安政2年(1855年)から現在まで、166年もの歴史を紡いで酒造りを行ってきた「白瀧酒造」。雪国ならではの豊富な清水をもとに、良質なお酒を世に送り続けてきました。名前のとおり「水」のやわらかさを追求した「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」は、新潟のみならず全国の日本酒ファンから愛される定番の銘柄です。
江戸、明治、大正、昭和、平成、そして令和へと絶えることなく受け継がれたのれんを守っているのは、7代目当主の高橋晋太郎さん(写真左)。そして、就任当時27歳の若さで7代目杜氏に大抜擢された松本宣機さん(写真右)です。
2006年に7代目を承継した高橋さんは、お酒造りだけでなくスキンケア商品の販売や世界展開など、新事業に日々取り組んでいます。そして7代目杜氏の松本さんも、就任後に「白瀧SEVEN 純米大吟醸」を手掛けるなど、精力的に酒造りに勤しんできました。
老舗の看板を守るだけでなく、伝統を抜き去れと言わんばかりにチャレンジを続けるお2人に話を伺いました。
酒蔵業界では「若い」とされる29歳での承継
29歳で7代目当主となった高橋さん。酒蔵業界では若いと言われる年齢での承継は「商品の顔となる社長がターゲット層に近い方が良い」という先代の判断もありました。当時はどこの会合に出ても最年少だったと言います。
卒業後は一度他の職種に就職していたこともあり、会社を継いだときは酒造りに関してほぼ素人。一人前になるために目まぐるしい勉強の日々でした。
さらに高橋さんが事業を承継した2006年は、白瀧酒造を支えるブランド「上善如水」の売上が下がっていた時期。積極的に新商品や既存ブランドなどの改革に注力し、社員みんなで目標に向かって団結して取り組みました。そして、3年かけて「全量純米化」に踏み切ったことから売上は右肩上がりに転じました。
日本酒の魅力を若い世代伝えていくために
高橋さん「戻ってきて日も浅い頃は、業界のしきたりも分からず本当に大変でした。でも、積極的に社外に出て失敗しながら経験したことに何よりも学びがありました。
当時は自分より年上のベテラン社員ばかり。最初は気を使ったり、少しやりづらさを感じていました。しかし目標を持ち、より良い商品を作るために挑戦しようという社員ばかりでとても前向きな雰囲気でしたね。自分からオープンに話していくことで、次第にコミニケーションには苦労しなくなりました。
酒造りに関しては周りに信頼を寄せて任せています。商品開発・企画では、各部門の若手の人を中心にいろんな意見を出し合っています。各部門が独立し各自で考えてもらい、私からあれこれ細かい指示はしないです。みんなで作り上げた商品という意識が生まれるので、みんなのモチベーションにもつながります。最終的なところは私が責任をとるので、各々が挑戦する文化や環境づくりを大切にしています」
伝統的な酒造技術を高め、新しい価値を創り出す
2009年からは化粧品にも挑戦しています。日本酒を飲むのにハードルを感じている人たちへ、これまでと違う切り口で日本酒に興味を持って欲しいという想いからでした。
高橋さん「昔から“杜氏の手は白くてきれい” “酒風呂に入ると肌がすべすべになる” などと言われるくらい、酒粕やお酒は肌にいいとされています。スキンケア商品だったらたくさんの人に知ってもらえるきっかけになるのではと思い試みました。
私たちは、伝統的な酒造技術を高め新しい価値を創り出すチャレンジを常に続けてきました。その中で、酒造りの発酵技術を基礎化粧品の開発に活かすことはできないかと考えたのです」
湯沢町は観光地なので、お土産で買いやすいような商品からスタート。評判が広がり一時期は東京の免税店などで販売され、「上善如水」の語源がある中国人観光客からも大きな反響がありました。
27 歳で酒造りの最高責任者である杜氏に抜擢
一方、同じく若くして7代目杜氏に就いた松本さん。27歳という若さでの抜擢は、酒造業界でも話題になりました。
松本さんが生まれたのは、「上善如水」が発売されたのと同じ1990年。進学して野球を続けるか悩むも、地元の伝統産業である日本酒造りに魅力を感じ白瀧酒造へ入社しました。
酒造りを意欲的に勉強し多くの経験を積んだあと、入社9年目に酒造りの総責任者である杜氏に就任。酒造りの知識や経験はもちろん、リーダーとしての人間力も買われての大抜擢でした。
松本さん「入社以来いろいろと経験させてもらい前杜氏と一緒に仕事をする中で、もしかすると継ぐことになるのではと予感はしていました。
心の準備も少しはできていましたが、いざ就任となるとこれだけの種類のお酒を抱え社員がたくさんいる中で、周囲の期待にプレッシャーを感じました。
また、30年続いてきた『上善如水』の銘柄を背負うことへの不安もありました。」
就任後は紆余曲折ありながらも前任の杜氏や周囲のサポートを受け、今までのやり方を踏襲しながら堅実に伝統の酒造りを続けてきた松本さん。
そんなとき、松本さんの感性を生かした新しい酒造りの話が持ち上がりました。不安もありましたが「自分を信じてやりたいように」という前杜氏の後押しもあり、新しい酒造りへの挑戦が始まりました。
そうして完成した「白瀧SEVEN 純米大吟醸」は、フランスで開催された日本酒コンクール「Kura Master 2019」で「純米大吟醸酒部門 プラチナ賞」を受賞。720銘柄中TOP14にも選出されるほどの実績を残しました。
日本だけでなく世界にも日本酒の魅力を知って欲しい
白瀧酒造の商品は、現在日本国内だけでなく海外にも販路を広げています。現状に甘んじることのない2人の挑戦は、これからも続きます。
高橋さん「海外でも若い人を中心に日本酒を飲む人が増えています。日本だけではなく全世界の人に飲んでもらい、おいしいと言ってもらえるような酒造りをしていきたいですね。
日本酒はまだまだ若い年齢層の方には馴染みが薄いと感じています。次の世代の人たちにも飲んでもらえるようになっていかないと日本酒は後世に残っていかないでしょう。なので日本酒の入り口になること、日本酒にトライしやすい商品・ブランドを作っていくことが我々の使命だと思っています」
松本さん「上善如水もそうですが、白瀧酒造にしかできない商品や価値をお客様に提供していきたいです。そのためにはチャレンジ精神を忘れず、品質第一で酒造りに向き合っていく中で白瀧酒造の個性や特徴を磨いて行けるように頑張ります」
雪国で長い間受け継がれてきた白瀧酒造の酒造り。伝統のバトンをさらに価値のあるものにして次の世代に渡すべく、社員一体となった挑戦がこれからも楽しみです!
文・手嶋芽衣