事業承継ストーリー

無借金・人情経営!憧れられる会社づくりで先代の教えを証明する

東京都足立区にある、シャッター専業メーカーである株式会社横引シャッター。

従来上げ下げしていたシャッターを横引で開閉できる上吊式横引シャッターを開発、特許を取得し、特殊シャッターのメーカーとしてだけでなく、「定年なき雇用」「がん患者の雇用」などの施策で注目を浴びています。

2代目である市川慎次郎さんが家業に入った時、開発費含めた会社の負債が9億円ほどになっていたそうです。

しかし、市川さんはその時期を暗黒時代と称しながらも、尊敬する父とともに負債を返済していていく過程が一番楽しかったといいます。

そして、先代が急逝された後は「親父が人生をかけた会社を絶対に守る、そして親父が背中で教えてくれたことは正しいと証明する」という意思とともに、事業を引継ぎました。

自分の人生と会社の運命は一蓮托生。親父の会社はつぶさせない

市川さんは、社員のことを大切にし、楽しそうに仕事をする父親の姿を見ていくなか、親の会社を継ぐのは当たり前と考えていたそうです。

市川さん「入社した当時の経営は、先代のカリスマ性でもっている状態でした。仕事の内容も社長しかできない、やれない、分からないものも多く、先代が元気なうちに引き継いでいかないと会社がつぶれてしまうと思ったんです」

そこで市川さんは、先代とともに戦略を練り、借金9億円の返済計画を立て、見事6年間で7億円の借金を返済しました。同時に社員との関わりにも力を注いだといいます。

中小企業の強みは人間関係。信頼づくりは自ら動き、根気よく積み上げることから

先代の方針は「社員の首は絶対に切らない、社員は家族」というもの。市川さんが20代で会社に入ったときは、周りの社員も年上の職人気質の方々ばかりでした。

そんな中、若くして社長の息子という立場で、社員と関わり意見を伝えるなか、ぶつかることも多々あったそうです。

市川さん「僕は入社した当初、秀でた能力も経験も知識もありませんでした。そんな若造が会社をよくしたい、変えたいと考えても選べる手段はあまりない。だから出来る事は全部やりました」

総務と経理を兼任し、借金返済に奔走しながら、スムーズな意思疎通ができる人間関係をつくるために、4年間、毎日5つの工場を周り、社員全員と話をしたといいます。

市川さん「話といってもかしこまった内容ではなく、雑談をしながら様子を見ていくんです。本社の人間が相手を呼び出したり、いきなり声をかけても警戒されるだけだから。

毎日通って、その人の仕事内容や1日の作業量、性格や人間関係を把握しながら、困りごとがあればサポートして、頼み事を聞く。

その積み上げを時間をかけてすれば、相手も信頼してくれて、自分の頼み事も聞いてくれるようになるんです」

毎日社員と話し、相手の様子を見ていると、いつもと違う様子や行動にもすぐに気づけるといいます。

市川さん先代からは「社員の聞こえない声を聞け」と教えられました。社員の小さな不満や悩みもすぐに気づけるから、適宜ガス抜きもできる。

社員が社長に何かいうときは、もう辞めるときが多い。だからその前に気づけないと社長にはなれないと。

社員とぶつかったときも、社員に社長の息子には意見を言っても通らないと思われたら、社員は離れてしまう。

もめたのはなぜか、解決はなぜそうしたのか、本人が理解できるように繰り返し伝えて、ずっと不満を持たせたらいけない、必ず地ならしをしなさいと教わりましたね」

僕は目標を決めたら、一発狙いはしません。一発狙いでできるなら最初からもうそこにいるはずですから。その差を埋めるには、根気強く段階を踏むんです。

社員がいないと社長はできない。社員は自分の代わりを行ってくれる存在

市川さん「中小企業には大手企業のようなネームバリューはない分、どこで勝負するかといえば、人間関係の深さと、会社にとってベストな方向に考え行動できる人を育てることです。

