吉祥寺の商店街で、ひときわ賑わいを見せているのは創業76年の「塚田水産」。さつま揚げやおでんの具を販売している、練り物の専門店です。
おやつ感覚で食べられる定番メニューの「揚げボール」や、新規考案して若者から人気を集めている「吉祥寺揚げ」などが店頭に並び、農林水産大臣賞や都知事賞を受賞した経歴もあります。そんな、長年地元で愛されてきたお店を率いるのは、3代目の塚田亮(あきら)さん。
「事業承継を機に、保守的な経営から売上を増やすための経営に切り替えた」と話す3代目社長に、承継のエピソードを伺いました。
経営が厳しいことに危機感、売り上げアップの施策を実現
元々は祖父が練り物屋、父が魚屋を経営しており、父から魚屋の事業を承継した塚田さん。経営に関して、右も左もわからないながらも、仕入れ、加工、販売、経理を経験し、商売のいろはを身につけていきました。
塚田さん「当時は朝寝坊をして魚の仕入れができないなど、ミスもたくさんしていました。従業員から叱られることもありましたが、現場での経験があるからこそ、従業員の大変さを理解できているとも感じています」
塚田さんは先代である父から、直接経営を教わったわけではありませんでしたが、父の背中を見ながら少しずつノウハウを蓄積していったといいます。
塚田さんは8年ほど魚屋として従事したのち、当時の練り物屋を仕切っていた職人が体調不良のため引退したことをきっかけに練り物屋への事業に参画していきました。
塚田さん「練り物屋も最初は父と二人三脚で進めていました。ですが、二人とも苗字が塚田なので社長だと間違われることがすごく多くて(笑)。実際、父よりも私のほうが現場を仕切っていましたし、それなら正式に社長になろうと思って父に話したら『そうするか』の一言で、承継することが決まりました」
こうして、塚田水産の3代目として事業継承をすることになりましたが、当時の経営状況は厳しいものだったといいます。
塚田さん「私が継いだ時は売上が厳しくて、『私の代でなんとかしないといけない』と強く思いました。具体的には、コストカットと、未開拓だった若者へのアプローチを重視することを考えましたね」
事業承継のタイミングで課題を洗い出し、より低価格で仕入れができる業者を探してコストを削減。さらに、お客さんから新メニューを公募して、実際に制作し販売。若者へのアプローチを考え、チーズやホタテを具材にいれてパン粉を付けた「吉祥寺揚げ」を開発するなど、新たな取り組みをスタートさせました。
塚田さん「若者の食べ歩き需要に着目し、より若者の目を引くようなメニューや味付けを意識しました。おかげさまで、メディアに取り上げてもらう機会も増えてきましたね」
百貨店出店へ乗り出し大盛況。世代を超えて愛されていると実感
若者向け商品の開発やメニューを公募するイベントなど、様々な取り組みをしてきた塚田さんは、次なる施策として「百貨店への出店」を決意します。
実際、百貨店に出店した際は、想像以上に反響があり、塚田水産の売上に大きく貢献しました。また、「吉祥寺よりも自宅から近いから」と、以前お店に来ていたお客さんが百貨店に買いに来てくれたことが印象的だったといいます。
塚田さん「3代続くお店なので、昔来てくれていたお客さんが『懐かしい!』と思って買ってくれたり、お子さんを連れて親子2代で買いに来てくれたりするんです。子どもに『このお店のさつま揚げおいしいんだよ』と話している姿を見たときは、本当にうれしかったですね。世代を跨いで愛されていると実感しましたし、なによりも『私の代で、店をなくすわけにはいかない』と強く思いました」
自分がやりたいことがスムーズにできるのが事業継承の強み
塚田さんは事業継承の良さについて、「0から1ができている状態」と「第三者の視点があること」だと話します。
塚田さん「0から1を作るのは大変ですが、私の場合は1も2も3もある状態から始められたので、これは事業継承ならではのメリットだと感じますね。また、元々は私が立ち上げた事業ではないので第三者の視点で物事を捉えることができます。これも普通に事業を立ち上げた場合、なかなか得られない感覚なのではないでしょうか」
お客様に愛され続けるお店にしていきたい
最後に、今後のお店の展望について伺いました。
塚田さん「お客様に満足してもらえるようなお店でありたいですね。メニューを公募するなど、お客様との触れ合いを増やしてきたので、より一層お客様に楽しんでいただける店にしていきたいです」
これからも、塚田さんは吉祥寺で愛されるお店づくりを追及していきます。
文:翌檜 佑哉