事業承継ストーリー

廃寺寸前のお寺を引き継ぎ新しい風を!地域の未来を見据える住職の挑戦

福井県の西端に位置する越前町にある大森山善性寺(ぜんしょうじ)は、浄土真宗のお寺です。二階に御堂がある特徴的な造りで、窓の外をみると青く澄んだ越前海岸が見渡せます。約220年もの長い歴史を誇る善性寺ですが、後継者が見つからず廃寺の危機を迎えていました。そんな危機を救ったのが、現在の住職である山田黙鐔(もくだん)さんです。

山田さんは2017年に善性寺の住職に就任しましたが、先代住職と血縁関係はなく、お寺ではめずらしい第三者承継を実現しました。なぜ山田さんが善性寺を引き継ぐことになったのか、お話を伺いました。

自然農に興味を持ち福井県に移住

山田さんは愛知県出身。お寺の生まれではなく、大学卒業後は東京で会社員として働いていたため、仏教とは縁のない生活を送っていました。福井県へ移住をしたのは2006年。農業に関心を持ったのが移住のきっかけだと話します。

山田さん「東京の会社を辞めた後、カナダへワーキングホリデーに行った経験があるのですが、一緒に住んでいたカナダ人が身の回りのものをなんでもDIYしたり、家まで自分で修繕したりする様子を見てびっくりしました。対する私は、薪ストーブの火おこしにすら苦戦してしまって。その経験から『自分で生きる力をつけたい』と漠然と思うようになったんです。じゃあ生きる力ってなんだろうと考えたときに、自給自足のイメージがあった農業に関心を持ちました」

カナダから帰国後、知り合いの紹介を経て、福井で自然農(耕さず除草しない、農薬や肥料を与えない農法)を行っている農家のもとを訪れます。住み込みで畑の仕事をしながら農業を学んだ山田さん。培った農業の知識を生かして、福井県内にヴィーガン料理を提供する農家民宿「いただき繕」を2014年にオープンしました。

僧侶になるきっかけはとある住職の法話から

善性寺の住職、山田黙鐔さん

いただき繕では、畑で採れた無農薬野菜を使用したヴィーガン料理の提供や、オーガニック商品を販売。しかし当時は、活動を周囲に受け入れてもらえないもどかしさを抱えていたといいます。

山田さん「当時はあまり、無農薬野菜やヴィーガン料理の良さを理解してもらえませんでした。隣の農家さんが農薬を使った栽培をしているなか、私は自然農で畑を耕していたため『おたくが農薬撒かないから俺の畑にも虫が来て困る』と怒られてしまうこともありました。一方、私が栽培した野菜を食べてくれて『おいしい』と言ってくださる方もいらっしゃいました。

やっていることは間違ってないはず。けれど、その良さが周囲に広く伝わらないもどかしさや、胸を張って『自然農やってます!』と言えないことに悶々としていました」

そんな日々を過ごしていたとき、たまたま近くのお寺で法要が行われる話を聞き、足を運んでみることに。そこで聞いた住職のお話が、山田さんが僧侶になるきっかけでした。

山田さん「住職さんが『東日本大震災の影響で福島の子たちが海に入れないため、子どもたちを呼んでサマーキャンプを開きました』とお話をされていてたのですが、聞いて感銘を受けました。まず、僧侶ってそんなこともできるんだと驚きましたし、その方の表情が自信に満ち溢れていたのが非常に印象的だったんです。そのとき、僧侶なら『相手も自分も喜べる』ようなことを自信を持ってできそうだと感じ、僧侶になりたいと思いました。

法要が終わったあと、話をされていた住職さんに『僧侶になりたいです!』と駆け寄りましたが最初は断られましたね(笑)。でも、その後交流を深めていくうちに僧侶になるための勉強をする機会をいただけたんです」

お経の読経や座学などを約1年間かけて勉強、最後に2週間の修行を経て、晴れて僧侶になった山田さん。今まで経験のない分野に足を踏み入れる怖さや、修行の辛さは感じなかったのでしょうか。

山田さん「修行はとても楽しかったです。普段はいただき繕の運営や農業のこと、色々考えねばならないことが頭の中を占めていましたが、修行中は『僧侶になる』というたった一つのゴールに集中すれば良い環境だったのでありがたかったですね。お経を唱えると、日々の雑念から解放されて、心が軽くなりました」

