事業承継ストーリー

コロナの影響で廃業した名店が復活!300年の伝統製法を承継した地域コーディネータの挑戦

徳島県つるぎ町で、300年の長い歴史を持つ「半田手延べそうめん」。絶妙な太さとコシが人気で、「The乾麺グランプリ 2018」でグランプリを受賞したこともあるほどの逸品です。

半田そうめんのブランドの1つに「半田手延麺 八千代(はんだてのべめん やちよ)」があります。全国でも数少ない「国産小麦100%」にこだわっており、全国のファンに愛されてきました。

ところが2020年5月、新型コロナウイルス肺炎の影響を受け惜しまれつつ廃業。地元メディアでも報道されるほど、大きな衝撃が走りました。そんななか、八千代を復活すべく立ち上がったのが「株式会社そらにわ」の森和也さん。江戸時代から受け継がれてきた味と製法を守るべく立ち上がりました。

友人の友人が聞いた「なくさないでほしい」の切実な声

不動産業、クラウドファンディングのサポートや福祉事業所の立ち上げなどのコンサル業を行う「株式会社そらにわ」。一見、麺類製造業とは無縁に思われるそらにわの森さんが八千代の承継を決めたのは、普段からコーディネータとして様々な視点で関わっている「地域」の人々への想いでした。

森さん「倒産してしまった当時の社長と仲が良かった味噌製造会社の社長さんが、最後の在庫整理や片付けを手伝っているときに、“なくさないでほしい”という地元の方々の切実な声を聞いたんだそうです。それでなんとか復活させる道はないかと、何人かの友人に声をかけていました。声をかけられた友人の中に僕の友人がいて、そこから僕にも話が来ました」

ご縁が巡り巡って、森さんの元に舞い込んできた承継話。森さんは率直に「伝統の味が消えるのはもったいない」と感じ、真剣に事業承継の可能性を考えたと言います。

倒産はコロナの影響だけではない

株式会社そらにわ 代表 森和也さん

森さん「1回倒産しているし、本当に復活できるのかとも考えました。でも倒産した理由を見たときに、たしかにコロナの影響はあったんですけど、それだけじゃないなと思いました。

八千代を製造していた会社は、初めから半田そうめんを作っていたわけではなく、元々土建業でバブル崩壊後半田そうめんに参入していました。倒産したのは、その土建業時代に抱えた負債も関係していたんです。

また、EC事業などこれからの開拓次第で伸びしろも感じました。コロナの影響で催事などは減りましたが、インターネットで国産小麦100%の正しい情報を知ってもらえれば、全国の国産を求めているお客様に届けられますし、まだ製造していける可能性があるのではないかと思ったんです」

承継に「不安」はあったが「迷い」はなかった

こうして、八千代に復活の可能性を見出し承継を決意した森さん。以前八千代で働いていたスタッフも戻ってきました。

森さん「承継に迷いはありませんでした。でも不安や心配は尽きなかったですよ。“倒産”というイメージがついていることと、倒産後空白の期間が半年あるので、本当に売れるのかという不安はありました。設備も半年間動かしていないので、きちんと動くんだろうかという心配もありました。

でも工場と設備がそのまま残っていたことと、以前製造に携わっていたスタッフの方が一緒にやりたいと言ってくれたことで、材料を仕入れれば良いものが作れる自信はありました。製造したものが売れるのか不安はありましたが、製造そのものへの不安はあまりなかったです」

八千代復活にあたり、クラウドファンディングも利用。100人以上のファンから支援と喜びの声が集まりました。

異職種から参入したことを強みに変える


2020年11月より本格始動をはじめた八千代。ただ、倒産から半年の空白はやはり小さくありませんでした。

森さん「販売先の確保には苦労しています。倒産してから半年間空いているので、今まで商品を置いてくれていたお店が、ほかの業者の麺を仕入れてしまっています。また置いてくださいと頼んでスムーズにいくものでもなくて、思うようにいっていないのが現状です。受け継いだとはいえ、販売先に関してはもう1回きっちりと構築し直す必要があると考えています。

飲食店とコラボして新メニューを一緒に考えるなど、半田そうめんに触れる機会を増やしていきたいですね。これまでの経験やつながりを生かして、さまざまな企業や人とコラボ商品を作ったりしたいです。僕が異職種から入っている分、既成概念にとらわれず今までにないことができるのは1つの強みかなと思います

歴史ある半田そうめんに関われることがやりがい

森さん「一番は、以前のスタッフに“また製造に携われてうれしい”と言ってもらえるので、受け継いでよかったなと思います。それと同時に継続しないといけない責任にもつながってくるので、重圧とも戦いながらという感じですね(笑)。

このあたりの地域もどんどん過疎化が進んでいて、たくさんあった半田そうめんの事業者も30社まで減ってしまっています。今後も後継者不足で閉めざるを得ない、衰退していくだろうという状況です。そんな中で、自分のような承継がモデルケースになってほしいと期待も持ってもらえているようで、300年近い歴史のある半田そうめんを守り続ることに関われるやりがいを感じています」

働きたくても働けない人に働ける環境を提供したい

今回森さんが事業承継を決めた背景には、もう一つ理由がありました。それは森さんが元々行っている事業と掛け合わさることで、シナジーが生まれることです。

森さん「障がい者の就労支援にも携わっているので、障がい者の雇用にもつなげていきたい思いがありました。障がい者雇用は少しずつ進んでいますが、まだまだ一般的ではありません。働きたいけど働けない人がたくさんいる中で、地元産業との結びつきのモデルケースを作ることもがとても大事だと思っています。

製造業は仕事の切り分けがしやすいこともあり、障がい者雇用との親和性が高いので、ゆくゆくは障がい者の方が働く場所として提供できるのではないかと思いました。事業を走らせつつ、障がい者の方にここで働いてもらえるような環境整備をしたいと思っています」

半田そうめんのおもしろさを広げ、コアなファンを作りたい

森さん「半田そうめんは徳島では有名ですが、全国区になると知名度は低いので、もっと多くの人に知っていただきたいです。そうめんには細いイメージがあると思いますが、半田そうめんはほかのそうめんと比べるとかなり太いんです。コシや独特の食感があるので、一度食べてみてほしいですね。

現在半田そうめんの製造所は約30社ありますが、食べ比べると味も食感も全然違います。その違いも半田そうめんのおもしろさだと思いますが、あまり知られていません。半田そうめんが好きな人でも、好きだけで終わるのではなく、“わたしは八千代が好き” “僕はここの麺が好き”というようなコアなファンを作りたいですね。そのためにも自分たちがPRの先頭に立って、注目も浴びつつ、事業を広げていけたらと思っています」

様々な思いを胸に、八千代を盛り上げるべく奮闘している森さん。心から半田そうめんを愛する気持ちが伝わります。ネット販売もあるので、贅沢なコシと食感を楽しんでみませんか!

文・高橋春妃

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