今、会社の大きな目標の一つに「社長戦力外通告」というのがあります。中小企業にとって社長しか分からない仕事があるのは、大きなリスクです。

だから社長がいなくても、各自で考え判断し、通常業務が回せる会社をつくることを目指しています。

それには普段どれだけ、社員が社長の考えや行動の意図を汲みとれるかが課題となりますよね」

実際に市川さんは、会社で全体グループLINEをつくり、毎日お昼に欠かさず社長のメッセージを流しています。

それは、社長の普段の考え方、問題への対処法などの情報を伝えることで、なぜそれをするのか?の原点を理解し、何か起こったときも、個々で動くときの判断基準にして欲しいからだそう。

LINEメッセージも、毎日できるかと運用まで3ヶ月悩んで決めたといいます。
 
市川さん「やるならば有言実行しないと信用されない。でも一旦決めたら、毎日の作業は少し大変になるけれど、この積み重ねによって、普通なら大きな問題になるようなことも、事前の対処で小事で済むようになります。

社員が各々で考えて判断できるようにしたいなら、事前準備が必要です。

普段から社員とコミュニケーションをマメにとり把握するのは大事だし、情報も多く渡して、社員が動きやすいようにしておく。イレギュラーには対処するし、終わった後のフォローもする。

社長にしかできない仕事があって、それに集中する、社員に裁量権を持たせて自由にやってもらうためにも、大枠のルールは掴んでもらう必要がある。

大きな自由を得るために、社員に自分の考え方やものの見方を細かく伝える、日々の手間を惜しまないのです」

これらの考え方も、市川さんが先代の考えや視点を吸収していくなかで培ってきたものでした。

バトンを受け取りたいなら、今の自分は何に気づいていないかを自問する

市川さんが先代と一緒に仕事をする中、意見や考え方が違うこともあったそう。しかし議論をした末に、社長が最終決定した事には必ず従い、その中で最善を考え実行したといいます。

市川さん「先代は社長でも父親でもあるのでどんなに意見が違っていたとしても、親が子にとって悪くなるようなことをいうはずがない、という絶対的な信頼が大前提にありました。

だから意見が相違して腹を立てても、それは自分が社長という位置にいなくて、まだ見えてないことがあるからだと考えたんです。社長には何が見えていて自分には何が見えていないのか、気づいていないのかを推測して、社長の考えとすり合わせをしていきました」

市川さんが事業承継のセミナーに足を運んだとき、これから事業承継する方に現社長が合わせて伴奏する事が大事とよく聞いたそうです。しかし市川さんの考えはそれと違うといいます。

市川さん「よく社長の考えは古い、これからの時代ではやっていけない、社長がなかなかバトンを渡してくれないという話を聞くことがあります。でも会社が現在まで存続して、現在のポジションにあるのは、現社長のやり方によってですよね。

だからそのやり方は間違っていない。ただそのうえで、これから先は合っているかどうか分からないってことなんです。

事業承継はとくに親子間が多いですが、親と子というだけでやはり親は子どもに対して甘くみているんです。甘く見てくれている親を納得させることもできずに、バトンを渡してくれといっても、親は怖くて人生をかけた会社を継承できないのではと思うのです」

だから社長の考えや思いを受け入れて、どれだけその中から大事なことに気づけるか、そこからどんな行動をしてどう変化させていくかがすごく肝心。いったん全部受け入れてから、取捨選択をすればいいと市川さんは話します。

市川さん「相手への信頼があるから、傾聴の姿勢がもてるし、行動するときに一緒にがんばろうと思えるんです。信頼を育むには、自分は会社や社員にとって悪くなるようなことはしない、守る存在だと、普段からの言動や行動から示すしかないんですね。

だから引き継ぐ相手からも、周りの社員からもそう思われる存在に、自分がまずなることが大事だと思います」

楽しく仕事をして、人を喜ばせる。やってきたことは次世代の人たちが証明してくれる

市川さん「僕は、会社を無借金経営にすることや、社員たちが仕事を通して成長し、仕事が楽しくて仕方がないという会社にする、そして自分自身が仕事を楽しんでいる背中を息子たちに見せ続けることを目標にしています。

周りからあの会社、社員の人は素敵だねって思われるようになれば、仕事だって入ってくる。

僕の根幹の考え方は、すべて先代が教えてくれたもので、それに基づいて会社経営を行っています。

だから掲げている目標が実現したとき、それが先代のあり方の証明になり、僕個人としても、親父が見せてくれた背中は正しかったと言えるんです」

文)沖 明香

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