんな場所にしていきたいですか？
純浦：当分はメダカと金魚の販売だけでやっていこうと思っていますが、今後はマス釣りなどもできるようにして、それで集客できたらいいなと考えています。あとは、例えばですが、施設には個室も残っているので、近辺の外国人の方や働いている方の宿代わりに貸し出しするのはどうかなと考えていたりもします。いろいろとチャレンジの幅はありますね。
ーー牧之瀬さんは、たまにこちらに顔を出されたりするんですか？
牧之瀬：ここにいるおふくろがもう90歳になるので、その様子を見るついでに洗濯をしに来て、幸平と喋りますね。夏場はここの堤防がすぐ草山になるので、2人掛かりで草を刈っています。敷地も広いし、すぐに草が伸びるから大変で。草を刈った敷地の一部は私のゴルフ練習場、アプローチの練習場になっています（笑）
ーー牧之瀬さんが、今後のビジョンを一緒に考えることもありますか？
牧之瀬：あとはもう幸平の夢だから、相談してくることがあれば相談には乗るけど、やりたいことは自分でやっていかんとね。
ーー近くに相談できる先代がいるのは、これからの発展の強みにもなっていいですね。
純浦：そうですね。私はもう父親がいないので、牧之瀬さんは本当に父親みたいな存在です。
牧之瀬：でも、一番喜んでいるのはうちのおふくろですよ。90歳になってここに一人で住んでいたので、幸平が朝早く来て、夕方まで居てくれるのが、やっぱりうれしいみたい。
夢は広がるばかり。「地域の皆さんが集まるお店を目指したい」
ーー皆さんずっと仲が良いんですね。牧之瀬さんがrelayを使ってよかったなと思った点はありますか？
牧之瀬：私はインターネットも知らないし、パソコンも持っていないので、発信してもらっていること自体がありがたいです。私は大崎町の担当者に任せていたので、詳しい募集経過は知らなくて。結果として、「後継者が現れましたよ」と聞いた時に、その後継者候補が幸平だったから、なおうれしくて。本当に神様はいるもんだなと思いましたね。
ーー今回は大崎町、相互信用金庫、商工会とrelayの4社連携でサポートさせていただきました。
牧之瀬：私の場合は、町長さんも商工会長も相互信用金庫さんもほとんど顔見知りで、昔から知っていました。何かあったときはすぐに相談できる環境で、とてもありがたかったです。
牧之瀬：幸平も商工会に入らないとね。
純浦：もう手続きしてきました。僕はずっと他県に出ていて数年ぶりに大崎町に帰ってきたんですが、今回のセレモニーで商工会長さんに初めて会ったら、まさかの中学時代の陸上部のコーチで。お互い顔見知りでした（笑）
ーー偶然に偶然が重なりましたね！牧之瀬さんは、ここを純浦さんに引き継いで、今後はどんな場所にして欲しいという思いがありますか？
牧之瀬：今やっているメダカと金魚の養殖販売が成功して、従業員を雇うようになれば、敷地内に池もあるので、そこでニジマスも釣り堀もできると思いますよ。釣った魚でバーベキューができるようにしたりするのもいいですよね。夢は広がっていくばかりだけど、それを一歩一歩現実にするのは幸平の力だからね。私はニジマスの調理の仕方を知っているし、協力できることもあると思うので、夢と言わずに現実に近づくように頑張ってもらいたいですね。
あとは、鯉料理屋さんってこの辺りに全くなくて、とても貴重な店だったので、鯉もゆくゆくは提供していけたらいいですよね。
ーー最後に、一言ずついただけますでしょうか。
牧之瀬：純浦幸平くんに高井田養魚場の敷地や環境を引き継いでもらって、本当に感謝しかありません。廃れる一方だったところで、また事業を起こしてくれたことは非常にありがたいです。私もできることは協力するので、これからも頑張ってくださいと、エールを送りたいです。
純浦：おじちゃんが「この場所を好きに使っていいよ」と温かい心で言ってくれて、本当に好きにやらせてもらっています。まずはメダカと金魚の販売をしていって、地域の皆さんが集まる楽しいお店にできたらいいなと思っているので、引き続き頑張っていきます。
ーー素敵なインタビューをありがとうございました。
後継者募集をオープンにしたからこそ、一度は町を出ていた大崎町出身者の純浦さんに情報を届けることができた今回の事例。目の前のことを一歩一歩進めながら、より町の人が集まる楽しい場所にしていきたいと話す純浦さん。今後のご活躍から目が離せません。
