事業承継ストーリー

祖父と父がつないできた建具店の3代目へ 若手職人が考える事業の魅力と将来とは

滋賀県東部に位置する日野町。伝統野菜の日野菜や近江牛といった、滋賀県を代表する特産品を持つ地域に『頓宮建具店』はあります。建具とは建物のドアや窓、ふすまといった開け閉めできる仕切りの総称。頓宮建具店は大量生産で安価に作られたものではなく、手作業による1点物の建具を数多く提供し続けてきました。

現在3代目を務める頓宮正洋さんは1988年生まれで、業界としては若手と言われているそうです。それでも、技能五輪で金賞を受賞した経歴を持つ日本屈指の建具職人。現在は父親であり2代目の頓宮正也さんと共に、滋賀県だけではなく関西各地のこだわり住宅へ向けた建具を作り続けているのです。

今回は3代目として引き継ぐことを決めた経緯や思い、今後の展望について正洋さんにお話を伺いました。

昭和35年に創業した建具店の3代目に

頓宮建具店は昭和35年に創業。初代、2代目と事業を引き継ぎながら、現在に至るまで日野の地で建具を製作し続けてきました。高い品質が評価され、現在では滋賀県だけではなく県外顧客からの依頼もあるといいます。

祖父、父と続いてきた建具店の3代目として、正洋さんが引き継ぐことになったのは2023年1月。

正洋さん「子どもの時から事業を引き継ぐ意識があったというか、そういう方向に気が付いたら向かっていったという感じです。今の御時世だったら外で働けとなったかもしれませんが、私が小さい頃はまだ景気も良かったので」

幼い頃から木を使って遊んでいたため、図工の授業などは得意だったそう。そして工業高校へ進学し、本格的に建具職人としての道を歩み始めました。その後は東京で4年間の修業を経て、23歳の時に第49回技能五輪で金賞を受賞するほどの技術を身に付けたのです。

代々の建具を使い続けてもらえる嬉しさ

建具という住宅になくてはならないものを取り扱うため、その仕事にはやりがいがあると正洋さんは話します。

正洋さん「日野町周辺には大工さんも多く、良いものを作ろうという気持ちが共通しています。最終的な成果物をお客様に喜んでもらえるのが嬉しいですね。お客様は日野に住んでいる人が多いので、日常で出会うことが多いんです。そこで『この前はありがとうな』といった会話から自然に輪ができる。そういうのが好きですね」

建具は目に見える形として残る上に、住宅の仕上げ仕事であり、建具という作品が残り続ける良さもあるといいます。

正洋さん「初代である祖父が製作した建具をまだ使っている住宅があります。以前、僕がそれを修理することになったんです。そこでお客様に『おじいさんが作ったものを孫が直してるんだね』と言われたことは嬉しかったですね」

承継前後のギャップはまだ少ない

事業としては正洋さんが3代目として引き継いでいる一方、現在は父親であり2代目である正也さんと共に建具製作を続けています。そのため、承継前後のギャップは少ないと正洋さんは話します。

正洋さん「変わったところといえばお金の管理、書面上のやりとりをするようになったくらいですね。父親が持つお客様とのやり取りは僕も同じようにしますが、僕のお客様と父親は付き合いしないので、すべて自分で管理しています」

書面上は事業を引き継いだとはいえ、2代目である正也さんもまだまだ現役。現在は2代目、3代目で担当顧客を持っているような状態だといいます。見積もりや請求書作成といった業務もそれぞれで対応しているため、全ての業務を完全に引き継ぐのはまだ先となりそうです。

良いものを納得してもらえる形で提供する

今後の課題点について正洋さんは次のように話します。

正洋さん「建具製作という仕事はどんどん減っていくと思います。ニッチな世界になるかもしれませんが、より良いものを妥当なお値段で販売できればと思っています。薄利多売という形はもう難しいですからね」

今後はこだわった製品をお客様へ提供しようと考える正洋さん。頓宮建具店では木製建具だけではなく、家具の製作といった事業も手掛けています。高い木材加工技術を活かし、新しい事業展開も検討しているのです。

正洋さん「木工製品で何か新しいものが作れたらとは考えています。スパイスボックスや折りたたみテーブルといったアウトドア用品もいくつか作ったのですが、本業が忙しくなってくるとどうしてもその余裕が無くなってきてしまいます」

頓宮建具店は現在従業員を雇っておらず、ほとんどの工程を2人で対応しています。そのため多忙な時期には寝る間もないほどの作業量となるそう。

正洋さん「簡単な仕事であれば外注できるのですが、お客様と直接打ち合わせした仕事はそうはいきません」

頓宮建具店への技術、ブランド力で依頼されていることからも簡単には外注できないのだとか。現在の作業量と新規事業の拡大といった面が、今後の課題として考えられると話します。

全国的に若手の建具職人が減り続けている

正洋さん「全国的に建具職人が減り続けています。特に20代、30代の職人は全国的にもかなり少なくなっているのではないでしょうか。父親世代の60代前後は多いのですが、それより下の年代が本当にいないですね」

建具業界の傾向として、現在の60歳前後の職人の代で廃業を選択するお店が多いそう。滋賀県内でも建具店の数は、この10年で半数近くまで減少したと正洋さんは話します。

職人技である建具製作はそう簡単に真似できるものではありません。しかし、需要は一定数存在するため、既存のお店へと依頼が集中することが考えられます。

正洋さん「大工さんや塗装屋さん、外構工事などであれば横のつながりがあるので、大きな仕事が入っても応援を呼んである程度対応できるんです。でも、建具に関してはなかなかそういったことが難しくて」

簡単に真似できない技術であり、希少価値が高いからこその悩みがあるといいます。

正洋さん「従業員を1人雇う、雇わないはすごい差があるじゃないですか。今は自分の仕事さえあればなんとかやっていけますが、従業員がいるとそうはいきません。かといって今の作業を外注するのは難しい。今後このあたりのバランスを考える必要がありますね」

新しい事業を展開し事業を継いでいきたい

60年以上続く建具店の3代目として引き継いだ正洋さんに、将来のビジョンや展望を聞いてみました。

正洋さん「今は全く考えていないですね。弱い商売なので本当にいつか無くなってしまうかもしれない。だからこそ新しい事業を展開するなど、将来性が見える状態を作ることができれば、その先の息子などへ継いでいきたいとは思います」

希少性の高い技術を後世へ引き継いでいきたいという思いも少なからずあると話す正洋さん。時には神社仏閣の建具修理を行うこともあるそうです。

正洋さん「神社仏閣の場合、そのままの状態で直すという仕事なので、汚れているから取り換えるというわけにはいかない。普段やっている建具製作とはまた少し違うのですが、昔の技術、作品を残していこうという考えは似ているかもしれません」

デジタル技術が発達するにつれて、木の温もりに対する注目は高まりつつあります。持続可能な社会実現へ向け、自然由来の製品が重宝される現在、こだわりの建具や木工製品への需要はますます増加することが考えられます。確かな技術を元に、歴史ある建具店の3代目として活躍する正洋さん。建具の新たな可能性へ挑戦するその姿に、今後より一層大きな注目が集まるでしょう。

今後のご活躍も楽しみにしております!

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