小さなお寺だからこそ。農業との両立で互いの思いが合致

僧侶になってしばらくは、勉強したお寺に所属してお勤めを行い、農業やいただき繕の運営も並行しながら過ごしていました。およそ半年後、山田さんのもとに一本の連絡が入ります。

山田さん「所属しているお寺の住職さんから突然連絡があり、『近くに、後継ぎがおらず困っている寺があるらしい。一度話を聞いてみてはどうか』と言われました」

早速その寺を訪れ、先代住職や檀家さんに話を聞いてみると、「後継ぎがいなくて困っている。このままでは廃寺になってしまう」という切実な思いを感じたそうです。

山田さん「正直、仏教界は敷居が高く、親族以外は後を継げないイメージがありましたが、『廃寺になるよりずっといい。ぜひ継いでほしい』と言われて安心しました。血縁関係もなく、かつ皆さんとは初対面だったにも関わらず、第三者の私に善性寺を託してくださることが、とてもうれしかったです。

また、皆さんには『ここは小さなお寺だから、あなたを住職の収入で食べさせることは難しい』と言われたのですが、それも私にとっては好都合でした。いただき繕の運営や農業と並行して住職をやりたい旨を伝えると、『それはなお良い』という話になって。まさにお互いの求めているものが合致したんです」

法要に落語を取り入れて、お寺に新しい流れを吹き込む

承継はスムーズに進み、2017年に山田さんは、大森山善性寺の新住職に就任することになりました。就任直後から「これは変えていかなければならない」と感じた課題があったといいます。

山田さん「法要自体が『ただやればいい』というように、形骸化していると感じました。お参りにも特に用事がなければ皆さん来ない状況でしたので、これでは私が継がせていただいた意味がないなと。ただ住職という肩書きにあぐらをかいて座っているだけではダメだ、”法要=つまらない”というイメージを変えること、そしてまずはお寺に親しんでもらう機会をもっと作ろうと思いました」

そこで山田さんは、法要のときに落語家を呼んだり、手品ショーを開催したりなど、従来の法要の概念を変えるような余興を準備したところ、大好評を博したそうです。

山田さん「結果的に、来てくださった方々に『すごく面白い』と喜んでもらえました。実は、法要はこうあらねばならない、というような具体的な決まりはないんです。新しい法要の形を喜んでもらえて、『善性寺に来て元気がもらえた』との声をたくさんいただき、これで良かったんだと実感できました」

他にも、お寺のなかで精進料理教室を開催、年始には餅つきを行うなど山田さんが企画する行事は多岐にわたります。

山田さん「こうした様々な活動ができるのは、先代住職が『この場所を好きに使ってくれ』と言ってくださったおかげでもあります。長く続く歴史、今まで善性寺に親しんでこられた人々の想いを大切にしつつ、お寺を今後も存続させていくためにも、新しい流れを取り入れていきたいです」

お寺の未来を考えることは、地域の未来を考えることにも繋がる

最後に、山田さんに今後の目標や、それに向けて取り組んでいることをお聞きしました。

山田さん「最近、近隣の空き家を空き家バンクを通して移住者に提供する活動をはじめました。善性寺周辺を含め、近隣地域は過疎化がすすんでいることが課題です。せっかくお寺でイベントを行っても、そもそもの人口が少ないこともあり、来てくださる人は限られてきます。結局、お寺の未来を考えるということは、地域の未来も考えなければいけない。そのためには近隣地域に住んでもらえる人を増やすような活動をすべきだと思い、動き始めました」

今は既に2件の移住者が決まっていて、まだ微々たる数ですが、継続していけば大きな成果になります。近年は都心から郊外への移住ニーズが増えてきていると思うので、関心のある方にうまくマッチングができれば良いですね」

さらに将来的には、移住してくる人の「職業」を創出するきっかけも作りたいと話します。

山田さん「田舎には仕事がない、というイメージがありますが、そんなことはありません。実際、後継ぎに困ってらっしゃる方もいるし、空き地を利用すれば農業だってできます。この地で新しい仕事がしたいという方には、情報提供を含め、積極的に協力していきたいと思います。

いずれは、移住してきた方たちがひとつの輪になって、おたがいを支え合いながら生活できるようになれば理想ですね。これからも住職を続けながら、地域の活性化に向けて、取り組んでまいります」

住職という肩書きにとらわれず、地域の未来を見据えた活動に奔走する山田さん。その取り組みに、今後はより一層の注目が集まりそうです。

文・近藤ゆうこ

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